21-2.「ノアって黒石のことどう思ってんの?」
21-2.バレンタイン
夜七時半、ようやく女子連中の受付を終え、菓子の山に苦戦しながらどうにか生徒会室の扉を開ける。打ち合わせテーブルの上に、どっさり菓子類が積まれていた。その量におののく。
ため息をついて、抱えてきた菓子をテーブルの上の山に足し、備品棚からポリ袋を取り出す。何枚いる。二枚か三枚か。
菓子の山に向き合ったとき、生徒会室の扉が開いた。ノアと黒石だった。
「お前ら仕事終わった?」
「はい、終わりました」
聞けば黒石が答える。よし、それならば。
「じゃ、私用で悪いけど手伝って。生ものはこっち、賞味期限が長い既製品はこっちに入れて。ラッピングやら紙袋は捨てるからこっちな」
中身を確認しながら、三人でガサガサ仕分けていく。
「会長、すごい量ですね」
黒石が言うので脅してやった。
「会長効果だな。お前も来年こうなるぞ。覚悟しとけ」
「俺は会長ほどモテませんよ」
黒石が肩をすくめる。
「へぇ。お前今年何個もらったの?」
「ええと……二十前後ですかね。ほぼ義理ですが」
二十か。確かに去年の俺より少ないな。
紙袋からクッキーらしきものを取り出して、ノアがのんびりと言った。
「会長も、黒石くんも、かっこいいですから。人気者なのはよくわかります。はい」
黒石が無言になった。さっきより手早く菓子を仕分けていく。
若干顔が赤いような。ははぁ。やはり黒石、妙な趣味か。このポンコツを好きなのか。
「黒石、かっこいいってよ。良かったな」
茶化すと、途端に黒石が反論した。
「違います。会長のついでに言われただけです」
ムキになった様子がおもしろいのでさらに突っ込む。
「へーえ。あ、そう。ノアって黒石のことどう思ってんの?」
「黒石くんですか。そうですね、ええと」
ノアの手が止まるので会長として命じる。何事も訓練だ。
「ノア。話しながら仕分けろ。二つのことを同時進行できるようになれ」
「は、はい。お話しながらお仕事ですね。はい」
ノアが再び菓子に手を伸ばす。
「ええと、ええと、黒石くんですね。黒石くん。黒石くん……」
同時進行が難しいのか、ノアが黒石の名前を繰り返す。黒石がさっきより赤くなって早々とギブアップした。
「会長、やめてください。乃亜さん、言わなくていいから」
「あ、ええと、この場合はどちらのご指示を聞いたら……会長が黒石くんより上なので、会長のご命令を優先ですね。はい。ええと、黒石くんのことですね。黒石くんは、ですね」
おお。このポンコツは指示命令の優先順位もつけられるようになったか。
さすがに黒石がかわいそうになったので止めてやる。
「ノア、ストップ。言わなくていい。菓子をさっさと仕分けろ」
「あ、はい。言いません。仕分けます。はい」
ノアが慌てて仕分けに専念する。
そんな調子で菓子を分類し終えたところで、ノアが自分のカバンからビニル袋を取り出した。
「会長、あの、お荷物になってしまいますが、私からもバレンタインです」
はぁ。
ビニル袋を受け取ってのぞき込む。妙な物がサランラップに包まれて入ってた。
ゴルフボールくらいの白い固まりが三つ。ひとつつまんでみると、柔らかい。
「……これ何? お前が作ったの?」
このポンコツが作った物など食べたら腹を壊しそうだ。
「物としましては、マシュマロですね。マシュマロをレンジで溶かしまして、レーズンと混ぜて丸めました。母と一緒にですね、作りました。我が家直伝のお菓子です」
あの料理上手なノア母と一緒に作ったか。それならまぁ安全か。
「へぇ。黒石の分は?」
「あ、ええと、すみません、みなさんの分もと思ってたくさん作ったのですが、うっかり家族で食べてしまいまして、それだけしか、なくなってしまいました」
俺はひとつだけ取り出して、ビニル袋ごと残りをノアに返す。
「黒石にやれ」
「あ、はい、では、黒石くん、もしよろしければどうぞ。お気に召すと良いのですが」
ノアが黒石にビニル袋を差し出す。黒石は冷静な顔を装い、受け取っていた。
昼食抜きで腹が減っていたので、その場でサランラップをむいて囓る。
なるほど。マシュマロのなかにレーズンが隠れている。腹持ちが良さそうだ。
「うまいな、これ。気に入った」
「そうですか、ありがとうございます。嬉しいです」
ノアがにっこり笑う。その日は結局三袋のポリ袋を持って、俺は学校を出た。
家に帰ると、夜のニュースで、明日は大雪になると天気予報が流れていた。




