22.「会長、お守りします! 私を盾に!」
22.雪合戦
バレンタインの翌日、朝起きて部屋の窓から外を見ると、一面雪景色だった。これならいけるか。家の冷蔵庫からニンジンを取り出す。あとはじゃがいもと、ネギと。よくわからんな。他に何がいるんだ。適当に、家にあった野菜をスーパーのビニル袋に包んでカバンに入れる。
雪は授業中も降り続き、放課後になっても降っていた。中庭に雪が積もった。
放課後すぐの生徒会室でノアと黒石を呼ぶ。
「ノア、雪だるま作ってこい。黒石もついて行ってやれ。中庭だ」
黒石がきょとんとする。
「雪だるま、ですか」
「ああ」
「はぁ……。仕事がありますが、よろしいですか」
「これも仕事の一環だな。暗くならないうちに行ってさっさと作ってこい、ほら」
ノアにビニル袋を渡す。受け取って中をのぞき込んだノアが、嬉しそうに声を上げた。
「ニンジンですね、会長! 行ってきます、作ってきます!」
そのまま回れ右して駆けだそうとするので、腕をつかんで引き留める。
「ノア、コート着ろ。マフラー巻いて手袋して、スカートの下にジャージでも履け。風邪ひくな」
「あ、ええと、コートとマフラーと手袋とジャージですね、はい。では黒石くん、お先に中庭へどうぞ。私もすぐに参ります」
ノアが走って生徒会室を出ていく。
「会長、雪だるまとは……ほんとに仕事ですか?」
黒石が怪訝そうに確認する。あえてそれに返してやらず「とにかく行ってノアの言うとおりに作ってこい、ひとつ出来上がったら呼べ」と命じた。
しばらく経ったころ、黒石から携帯電話に連絡が入った。
『雪だるま完成しました』
「おっけ。見に行く」
一言返して、俺もコートとマフラー、手袋を身につけて中庭へ行く。
雪が積もって白くなった丸い石のオブジェの上に、大きな雪玉がひとつ。ニンジンが鼻、目がジャガイモ、口がネギ。頭の上にはなぜか白菜が載っていた。これは何だ。王冠のつもりか。
ノアらしいポンコツな作りに笑いつつ、ふたりに言う。
「よくできた。雪だるまの両脇に並べ」
携帯電話のカメラを構えて、画面に雪だるまとノア、黒石を入れる。
「黒石、笑え。笑顔な。ピースサイン。ノアはもうちょい雪だるまから離れろ。雪だるまが隠れてる。左に寄れ。じゃ、撮るぞ。さんにーいち」
シャッターを押して写りを確認する。よし。
「仕事終わり。戻るぞ」
携帯電話をコートのポケットに入れて生徒会室に戻ろうとすると、ノアに後ろからしがみつかれた。
「会長、まだまだ作ります、雪だるま作ります! 会長も作りましょう!」
はしゃいだ声と笑顔でせがまれる。しょうがないなこいつは。子どもか。
でもまぁ、いいか。生徒会も順調だし、一日ぐらい。
中庭の雪は膝の半分くらいの高さまで積もっている。
「じゃ、全員呼ぶか。ノアと黒石は雪だるま作ってろ。すぐ戻る」
建築家の安西さんから届いた原稿には中庭設計裏話がふんだんに盛り込まれ、夏に暑くてごめんね、という謝罪が入っていた。そして『冬になって中庭に雪が積もったら、丸い石の上に雪玉を載せて、ぜひ大きな雪だるまを作ってね。』という一文で締めくくられていた。お礼を込めて、安西さんにこの写真を送るつもりだった。
―――あんなオブジェ作って、意味ないよな。中庭作ったヤツ、何考えてんだろうな。有名な建築家だなんて言ったって、俺ら一般人にはよくわかんないよな。
この機会に、そんな一部生徒の声をひっくり返すか。
雪をかき分けて校舎に戻り、放送室へ向かう。校内放送のアナウンスをかけた。
『生徒会長の滝川です、こんにちは。雪が積もりました。お時間のある方は中庭で雪だるまを作りませんか。先輩方も、受験勉強の息抜きにぜひおいで下さい。雪合戦しましょう。風邪をひかないよう防寒対策をなさってくださいね。生徒会メンバー、今日は全員仕事中断。遊ぶぞ。では、みなさま、中庭でお待ちしております』
放送を切り、再び中庭へ行く。
ノアと黒石は二つ目の雪だるまを作っていた。
俺も手伝って完成させる。さっきのポンコツ作よりは多少まともか。
「よし、並べ」
写真を撮ろうとすると、黒石が俺の携帯電話に手を伸ばした。
「俺、撮ります。会長どうぞ」
「あ、そう」
まぁ、インタビューに行ったの俺とノアだしな。それもいいか。黒石に写真を撮ってもらう。
女子連中が現れ、ノアの作った雪だるまをみて、あちこちで雪だるまを作り始めた。その様子も写真に収める。
中庭に続々と人が出てきた。けっこう暇なやつがいるんだなと思っていると、頭に雪玉をぶつけられた。雪とは思えないほど痛い。誰だ。振り返ると山本だった。
「お前なぁ。昨日の恨みか。腹いせか」
雪玉をゆるめに作って応戦する。と、すぐにあちこちから雪玉をぶつけられた。
男子も女子も、生徒会長に堂々と攻撃できるというのが嬉しいらしく、次々に雪玉を投げてくる。中庭に出てきた沢野や水原、生徒会の一年まで投げてくる。
おいお前ら。さんざん面倒みてやっただろうが。この仕打ちはなんだ。
「三浦、味方しろ! 俺の後ろを守れ!」
副会長の三浦をなんとか味方に付け、飛んでくる雪玉を手ではねのけて反撃する。
しかし囲まれた。なんだこれは。昨日告白を断りまくったツケがきたのか。全方位から雪玉に襲われて全身雪まみれになる。マフラーの隙間から雪が入り込んでくる。冷たい。
せっせと雪玉を作って手当たり次第に投げ返すが、一玉投げる間に数倍の雪玉が返ってくる。くそう分が悪い。
「おいこら、誰か味方になれ! 沢野! 水原! 黒石!」
呼ぶとようやく、笑いながら三人とも味方になってくれた。五人で五方面に向かって応戦していると、小柄な人影にタックルされた。
ああ?
「会長、お守りします! 私を盾に!」
ノアが真正面から俺に抱きつく。
盾にって、おい。雪が吹雪かというほど降ってきて視界不良だ。俺を目がけた雪玉が続々とノアにあたる。
「ほら、離れてろ。やられるぞ。しかもお前にくっつかれてると応戦できん」
まったく考えの足りないやつだ。笑いながらノアの頭をなでる。ノアが顔をあげた。目が合って、その至近距離にぎくりとした。
互いにコートを着ているし体の感触なんか全くわからない、それなのに。
動揺した。このポンコツに。酔ってない。酒は入ってない。
どういうことだ。
「ノア、離れろ」
とにかくまずい。慌ててノアを引き離す。
「応戦だ、応戦。お前は俺の後ろに隠れてしゃがんでろ。雪玉作って俺によこせ」
頭を切り換えて命令し、ノアを後ろに守る。
「会長、雪玉です!」
「はいよ。サクサク作れノア! 質より数重視、スピード上げろ!」
雪まみれになりつつ、敗戦の色濃く、日が暮れるまで雪合戦をしていた。




