表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

1話 選ぶ前の、ただの一日

 朧隠の里は、山の奥にあった。


 外からは見えない。

 ——見えていたとしても、辿り着けない。


 そういう場所だと、シオンは子供の頃から教えられてきた。


 木々に囲まれ、霧が薄く流れている。

 境界は曖昧で、輪郭はぼやけている。


 それが、この里の“在り方”だった。


 この地を統べるのは、“朧の魔王 斜陽”。


 姿は捉えられない。

 存在すら曖昧なまま。


 それでも確かに、ここを支配している。


 その庇護のもとで、忍びたちは静かに生きていた。


 昼下がり。


 訓練場の端で、四人はなんとなく集まっていた。


「暇だな」


 シオンが寝転がりながら言う。


「平和でいいじゃん」


 ヤクモが軽く返す。


「任務ないの、逆に不安だけどね」


 あかりが肩をすくめる。


「来たらやるだけでしょ」


 カゲロウは壁にもたれたまま、興味なさそうに言った。


 いつも通りの空気。

 何も起きない時間。


「……ねぇ」


 あかりがふと声を落とす。


「最近さ、上の方ちょっと騒がしくない?」


「わかる」


 ヤクモが頷く。


「任務の流れも変だし」


「でしょ?」


 あかりは少しだけ声を潜めて、


「それで聞いたんだけどさ」


「魔王同士で、やるかもって」


 一瞬だけ、空気が止まる。


「……やるって、何を」


「魔王抗争」


「マジかよ」


 シオンが体を起こす。


「誰と誰だよ」


「そこまでは分かんない」


 あかりは軽く首を振る。


「でも、動いてるって話は出てる」


「魔王同士とか……巻き込まれたら終わりじゃん」


 ヤクモが苦笑する。


「だな」


 シオンが小さく息を吐く。


「もし関わることになるならさ」


 少しだけ考えてから言う。


「どこに付くか、って話になるよな」


「……あー、なるね」


 あかりが頷く。


「ヤクモはどうする?」


「俺?」


 少しだけ考える仕草をして、軽く笑う。


「そうだなぁ。好きで言うならさ」


 一拍。


「斜陽さんが一番かな」


 空気が、少しだけ静かになる。


「……あの人?」


 シオンが聞き返す。


「うん」


 ヤクモはあっさり頷く。


「なんかさ、あの人だけちょっと違うじゃん」


「違うって?」


「無理に何かしようとしてないっていうか」


「戦わなくても成り立ってる感じ」


 淡々と続ける。


「だから、ああいうのがいいなって」


 軽い言い方だった。

 でも、芯はあった。


 少しだけ間が空く。


「……そういうの、好きなんだ?」


 あかりがくすっと笑う。


 ヤクモの方に少しだけ身を寄せる。


「優しい人とか」


「そういうの、放っておけないタイプでしょ?」


「まぁ、そんな感じ」


 ヤクモは少しだけ間を置いて答える。


「じゃあさ」


 あかりがさらに距離を詰める。


「私みたいなのは?」


 一拍。


「選ばないの?」


「任務なら、あり」


 少し考えてから、ヤクモはそう言った。


「それ以外は?」


「特に」


 あかりは一瞬だけ固まって、


「……あ、そう」


 それから、ふっと笑う。


「つまんない男」


 でも、その声はどこか楽しそうだった。


 距離を元に戻す。


「……あの人、ちょっと危ういけどな」


 カゲロウがぼそっと言う。


「え?」


「ちゃんといるのに、見てるとずれるんだよな」


 一拍。


「目で追えるのに、認識が遅れる」


「……あれ、人じゃないよな」


「……それどういうことだよ」


「そのまんま」


「見えてる側からすると、ちょっと変」


 それだけ言って、黙る。


「……でもさ」


 シオンが少しだけ笑う。


「それでも気になるよな」


「俺、一回話してみたいわ」


「斜陽さんと」


「分かる」


 あかりがくすっと笑う。


「どういう人なのか、気になるよね」


「でしょ?」


「あとさ…」


 シオンが続ける。


「もしつくならって話なら」


「俺はノブナガかな」


「へぇ」


 あかりが興味ありげに見る。


「ちゃんとしてるじゃん、あの人」


「正しいことやってるって感じするし」


「守るって決めたら、ちゃんと守るタイプだろ」


「……分かるかも」


 あかりが柔らかく頷く。


「基準がはっきりしてる人は安心できるよね」


「真面目だね、シオン」


 ヤクモが笑う。


「うるせぇ」


 カゲロウは何も言わない。


 ただ、少しだけ空を見上げていた。


「……で?」


 シオンが言う。


「結局、今日なにすんだよ」


「ご飯行く?」


 あかりが即答する。


「さっきも食っただろ」


「じゃあもう一回」


「意味わかんねぇよ」


 そんなやり取りが、いつも通りに続く。


 何も起きない、ただの日常。


 誰も、それを疑っていなかった。


 まだ、誰も知らない。


 この何気ない選択の話が、

 いずれ、すべてを壊すことを。


続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ