14-1.体育祭効果と、ノアのインタビュー
14.体育祭効果とノアのインタビュー
怒濤の体育祭が終わり、生徒会には平穏が戻った。
体育委員会との連携しての来年への改善点まとめ、観客からのアンケート集計、予算報告など、体育祭関連の残務は、体育祭が終わって一ヶ月で、すっかり片づいた。
「手が空いてる方はお願いしまーす」
バケツを持って生徒会室に入ってきた黒石が呼びかける。
学校内の自動販売機の、ペットボトルキャップの回収。生徒会は、そんなこまごまとした仕事もやっている。
生徒会室の真ん中の打ち合わせテーブルに、色とりどりのキャップが山積みになる。
キャップを集めてNPO法人に送ると発展途上国の子供用のワクチン代になるのだが、キャップもそのままではNPO法人に提出できないので、一度洗浄し、飲料メーカーのキャンペーンなどで貼られたシールを剥がす作業がいる。
沢野や水原他、生徒会メンバーが打ち合わせテーブルの周りに集まって、キャップに手を伸ばす。シールを剥がし終えたキャップをポリ袋に投げ込みながら、のんびり噂話などしている。
「赤組応援団の佐々木くんと伊藤さん、別れちゃったらしいよぉ」
「え、嘘。体育祭でくっついたんじゃなかったの? 早くない?」
「体育祭効果が切れたみたいねぇ」
「あはは、毎年そんなカップルが出るね。じゃ、ハチマキは今頃ゴミ箱か」
「いやーん、もったいなーい」
俺は俺の仕事があるので、自席で書類に判を押しつつ、なんとはなしにそんな話を聞く。
体育祭効果、なぁ。
山本にやった俺のハチマキは今頃どんな有様になっているのか。結局何に使われたのか。やはり呪いか。
布きれ一枚、別に気にしないが、山本は体育祭以来、何かとつっかかってくる。ケンカにならないようにあしらうのがいい加減、面倒くさい。
しかも、体育委員会や当日ボランティアの女子に続々と告白された。俺の体育祭での仕事ぶりを認めてくれたらしく、それは嬉しいが、「ありがとうでもごめん」と全て断った。なんか違う。本気の恋愛じゃないだろ、一時的に惑わされてるだけだろお前ら、という気がしてならない。体育委員長の吉岡も同じようなことを言っていた。体育祭効果だな、確かに。
自席の筆立てに目をやる。お守りとして、ノアの青いハチマキを筆立てにぐるぐる巻きにして結んでいた。私生活では、告白の呼び出しに応じたり、ただの雑談っぽいメールに返信したりと、女子に迷惑をかけられっぱなしというか、やたら時間をとられているのだが、このお守りのおかげなのかなんなのか、最近の生徒会は気味が悪いほど順調だ。
このままなら、定期試験前は、生徒会もきっちり休みにできるかもなぁ。
野球部とサッカー部の部活時間延長届けに判を押して決済済み箱に放り込み、会長専用パソコンでメールを開く。
新着が二通。差出人と宛先をみて、沢野に声をかける。
「沢野、中村さんと安西さんからメールきてるぞー」
「あ、はーい」
沢野が返事をして、共有パソコンに向かう。
宛先は沢野だが、俺にもCCが入っているのでメールを開く。カンボジアのNGO代表、インタビューをさせてくれた中村さんのメールを見て、目をみはった。
『上田さんの記事を採用してください。私の気持ちがそのまま書かれていて、驚きました。ぜひ全校生徒のみなさんにも伝えて欲しいです。修正点は添付ファイルをご覧下さい、云々』
「ノア!」
「は、はいっ」
呼びつけると、ノアがキャップを置いて駆け寄ってくる。
「お前の記事が採用になった。中村さんのインタビューだ」
「は……、ええと、それは、どういうことでしょうか。黒石くんも書いたと言っていたので、私の記事は却下されたものと思っておりましたが」
ノアが俺をみて不安そうな表情を浮かべる。
そうかノアには言ってなかったな、と、簡単に説明する。
体育祭の後、黒石が書き起こした記事はインタビューの王道、聞き手と話し手が別れて会話する形式で、中村さんの話から要点を拾って書かれていた。一方、ノアの記事は、ノアが感じ取った中村さんの心情が溢れて、まるで本人が書き下ろしたエッセイのようになっていた。
二人の記事は、あまりにも方向性が違った。ノアの記事を中村さんに見せれば、「こんなことは言っていない」と、怒りを買う可能性すらあった。
しかし、体育祭仕事で見せたノアの勘の良さを信じて、沢野と相談の上、黒石とノアの記事、両方を中村さんに投げた。どちらがいいかと、中村さんに直接聞いた。
その結果が、これだ。
「すごいな、お前!」
ノアの頭をなでる。
「は、はい、ありがとう、ございます。嬉しいです」
「中村さんから修正指示が来てるから、パソコンでメール見て直せ。でき上がったら俺に見せろ」
「あ、ええと、修正ですね。はい、やります。しかし、キャップのお仕事も」
ノアが打ち合わせテーブルを振り返る。
「ノア。優先順位はどっちが上だ」
「はい、そうですね、ええと、記事が上です。私がやるべきお仕事です。キャップは、申し訳ないですが、みなさんにお任せを」
「だろ。そしたらお前は、記事修正。急ぎじゃないから落ち着いてやれ」
「はい」
ノアが頷いて、共有パソコンに向かう。その途中で、黒石に声をかけた。
「あ、あの、黒石くん、黒石くんの記事がですね、せっかく時間をかけて書いてくれたのに、ですね、申し訳ないです。あの、偶然だと思うのです、たまたま、私の記事が、中村さんのお気に召しただけだと」
あたふたと黒石に謝っている。黒石がノアに向けて笑った。
「謝らなくていいよ。上田、すごいじゃん。良かったじゃん。俺、あんな記事書けないよ。上田の記事読んで、ほんとにすごいなと思ったよ」
「そう、ですか。ええと、そうですか。あの、ありがとう」
ぺこりとノアが黒石に頭を下げる。黒石がノアの頭をなでようと手を伸ばしかけて、やめた。
「いいからさ、記事修正しなよ。でき上がったら会長に見せるんだろ」
「はい、修正して会長に提出ですね。はい」
ノアがパソコンに向かう。
そのやりとりを聞いて、俺は内心笑う。
黒石が、さりげなくノアに仕事内容を確認させた。記事を修正したら会長に見せろ、と念を押したのだ。黒石、やるな。お前ならノアを使える。俺が引退しても安心だ。
期間限定でノアには副会長ポジションを割り当てていたが、これなら、来年は黒石会長のノア副会長体制もありだ。どこかのタイミングで、黒石にノアの信号ノートの使い方を教えるか、と、考えた。




