W 第一部 第一話 9
優と彩夏が出発して10分後
春樹と秋も荷物を白いミニバンに詰め込み出発した
「まずは、スカイプログラムでいいか」
秋が目的地の確認をする
「ああ」
ここから近いスカイプログラムが最初の目的地となった
運転は秋がしている
彩夏には負けるものの、秋もドライブテクニックには自信があるからだ
それにシグナルに来てから、ずっと運転は秋がしている
「もう私たちがシグナルに来て、3年ぐらいか」
「そうなるな」
「お前もだいぶシグナルの班長が板についてきたな」
「そうか」
「その愛想の悪さは変わらないがな」
「・・・」
春樹は押し黙ってしまった
「ふっ」
そんな春樹を見て少し顔が緩んでしまう
シグナルに配属される前、私と春樹は00課、(通称:アイ)に配属された
アイは、その名の通り監視を主な仕事としている
テロリストや危険思想の持ち主など、事件を起こしそうな者だけではなく
爆弾などの危険物を売買している者など、直接事件を起こさなくても、間接的に事件に関与する可能性が高いものも含めて、24時間体制の監視を行っていた
「今、アイは巷で騒がれている、連続女性殺人事件の犯人を追っているらしい」
今朝、アイのとき一緒だった高宮から事件について意見を聞かれた
高宮は、私がアイ所属だったときの部下で、ときどき、事件のことで意見を聞かれる
なぜか、直接話したいとレストランに誘われるが、私はあまり推理が得意でないので、直接会って聞いても、電話で聞いても大して変わらないと思う
それに、シグナルでの任務が忙しくて、時間もないので、いつも断っている
「アイが事件に関与するなんて珍しいな」
アイは監視が主な仕事、つまりサポートが専門の部署だ
通常は情報提供のみ
それが事件の捜査、しかも国家への危険性があまり感じられない事件を
「まだ、発表されていないのですが、昨日の3時頃私たちの拠点近くでまた被害者が見つかったようです」
「これで7人目か」
「はい、今回は目玉がなかったそうです」
「なるほど、警察もなりふりかまっていられないわけか」
「それでアイも全面的に捜査にかかわっているわけか」
しばし、考え込む春樹の横顔を見て、口元をゆるませる
今から聞き込みに行くときに、気が抜けてているかもしれないが
それでもたくましくなったと思う
私と春樹は同期で、春樹のことは良く知っている
初めて会った時の春樹は、小心者で、優しい、少年のような人だった
アイにいたときは、ある先輩に憧れて、ずっとコバンザメのようにくっついてずっと一緒に捜査していた
しかし、ある事件で問題を起こしてしまい、シグナルへと飛ばされてしまった
私はその人事を不服として、人事担当者に直談判、春樹の先輩も抗議してくれたが、結果は変わらず、先輩は飛ばされなかったものの、私も春樹と一緒にシグナル行となった
当時はショックも大きかったが、優や秋、冬華、かけがえのない仲間が出来た
そして、春樹の成長をこんな近くで見てこられた、いまとなってはシグナルに配属されてよかったと心から思える
「秋、いつもありがとう」
「!」
「な、な、なんだ急に」
「いや、お前が一緒にシグナルに来てくれたから、俺はやってこれた、ありがとう」
「べ、別に礼を言われるようなことではない」
な、な、なんだ
なんだ!なんだ!なんだ!なんだ!なんだ!
顔が熱くなる、沸騰しそうだ!
心臓の鼓動が大きく、速くなる、飛び出しそうだ!
「ううぅ」
顔を見られたくない、顔を隠したい
でも運転中だ、ハンドルを離せない
なんだこれは!なんだこれは!
あれか、これがあの羞恥プレイというやつか
だめだ、このままではだめだ、話題、話題を変えなければ
「そ、そ、そういえば、今日も優は時間ぎりぎりにどたばたとやってきたぞ、あいつは相変わらずだな」
「ああ、そうだな」
よし、話題をそらせた
今のうちに心を落ち着かせる
「相変わらずだ、相変わらず・・・・・かわいいな」
「へ・・・・・・・」
「!」
「いや、いまのは」
必死で春樹が弁解するも
秋には届いていない
熱はさがり、鼓動は落ち着く
車も時間も動いているのに
秋の時は止まっていた