第0話 プロローグ
初めての作品で、手探りで執筆しておりますので内容において、度々改変などがされております。
ご不便をお掛け致しますが、温かい目でご覧頂けると幸いです。
毎朝会社へ出勤し、仕事を終えて帰宅する。
会社では中間管理職として部下をまとめ、上司と部下の板挟みに耐えながら働く日々。そこそこの給料をもらい、家には結婚二十年目になる愛する妻と、高校生の息子が二人いる。
若い頃は理不尽な叱責や厳しい指導に耐えながら成長し、今度は自分が後進を育てる立場になった。
ハラスメントに苦しんだ経験があるからこそ、部下には同じ思いをさせまいと気を配る。しかし、それでも人を育てるというのは難しい。
それでも――
「継続は力なり」
その言葉だけを信じて、二十二年間愚直に働き続けてきた。
十年前には、勢いと覚悟だけで三十五年ローンを組み、小さいながらも念願のマイホームを建てた。
決して楽な人生ではなかった。
だが、家族に恵まれ、仕事も安定している。
少し無茶はしているものの、どこにでもいる平凡な男。
それが――
三神 匠、四十四歳。
そんな男の人生が、大きく変わる日がやって来た。
◇
ある夜。
匠はバルコニーで煙草をふかしながら、夜空を見上げていた。
冷たい風が頬を撫でる。
住宅街の明かりをぼんやりと眺めながら、ふと昔のことを思い出した。
「小さい頃は、何でもできると思ってたな……」
誰だって子供の頃は特別だった。
漫画やアニメの主人公に憧れ、強くて格好いい存在になれると信じていた。
勇者。
ヒーロー。
選ばれた人間。
そんな存在に本気で憧れていた。
大人になった今となっては、さすがに現実を理解している。
自分は世界を救う勇者ではない。
会社と家庭を往復する、ただのサラリーマンだ。
だからこそ、その憧れの続きを求めるように、寝る時間を削って漫画やアニメを楽しみ、物語の主人公たちに感情移入していた。
勇者が魔王を倒す物語など大好物である。
「まぁ、そんな特別な存在になれるわけないよな……」
苦笑しながら煙草の煙を吐き出す。
平凡な人生。
平凡な幸せ。
それで十分だ。
――そう思っていた。
翌日の夜までは。
◇
仕事を終えて帰宅する。
シャワーを浴び、妻と夕食を囲む。
いつもと変わらない、何気ない日常。
食事を終えた匠は、大好きな漫画の続きを読もうと二階の自室へ向かうため階段を上り始めた。
その時だった。
突然、視界がぐらりと揺れる。
強烈な眩暈。
足元がふらつく。
「あ……ヤバい――」
そう思った瞬間には、もう遅かった。
身体が傾く。
手すりを掴もうとするが間に合わない。
重力に引きずられるように、匠の身体は階段を転がり落ちた。
ゴンッ!
ドンッ!
ガンッ!
身体を打ち付けながら落下し――
最後に後頭部を、信じられない勢いで床へ叩きつけた。
鈍い衝撃。
そして激痛。
視界の端で、妻と息子たちが慌てて駆け寄ってくるのが見える。
だが――
声が聞こえない。
身体が動かない。
何かを言おうとしても声が出ない。
薄れていく意識の中で、匠はぼんやりと思った。
(あぁ……)
(これ、死んだかもしれないな……)
不思議と恐怖はなかった。
真っ先に浮かんだのは、自分のことではなく家族のことだった。
(まだ住宅ローン……二十五年も残ってるのに……)
(家族に迷惑かけちゃうな……)
その思考を最後に、匠の意識は深い闇へと沈んでいった。
◇
どれほどの時間が経ったのだろう。
微睡みの中で、誰かの声が聞こえた。
『もしも〜し! 起きて下さ〜い!』
聞き慣れない女性の声。
妻でもない。
息子たちでもない。
若い女性の声だった。
(……病院か?)
どうやら助かったらしい。
そう思いながら、匠は重たい瞼をゆっくりと開く。
だが――
そこで待っていたのは、病室の天井ではなかった。
そして、その出会いが。
平凡なサラリーマンだった三神匠の人生を、文字通り終わらせ――
新たな人生の幕開けを告げることになる。
勇者の子として生まれ、
魔王に育てられるという、
あまりにも奇妙な運命の始まりだった。




