W 第一部 第二話 3
会議が終わり、翌日
ある喫茶店に、若い青年が一人、お茶をしていた
熟練のマスターがこだわりのコーヒー豆を使ったひきたてのコーヒーを出すような雰囲気ではなく、女性スタッフが、色は地味な茶色だが、フリフリの制服を着て接客をする、女性が好みそうなかわいらしい雰囲気の喫茶店である
その青年は茶髪で眼鏡をかけ、いかにも気の弱そうな外見であるため、
喫茶店とのミスマッチ感はそこまでない
ただ、喫茶店に男が一人というのは、回りが気にしていなくても、居心地がよいものではない
五分に一回のペースで腕時計を見ていると
「またせたな高宮」
そこには、清楚を具現化したような、とても綺麗な女性が立っていた
その女性が青年の向かいの席に座ると
いままで全く青年に興味のなかった周りのお客たちが一斉に青年と女性を見て、こそこそと話し始めた
外見だけ見ればとても不釣合いなので仕方ない
だが、青年は回りのことなど気にせず、目の前の女性にのみを意識していた
「秋さん、普段と違う格好ですね」
「それはそうだろう、今日は休日なんだからなあ」
いつも結んでいる髪も今日は下ろしていた
「とても素敵です」
「そ、そうか」
少し顔を赤らめ、視線をそらす
ファッションを褒められることはほとんどないので、あまり自信はなかったが
彩夏にはいつも地味といわれている
「んん、今日来てもらったのは他でもない、調べてもらったエレクトロツールについて聞かせてほしい」
咳ばらいをした後、いつもの凛とした顔に戻し、今回の要件を伝える
「わかりました、でも集めた情報を報告する前にどうしてエレクトロツールの情報がほしいのか聞いてもいいですか」
高宮が、今回の依頼の理由について尋ねる
当然のことだが、こちらはまだ何の証拠も得られていない、今はまだ春樹の勘で捜査している状況だ
「まだこちらも確証がないんだ、悪いが、答えられることは何もない」
「わかりました」
高宮もある程度は事情を察してくれたようで
深くは聞かずに、エレクトロツールの情報を教えてくれた
「まず、エレクトロツールですが主な活動拠点はアフリカとヨーロッパ、主にプログラムの開発をしている会社で、オウルの特別指定会社で・・・」
「特別指定?」
聞きなれない単語につい話の途中に聞き返してしまうと
「はい、オウルは教育を受けられない貧しい人たちの適性を見て職業訓練を受けさせているんです、特別指定会社はその人たちを積極的に雇うかわりに国に納める税金を安くしてもらっている会社のことです」
「ほう、とても良い制度のように見えるが」
「それがですね、職業訓練を受けることで衣食住には困らないんですが、何の仕事をするのかはオウルに決められ、毎月の賃金の一部は職業訓練制度の維持のために徴取されるんですよ、なので他の国の人たちからは奴隷制度じゃないかという批判も受けているんです」
「奴隷か」
まあ、見方によってはそうも見えなくはないが、
「他に何か情報はあるか」
さっき自分で話の腰を折ったことも忘れて、エレクトロツールについては他に情報はないか尋ねる
「正直僕一人ではこれといった情報は手に入りませんでした、ほとんどネットで調べればすぐ出てくるものばかり」
「そうか」
この国自体、アフリカへの関心度は高くない
そんな中で、特に敵対しているわけでも、友好な関係でもないオウルの企業情報を手に入れるのはそう簡単ではないだろう
「虎白さんの手が空いていれば、もっと詳しい情報を手に入れられるかもしれませんが」
「今は連続女性殺人事件で手いっぱいだろうな」
虎白修二、アイのトップであり、かつての秋と春樹の上司
とても優秀で正義感溢れるひとで春樹の憧れの人である
「アイは今とんでもないくらいピリピリしてますよ」
高宮が困った笑みを浮かべて、現在のアイについて秋に伝える
「昨日で9人目か」
「ええ、でも証拠はおろか、犯人像さえよくわかっていません」
被害者はすべて女性、体の一部が切断され持ち去られるという残虐な事件
通常、こんな残虐な事件は人目が集まるような場所に死体を遺棄するものだが、
現在のところ死体は人目のない場所に放置してあり、持ち去られる体の部位もバラバラ、年齢も離れていて、共通部分は女性であることのみ
謎の多い事件だ
「すまない、そんな忙しい中、捜査に協力してくれて」
姿勢を正して頭を下げる秋を見て高宮は慌てて手を横に振る
「いや、そんないいですよ、秋さんと僕の中じゃないですか」
慌てふためく、昔の部下を見てすこし顔をほころばせる
「そういえば、春樹さんはどうしてるんですか」
「ん、ああ、まあ、がんばってはいるようだ」
明らかに秋の様子がおかしくなった
この事件を主導で捜査しているのは春樹であり、その捜査のために自分にエレクトロツールについての情報収集を依頼したのも秋が春樹へ特別な思いを抱いているのも知っていた
「こ、今回は本当に助かった、私は行くがお前はどうする」
「僕はもう少し残ります」
動揺を隠すように、席を立とうとする秋を高宮は疑いのまなざしで見てくる
「そ、そうか」
席を立ち、喫茶店から出ようとすると、机の上の領収書が目につく
「い、いいですよ、そんな」
「かまわん、情報を集めてくれたお礼だ」
秋が掴んだ領収書を高宮が席を立って奪い取ろうとするが
その手をひょい、とかわし、レジへ歩いていく
「あ、ありがとうございます」
後ろ姿にお礼を言うと、振り返らずに手を振り会計を済ませ、喫茶店を後にした




