19.プレゼントのお返しは
19.お返し
冬休みを終え、三学期が始まる。
三学期はまた生徒会が忙しくなる。体育祭ほどではないが、通常業務に加え、卒業文集作成、今年度の収支報告まとめ、来年度の予算編成、三年生の送り出し会、次期生徒会長選挙もろもろ、各種仕事が目白押しだ。
始業式と授業を終えた放課後の生徒会室で、ノアを呼んだ。
「これやる。本のお礼だ」
包装もなにもしていない、抜き身の腕時計を渡した。
ノアがきょとんとした顔をする。
「は……、はい、ええと、お礼ですか。本のお礼ですね。はい。ありがとうございます。いただきます。嬉しいです」
ノア家に泊めてもらった翌日、ノアから「クリスマスを過ぎてしまいましたが、会長へプレゼントです」と、洋書をもらっていた。俺はノアへの贈り物など何も用意していなかったので、冬休み中に適当なお返しを物色していた。
「その時計で、しっかり時間感覚を身につけろ。仕事中は常に時間を意識しろ」
「は、はい。時間ですね。この時計をみるようにします。はい」
ノアがその場で腕時計をつける。
「かわいらしいですね。ピンクです。素敵な色です」
腕を目の前にかざして、嬉しそうに笑った。淡いピンクのベルトの腕時計を選んでいた。時刻が狂わないように電波式だ。
「あの、会長、私が差し上げた本は、お気に召しましたか」
「ん、読んだ。勉強になった。英語もあんなふうに韻を踏むんだな」
「はい。私の大好きな本です。主人公は会長に似ています」
ノアが笑顔になる。ノアにもらった洋書は児童書だった。俺も昔、日本語版を読んだことがある。魔法使いが絨毯に乗ってお姫様を助けに行く、そんなファンタジー小説だ。内容は知っていたものの、日本語版とはずいぶん表現が違うんだなと驚いた。児童書にしては分厚く読むのに苦戦したが、なんとか正月中に読み終えた。
しかし主人公に似ているとは。
「俺は魔法を使えんぞ」
笑って答えると、ノアは真面目に返した。
「似ています。会長は魔法使いのようです。お仕事ぶりが魔法のように見えます」
「へぇ」
お前の読心術のほうがよほど魔法っぽいがな。
「会長、ちょっと見てー」
書記の沢野が共有パソコンの前で手を挙げる。
「はいよ」
自席を立ってさっさと沢野の元へ行く。
その日の夜七時の定例会で、生徒会メンバー全員を集めた。
「卒業文集作成は沢野、予算関連と三年生の送り出し会は水原、生徒会長選挙は三浦がリーダーだ。それぞれ部下を指示して進めてくれ。ノアは俺の直属から黒石の下に移す。黒石とノアは居残り」
はーい、とそれぞれが返事をする。
各自まだ仕事に余裕があるので帰宅し、俺と黒石とノアの三人だけが生徒会室に残る。
「ノア、ノート」
「はい」
打ち合わせテーブルで信号ノートを開いて、黒石に使い方を説明する。黒石は真剣に聞いていた。
「ノアは今後、ノートを黒石に見せて報告しろ。黒石は青か黄色の時点で各仕事のフォローに回れ。危ないのは沢野のチームだ。文集作業が一番手こずる。赤が出たら、黒石が俺に報告な。俺がフォローする」
「わかりました」
黒石が頷く。
「よし、解散。おつかれさま」
ノアと黒石を帰して、まだ残っていた自分の書類仕事にとりかかる。
書類に判を押していると、呼ばれた。
「会長、あの」
「ん? 帰ったんじゃないのか」
「は、はい、ですが、あの、私は……私は黒石くんと働くのですか。会長と一緒にはお仕事できないのですか。クビ、ですか」
俺の机の前に立って、ノアが泣きそうな顔をしている。
「ああ、クビとかじゃないぞ。俺は三月で生徒会を引退だ。次の会長はおそらく黒石だ。四月から、お前は黒石と組んで仕事だ。だからまぁ、その訓練だな。黒石もお前も、今のうちにお互いに慣れろ。そしたら文化祭も体育祭もスムーズにいく」
「はい……、ですが、ですが、私は、会長と一緒にお仕事がしたいです。会長のご指示をいただかないと、私はきっと上手に働けません。またみなさんに、ご迷惑を、かけてしまいます」
ノアが俯く。
「大丈夫だ。最初は多少不慣れかもしれないが、黒石もお前をうまく使えるだろうから安心しろ。これからの仕事は体育祭ほど忙しくないから、多少ミスしても挽回できる。心配ない」
ノアは俯いたまま、小さく「はい」と言った。
しょうがないなこいつは。頭をなでようと手を伸ばしかけて、やめた。クリスマスの夜のことが浮かんだ。声をかけるにとどめた。
「ノア。大丈夫だ。もし不安だったら黒石に言え。俺は黒石から報告もらうから」
ノアは消えるような声で「はい」と返事をして、帰っていった。




