54 ファインディング・ファウンデーション
居候を初めて早三週間が経ち、ようやくガルドの所有していたフルダイブ機TET-ER000、通称テテロの所在が判明した。浮上したのは、横浜に支店を持つグローバルな半導体製造販売企業だった。耳にしたこともない企業名に、ガルドは母親の顔の広さに嫌々ながら認めざるを得ない。
「一人だったら一生見つからなかった」
「後輩ちゃんに感謝だな、ガルド」
「ああ」
この情報はやはり母親からは引き出せなかった。ガルドが後輩であるハルに指示し、そのハルから兄に指示が飛び、情報を探ってもらっていたのだった。
「よかったねぇ、機体見つかって!」
「ああ」
「全く、あんな高価なもんをタダで譲るとはなぁ。ずいぶん豪快なお袋さんだ!」
大笑いしながらジャスティンが言う。ガルドは複雑な気持ちで頷いた。豪快どころか、お袋さんという呼び方も全く似合わない。そして、ジャスティンより年下だとは伏せておくことにした。
ギルドのメンバーと共に六対六の複数PvP、『対ギルド戦』のマッチング待機をしながら、ガルドは発見の報告をしていた。
マッチングすると自動で会場に飛ばされるのだが、それまではギルドホームが待合所扱いになる。ボックス操作や装備変更操作などは禁止されているため、各々会話やマルチタスクでのPC操作などで時間をつぶしていた。
「それで、どこにあったんだ?」
「【ファウンド・リコメンド】の横浜オフィスだと」
「ふぁうんどりこめんど? 何の会社?」
「半導体関係だな。確か本社は中東の方だったはずだが、港町だと利便性がいいだろう。横浜に支店を構える理由も頷ける」
「はんどうたい? なにそれ、おじちゃんよく分かんない」
「メロ、電子機器には欠かせないパーツのことだ。お前本当に機械関係弱いな……」
「ぐぬ、畜産とか生物とかが得意だからいいもん! みんなみたいにフルダイブ機のセットアップなんて出来なくても、別に不便ないし!」
「半自動の農場持ってるヤツの台詞じゃねえよな」
「なぁ榎本……まさかとは思うんだけど、分解されてるんじゃないのか? そーいう系の会社だろ? 機械の中身とか作ってんだから」
「あー、営業事務系のオフィスらしいから無事だと思うぞ。多分」
「おお、そりゃ平気だな。良かったなぁガルド!」
「今度乗り込む」
「うーん、自宅に引っ張ったとして、またお袋さんがどっかやっちまうんじゃないのか?」
その親と同年代の仲間たちには言いにくかったが、ガルドと母親の長期に渡る親子喧嘩は、未だ収束の気配が見えないでいた。ガルドは「またやられる」と同意する。
解決に向かおうと妥協案を提示しても、母親は頑としてフルダイブを拒絶するのである。ガルドも引退はさらさら考えていない。そして感情的になってしまい、話し合いは口喧嘩になるばかりであった。
「親御さんの方をなんとかしないと、堂々巡りだな」
「さてどうするか——このまま榎本のところでも、ログインできるのであれば俺たちは問題無いが」
「親父さん次第じゃあないのか? あと一週間すれば帰ってくるんだろう?」
「賭けてみる」
ふと、全員の目線にポップアップが現れた。転送十秒前のカウントダウンと相手のギルド名。装備の内容など詳しい情報は非表示になっている。
「お、『永遠道中』だ! 久しぶりだな~」
「ああ。うる覚えだが、確か魔法強めの構成だ。速攻特攻してひっかきまわせ。夜叉彦も突っ込め。ジャスとガルド、訓練を意識しろよ」
「りょーかい、りょーかい!」
「おお、訓練だな!? 忘れてないとも!」
「ああ」
「よし、行くぜ?」
魔法陣の模様と輝きが足元に灯る。戦闘エリアに飛ばされたあとは、それぞれおのおのの判断で行動を開始する。訓練を生かすも殺すも、現場の判断次第だ。
顔の凶悪さを強めながら、ガルドは不敵に笑った。




