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55 メロと悪友、トーテムポール

「今回も攻撃来なかったんだけど」

「参ったな。フリーマッチじゃ限界があるか」

 戦闘終了後、自動的にギルドホームへ転送されたメンバーは早速反省会議をしていた。

「レイド班と鈴音(すずね)で募ってみる?」

「その方が早そうだな。明日、来れるやつ集めとく。メロは?」

「早めに仕事終わらせて、合流する!」

「メロ、無茶しない程度に」

「ありがとね~ガルド、でも大丈夫。弟に押し付けるから!」

 ここ数日、対ギルド戦で狙われやすいメロがターゲットにされた場合のシュミレーションをメインに特訓を行っていた。全員が集まるタイミングは相変わらず少ないものの、メリハリをつけて戦闘訓練を行っている。

 中心となるメロのログインが前提となるため、仲間たちは無理をしていないかと心配していた。どうも弟が犠牲になっているらしい。

「無理すんなよ? いないときには別メニューすっから」

「そうだぞ、嫁さんの相手を疎かにしてはならん!」

「奥さんに相手してもらってるジャスが言うと、なんか違和感あるよね」

「そうそう。ジャスのほうが世話焼かれっぱなし」

「な、なんとぉー!」

 夜叉彦やジャスティンと同じく、メロには家族がいる。元ギルマスが「収入や家族サービスをおろそかにするのは」と言った通り、ロンベルは廃ゲーマー未満であることが必須だった。

 それでもトップを張れるほど、フルダイブゲームは上の層(上位ゲーマー)が少ない。

「あ、みんなごめんね。今日ももう落ちるっ」

「おう」

「お疲れ」

「メロ、来れそうだったら時間教えろ。合わせるから」

「ありがと~。じゃ、お疲れっ」

 ログアウトのアイコンから、視界が一転暗くなってゆく。

 こめかみの辺りがぴりりとし、ログオフを告げるフルダイブ機の電子音が聞こえた。深夜二時、部屋は真っ暗だ。

 しん、としている。メロは、静まりきった我が家の冷たい空気に身震いした。

 先ほどまでの賑やかで暖かかったギルドホームが既に恋しかった。


 脳波感受の送受信ヘッドセットを外し、ベッドに横になったまま、二重になっている窓越しの外を見る。真っ白でよく見えないが、雪に覆われたご近所が広がっているはずだった。

 東京は暖かかった。それは北海道を基準にすれば日本全国どこも間違いなく暖かい。しかし地熱を利用した暖房供給システムのお陰で、実際には北海道の家も東京並みに暖かかった。

「うう、ねむ……」

 年々、夜更かしができなくなってきていることに、メロは自分で気付いていた。

 昔から農繁期はめっきりログイン出来なくなる。それ以上に、体調面で厳しくなりつつあった。

 あの仲間達が世界の舞台で今後も戦い続けるためには、少し身の振りを考えなければならない。メロは眠い頭でぼんやりと思う。

 仕事は順調で、大型耕作機械の導入やドローン、AIの駆使で随分と楽になった。しかし完全自動の大企業お抱え農場に比べれば、まだまだ人力が必要だ。

 機材のローン分、自分達の生活費、農耕に必要な支出。それらを払える程度の収入があればいいのだ。今の仕事量はそれをかなり上回るように、純利益を目的とし経営していた。フルダイブなどという高価な娯楽が出来るのもその恩恵で、その方針自体メロは後悔していない。

 しかしこのままのペースを維持するのであれば、ロンド・ベルベットを引退せざるを得ないだろう。社会的地位を優先させた、あのベルベットのように。

 それを回避するには、仕事量・収入を減らすしかない。家族や共に働く弟夫婦を説得する必要がある。

 恐らく反対されるだろう。娘は来年の四月から都内の大学に進学する予定だ。働き手が一人減る、それも大きかった。

「辛いね。お前も、そうだったのかな……」

 自室に飾ってある、天井まで届く高さの派手なトーテムポールを見つめて呟く。部屋の中に置いておく雑貨にしては巨大で異質なそれは、悪友ベルベットと共に、高校時代自分達で彫った手作りのものだ。

 親友と共に過ごした日々、それが永遠に続くと信じて疑わなかった。遠くてもゲームの中で会える。大人になっても、大好きなゲームを無垢な気持ちでプレイできる。

 それが今や、親友はゲームを辞め、自分も辞めるかどうか悩み始めていた。

 ベルベットが辞めたときには相当荒れたが、今もその荒れた心が治りきっていない。見ないようにしていたそのささくれが、年月を経てべりべりと表面を剥がしにかかっている。

 五十に手が届きそうなところにきたメロは、精神的にも肉体的にもそろそろ限界が近かった。

「はぁ……」

 木の凹凸で表現されたトーテムポールの鳥達が、じっとベッド側を向いて立ち尽くしている。瞳の色がない目が無表情にメロを見ているようだった。これを彫ったときの親友は、まるで粘土で遊ぶ幼稚園児のように無垢な顔をしていた。きっと自分もそんな顔をしていたことだろう。

 懐かしい。メロは泣きたくなった。

大幅に内容をカットしました。永遠道中との戦闘はアルファポリス版をご覧ください。

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