W 第一部 第二話 33
「っ」
少しだけ、少しだけのつもりが気が付けば彼女の顔がもうあと数ミリのところまでに迫っていた
ドクン、ドクン、彼女に聞こえてしまいそうなほど、激しく動いている
ダメだ、ダメだ、相手は人妻だ、抑えなければ、抑えなければ彼女を傷つけてしまう
心でそう思っていても体が徐々に彼女の方へ引っ張られていく
彼女の顔が、長いまつげが、小さい口が視界に広がってき
そして
「ダメだよ」
「っ」
彼女はまだ目を開けていない、しかし、はっきり聞こえた、彼女の声が
明確に拒絶する声が
俺はすぐに距離をとった
それでも、優は目を閉じたままだった
しばらく、呆然としていた春樹は、ソファに横になった
俺はいったい何をしているんだ
誰も答えない疑問を自分に何度も投げかけていると
「春樹」
優が声をかけてきた、目を閉じたまま
「秋の気持ち知ってるよね」
「・・・・・・・」
答えられなかった、答えを知っているにもかかわらず
秋とは、もう7年の付き合いになる
シグナルに配属される前は、時々話す友人であったが、俺がシグナルに配属され、会えなくなった、しかし、すぐに秋もシグナルに配属され、そこからは相棒として捜査を共にしてきた
そんなに長く一緒にいるんだ、わからないはずがない
あいつの、気持ちが
俺を好きなことも
無理していることも
傷ついてることも
わかってるんだ、わかってはいるんだ、でも
俺は・・・・・・・・・・・優が、好きなんだ
目が霞む、涙がにじんでくる
秋の気持ちにこたえたい、こたえてやりたい、こたえてやりたいにきまってんだろ、どれだけあいつといっしょだったとおもってんだよ、でも、こたえたくない、あきらめたくない自分がいる
おれはずっとにげている、優からも、秋からも
優は目を閉じたままソファに背を向けた
「手の届かないブドウなんかよりも、手の届くブドウを大事にした方がいいよ、そうじゃないと、手の届くブドウもダメになっちゃうから」




