W 第一部 第二話 27
「「いったいどういうことだ」」
デパートと旅館、異なる場所で同じ悲鳴を上げる男女二人
デパート地下で大声を上げた春樹は、頭を抱えていた
「春樹さん、もしかして、先ほどの電話・・」
まだシン国王が会談場所へ現れたことは伝えていないが、さっきの春樹の言動で察しがついているのであろう、アリサ大使の護衛、ミーサさんが恐る恐る電話の内容を聞いてくる
「はい、シン国王が到着されたそうです」
「ええ、なんで」
優は大声を上げ、ミーサさんはやっぱりという顔をしてうつむく
とりあえずアリサ大使を旅館に連れて行かなければ
まだ動揺はしていたが、3年シグナルで班長をやってきて、このような状況に何度も直面してきた春樹は何とか思考を働かせる
ここから最短で旅館に戻るには電車に乗る必要がある
「とにかく、旅館に戻るぞ、駅だ」
「待ってください」
駅の方へ走り出そうとする春樹をアリサ大使がとめる
「今、電車の時刻表を検索していたのですが」
どうやら、アリサ大使はシン国王の到着を悟るとすぐにここから会談場所である旅館まで最短で行く方法を考え、すでに電車の時刻表を検索していたようだ
さすがの手腕だ
感心する春樹を余所にアリサの表情は曇っていた
「どうしたのアリサ」
優が心配そうな顔をしているのに気づき、無理に笑顔を張り付け携帯の画面を優たちに見せた
「システムに異常が発生して、電車は動かせないそうだ」
絶句
優ですら、言葉を失っていた
電車が使えないとすると車を使うしかないが、ここから車だとかなり時間がかかる
「シン国王に待っててもらうっていうのはダメなの」
優が恐る恐るアリサ大使に言う
そうするしかない、そうするしかないのだが
「シン国王は優しいお方です、遅刻したからといって、今回の件が破談になることはないでしょう」
「じゃあ」
アリサは静かに首を横に振った
「問題はシン国王ではありません」
「え」
そう、問題はそこじゃない
優は政治にあまり詳しくないため、分かっていないようだが
大使であるアリサ、その護衛でこのような現場にも居合わせたことがあるミーサ、アイに所属していたため政治にも詳しい春樹は分かっていた
「これは、仕組まれたことだ」
「え」
優は驚いた声を上げるも、アリサとミーサは黙ったままだった
システム異常は偶然だろうが、午後に会談予定のシン国王が午前に到着したことは偶然ではない、誰かが仕組んだことだ
「でも、どうして」
優は訳がわからないといった調子で、春樹ではなく、アリサの方を見る
アリサは一度目をつぶり、意を決して話し始めた
「恐らく今回の状況を引き起こしたのは、私たちの関係者です」
優も春樹も黙ったまま、アリサの話を聞く
「上層部にはUAの世界連合への加入を快く思っていない者が少なくありません、今回の会談は極秘だったのですが、どこからか漏れてしまったのでしょう、それで、オウルからのシン国王との会談の予定変更の連絡がいままでこちらに届かなかったのでしょう」
アリサから笑顔が消えていた
この後の話はミーサが引き継いだ
「彼らの目的は、アリサ大使がシン国王を待たせること、その事実なのです」
「え、それってどういう」
それから先は俺が引き受ける
きっとアリサ大使もミーサさんも説明するのはつらいだろうから
「王様と大使はどっちが偉いと思う」
「それは、王様だよね」
優はまだ話の意図がわからない様子だったが続ける
「そうだ、なら、もしその国の大使がその国の王様を待たせるなんてことがあったら世間にどう思われると思う」
「それは、王様に失礼だってことに」
「どうして」
「そりゃ、王様の方が偉い・・・から」
優の顔が驚愕に染まる
話しの意図がわかってしまったようだ
「つまり、今回のことが外部に漏れれば」
「アリサの国はシン国王の国より偉いってことに」
「そうだ」
そう、本来は同等であるはずの二国間に優劣が生まれてしまう
それが、これを仕掛けた連中の狙いだ
「でも、みんなそんなこと」
「思わない、何も、多くの国は、だがアリサ大使の国の国民とシン国王の国の国民はどう思う」
「っ、それは」
問題は他国ではない、自国だ
「アリサ大使の国の国民はシン国王の国民を見下し、シン国王の国の国民はアリサ大使の国の国民を自分たちを見下す敵だと思う」
「でも、みんながそうだとは」
みんながそうじゃないから良い、じゃないんだ
思う者がいることが問題なんだ
「もちろん、我が国の国民のほとんどはそのようなこと思いません、オウルの国民も、しかし、全員ではない」
「そんな」
事の大きさを理解した優はただ、うつむいてしまう
それを見たアリサ大使が再び話し始める
「今回のことが、もし、外部に漏れれば、UAの世界連合への加入は絶望的です」
アリサ大使はもし、と言ったがこれが仕掛けられたことならば必ず漏れる
それは、アリサ大使が一番わかっている
この場の雰囲気をこれ以上悪くしないための発言だろう
気遣ってくれるアリサ大使の顔が悲しみに染まっているのを、俺もミーサさんも見ていることしかできなかった
しかし、優はアリサに言葉を投げかけた
「まだ、まだだよ、きっとなにか方法があるはずだよ」
その言葉を聞いたアリサは
「ふ」
笑っていた、とても儚げに
ヴィーン、ヴィーン、春樹の携帯に再び着信が
「どうした彩夏・・・・・・はあ」
再び、春樹の声が響いた




