風花vs綾乃
「木下さんですか」
風花は怖気づいていた。亮太に聞いたことと話が違う。
何が同じぐらいなものか。自分はハイヒールを履いているのに、まだ向こうが高い。
亮太から聞くうち威圧系のキツイ顔を想像したけれど、典型的な癒し系だ。優しそうな目つきは、甘えん坊の亮太をいちころにしてもおかしくない。
それに、「わりと」どころではない。
こうなると風花も戦闘モードだ。
「わたし、佐野の妻です」
「え?」
「内縁です」
「はあ」
「これ、見覚えがありますか」と紙の手提げ袋を開いて見せる。
「返しに来てくれたんですか?」
「佐野がとったこと、報告しましたか」
「いえ。大丈夫です」
「はい?」
「心配なさらなくて大丈夫です。ご安心ください」
「何か勘違いしてません?」
「勘違いというと…」
「佐野はあなたの私物を盗んだんですよ?」
「はあ」
「届け出ないんですか?」
「でも、返してくれるんだし」
「はい?」
「高い物でもないし」
「お客さんの財布をとったらどうするんですか?報告しないんですか?」
「でも、私の物だし」
「そういう話ではないと思います」
綾乃は困ってしまった。例の芝居ではなく、心底困った。困った様子は、癪だけれど風花が見てもチャーミングだ。
「佐野と関係でも?」
「いいえ。ありません。絶対に」
「なぜあなたのサンダルをとるのか、知ってますよね」
「それはご本人から聞きました」
「あなたはどう思ってるんですか」
「私は…」
返す言葉が思い浮かばないところへ、いい塩梅に綾乃の携帯がなった。
「すみません。ちょっと仕事のことで」
風花はそこへ紙袋を置いて立ち去った。




