W 第一部 第二話 30
シン国王の待つ広間へ行く途中
「本当に大丈夫なんですか」
立ち止まったケインが心配そうな顔で彩夏と秋に尋ねるが
「大丈夫よ、たぶん」
「たぶん、てお前」
秋がまだ不服そうな目で彩夏を見ていた
「あんた、いい加減腹くくりなさいよ、どうせ何もしなかったら失敗で終わっちゃうんだから、だったらもう何してもいいでしょ」
「お前、その考え方は」
いくらなんでも、と言おうとしてやめる
確かに彩夏の言うとおり、このままでは終わってしまう、最悪の結果で
ならば、もうできることをするしかない
たとえそれが、どんなに無茶と思える事でも
秋からは動揺は消え、代わりに覚悟が宿る
「わかった、必ず成功させてみせる」
静かな部屋に響く、凛とした声
この作戦に懐疑的であったケインもこの声を聞き、覚悟を決めた
「わかりました、できるだけのサポートはいたします、ですので、よろしくお願いします」
ケインは彩夏と秋に頭を下げた
邪魔者への怒り、世界平和への願い、そして彩夏と秋、友への感謝
それら、全てが込められているの二人は感じ取った
彩夏と秋はいたずらっ子のような笑みを浮かべると
「任せて」「任せろ」
と言って、再びシン国王の待つ広間へ向かい始めた
「お待たせして、申し訳ない」
アリサ大使の変装をした秋がシン国王と対面する
シン国王は若き青年という見た目で、王様というよりはやんちゃな王子様という感じだ
昨日の女性とは異なりSPが二人ついている、恐らく会談に同席するのだろう
「いえ、こちらも今来たところですよ」
シン国王が流暢な日本語で返してくる
それに、秋は少し面を喰らってしまう
アリサ大使は日本に何度か来た事があり、流暢な日本語でスピーチしているのをテレビで見たことがあったので、しゃべれるのは知っていたが、まさかシン国王までこんなに流暢に話せるとは
「ん、どうかされましたか」
急に黙りこくってしまった秋をシン国王が訝しげな目で見てくる
「いえ、何も」
勢いよく首を横に振る
「そう、ですか、オウルの国王、シンです、よろしく」
「こちらこそ、アリサ大使だ、よろしく」
二人が握手を交わし、お互い椅子に座る
その間、護衛としてこの部屋にいる彩夏は生きた心地がしなかった
本来、彩夏は会談中この部屋への立ち入りは禁止されているが、アリサに変装した秋のフォローのため今回は急遽派遣されたアリサ大使の護衛ということで特別に入室できた
なんとか、ばれずにすんだわね
ひとまず胸をなでおろす
このまま、いってくれればいいんだけど
会談は思いのほか順調に進んだ
ケインが司会進行をしてくれたおかげだ
昨日の事前打ち合わせで大まかな話のすりあわせはできていたらしく、秋が答えることはほとんどなかった
このまま終わってくれ
そう願う秋であったが
「そういえば、ミーサさんはどうしたんですか」
「ミーサですか」
「はい、確か会談にはケインさんとミーサさんが同席すると聞いていたのですが」
ケインと彩夏が顔を見合わせる
しまった、盲点だった
アリサ大使不在に気を取られすぎて、ミーサさんの不在について何も考えていなかった
確かに、アリサ大使の護衛であるミーサがこの場にいないのはおかしい
どうする、どうする
秋の脳が今にもオーバーヒートしそうになると
ケインが口を開く
「ミーサはネーシャさんの護衛のためホテルに滞在中です」
「ネーシャの」
「はい、昨日、一人の護衛もつけておられなかったので、差し出がましいようですが、本人には秘密に護衛をするようにとアリサ大使が」
「そ、そうです」
恐らく今考えたのであろうが、ケインが何とか秋のフォローをしてくれる
「それは、それは、お心遣い感謝します」
「いえ」
シン国王が胸に手を当てて頭を下げてくる
オウルではそうするのだろうか
秋も習って、頭を下げる
山を乗り越え、落ち着きが戻ってきたからだろうか
ふと、朝のドタバタで忘れていたことを思い出す
「エレクトロツールについてはご存知ですか」
エレクトロツール、大手IT企業であり、オウルの特別指定会社
「ああ、もちろん知っているよ、エレクトロツールは、私の考えに賛同して多くの貧しい者たちへ働くための知識や技術を授けてくれた」
その辺の話は高宮から、既に聞いた
聞きたいのはその会社が裏で何か企んでいるのではないかということだ
「他に何か聞いていませんか」
「聞いていないな」
あっけらかんとした口調で答えるシン国王に
真面目な秋はむきになってしまい
「噂の類でもいいので」
暴走してしまった
しまった、やりすぎだ
気づいた時には遅かった
彩夏とケインが気まずそうな顔で秋を見ている
しかし、秋にその視線を気にしている余裕はなかった
なにをやっているんだ私は、アリサ大使の代わりにこの場にいるというのに
うまくいきすぎだった、それゆえの油断
彩夏に気を抜くなと言ったの誰だこの馬鹿者
一瞬の気のゆるみが、一瞬の気の迷いを呼び込んでしまった
沈黙する広間でシン国王は顎をさすり
「あー、なるほど、最近エレクトロツールが吸収合併したのでご興味があったのですね」
「そうです」
秋はすがるような気持ちで首を縦に振った
「なるほど、しかし、私も会社の詳しいことはなにも」
「そうですか、そうですよね」
なんとか、その場は納まってくれた
秋も彩夏も生きた心地はしなかった
その後は、順調に進み
「これで、以上になります」
ケインが会談を締めくくる
「お互い、世界平和のため尽力していきましょう」
「ええ、こちらこそ」
秋とシン国王が握手を交わしてようやく会談はお開きとなった
シン国王が広間から出ようと秋とすれ違う際
「ありがとう」
そう小声で言った、秋にだけ聞こえるように
「ふぁー、つかれたー」
彩夏は腕を上に伸ばして、固くなった筋肉をほぐしていた
なんとか、何事もなく終えられたわね
秋はあまりの緊張でまだ立ったまんまだけど
「やったわね」
思いっきり、秋の背中をたたいたら、そのまま倒れてしまった
「ちょ、大丈夫」
秋をあお向けにすると、白目をむいていた
秋は立ったまま気絶していた
弁慶かあんたは




