告られた綾乃
「どうして?」
佐野は万引き歴を告白した。二度捕まったことも言った。鰻の代金を立て替えてもらった件は、あえて言わないでおいた。
「どうして私に言うの?」
「木下さんは内履きをくれました。僕は盗んだのに。盗んでないことにしてくれました。何か違うと思いました。何も知らない木下さんのプレゼントを持っているのは違うと思いました」
「そうなの。真面目だね」
「真面目じゃないです」
「真面目だよ。超真面目だよ、佐野君は」
「真面目な人は万引きしないです」
「真面目と万引きは関係ない。佐野君は仕事が丁寧だし、利用者さんに礼儀正しいし、いいことだよ。すごくいいことだよ。佐野君ぐらい真面目な職員はいないよ」
「全部木下リーダーのお陰です」
その時、乳母車を押す若い母親が二人の目の前に腰かけた。綾乃は赤ちゃんに手を振ったり、お母さんにお辞儀したりし始めたが、
「ねえ、佐野君。佐野君は子供が好き?」
「僕ですか。めっちゃ好きですよ」
「ふうん。たくさん子供欲しい?」
「たくさんたくさん欲しいです」
「へえ。ねえ、どうして介護やろうと思ったの?」
「特にやりたいことがなかったんで。専門学校いきました」
「へえ。なんて学校?」
「東京実践福祉学校です」
「うっそー。後輩じゃん。わたしも東践だよ?」
「まじですか?」
「信じられない」
「びっくりしました」
「じゃ、貝塚先生の授業うけた?」
「受けました受けました。介護過程とか。めっちゃイジられました」
「佐野君が貝塚先生にイジられてるとこ、目に浮かぶ!」
「木下リーダーもイジられたほうですか」
「もういやだ。なんかわたし泣きそう」
「え?」
綾乃は赤ちゃんにバイバイしながら、
「聞いたことは胸にしまっておくね。あと、今日はごちそうになったけど、でも、今回だけにしようね。公私混同と思われちゃうから。でも嬉しかったあ。ありがとう」
「ダメでしたか。差し入れ」
「ダメってことはないけど、変に思われるかも知れないでしょう。だからここで会うのよ?なるべく公共の場所で。マックで会ってるところ見られたらデートしてると思われるよ。亮太君だって迷惑でしょう?」
「そんなことないです」
「奥さん物凄い焼きもち焼きだし、困るでしょう?」
「ちがいます」
「そうだったそうだった。奥さんじゃない。でも乗せて行ってあげないからバスで帰んな」




