波紋の一石
専属騎士団のメンバーを決めた翌日。その夜に話し合った通り、シレイナアートは報告の為王と貴族が居並ぶ会議室の扉の前にきていた。
結局昨夜はろくに眠ることもできず、ストレスで痛む胃と寝不足でふらつく頭を抱えながら今まで感じたことのない威圧感を放つ扉でその時を待っていた。
「シュレイナアート・ネアグラス、入室の許可を」
そう、扉の前にいた騎士に胸元に光る紋章とともに伝え。それを聞いた騎士が一人中へと伝えると、数秒後大きく分厚い扉が開かれた。
開かれた重厚な扉の先には、想像していた通りの顔ぶれが並んでいた。父であり国王であるエクトフェス・ネア・ロインをはじめ、宰相、城騎士団長、主要な貴族の面々が居並んでいる。それらの放つ圧倒的な威圧感に一瞬怯みそうになるも、己を鼓舞しその怯みさえも覚らせるものかと鉄仮面を崩すことなく歩を進める。そして中央を進み、国王が座る王座に続く数段の階段の一mほど手前で止まり真っ直ぐ己の父を見据えて報告する。
「昨日のトーナメントの結果、優勝者から五位までの計五名を専属騎士団のメンバーとして加えることにいたしました。それにより、私の専属騎士団はサビアとロットを加え計七人で構成することになります」
前置きなどなく、ただ昨日の結果のみを淡々と述べていく。ただそれだけなのに、背中には汗が伝い手の平にもじんわりと湿りを帯びはじめる。
「昨日の内に個々の品を手配し、明日全員を集めて正装とともに手渡す所存です」
「それでよかろう。異存はない」
と、王からそのように承認を得安堵とともにこのまま何事もなく進行できれば……と微かな希望を抱くもそれはあっけなく壊されることになる。
「一つ、シュレイナアート殿下にお尋ねしたい案件があるのですが。エクトフェス王、発言を許して頂けますでしょうか」
そう、声を挙げたのは伯爵のリガレクトだった。
「許す」
「寛大なお心づかい、感謝いたします」
そう、国王に一礼しシュレイナアートに視線を戻しこう発言した。
「シュレイナアート殿下、昨日の選抜戦で専属騎士団となられました五人の中に女人がおられるという噂を耳にしたのですが。相違ございませんか?」
「相違ございません。私の専属騎士団には、昨日の結果女性が一人加わることとなっております」
最初から詰問されるだろうと、容易に想像できたため覚悟は昨夜の内にしていたとはいえ。やはりどうしても胃が痛み、心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が体を伝うのは止められない。ぐっと己の拳を強く握り、腹に力を入れシュレイナアートは真っ直ぐ前を見据えたまま正直にあるがままを答える。
「慣例に従い選抜された城騎士同士でトーナメント形式で勝負を行い、その結果五人を選びその中に女性がいただけです。規律に女性は不可、との記載もなく既にこの件につきましては騎士団長の方からエクトフェス王の方には話が通っているはず。その上で、「異存はない」とのお言葉を承りました。私には特に思う所はございません」
そうだ。何も穴はない。正式なルールに従った結果であり、どこにも不正を行っていない清廉潔白の身だ。ただその事実が、「異例中の異例」であり、「油断のスキをついた不測の事態」であったというだけのこと。
(--胸を張れ。何を恐れることがある)
私も彼女も、他の騎士たちも誰も不正などしていない。
「彼女の腕に信用がおけぬというのでしたら、懸念を抱かれています方々を集め我が国最強の力を持つ騎士団長殿と彼女の試合を開催いたしてもかまいません。私としても、彼女を含め騎士の面々も疑われたままというのはどうにも居心地が悪い。諍いの種は早いうちに取り除くに限ります」
前もって用意しておいた反撃を返せば、表情には出さずとも嬉々として矢が返ってくる。
「どのようにして、貴君の護衛騎士の疑いを晴らすおつもりか?」
「騎士団長と、五合以上打ち合うことができたならば十分に彼女の有能さ、能力を皆さまが認めるに足ると考えておりますが如何でしょう?」
「--ふむ、面白い」
と、王が発言したその後に続いてリガレクトや他の貴族たちも「その条件であれば」「それが可能なら腕も確かでしょう」「できるものなら、ですが」などといった嘲笑や失笑を含む声が次々と上がる。
「では、試合の日取りは私が決めるよりも多忙の身である騎士団長に決めて頂けるよう取り計らって頂けますでしょうか」
「無論だ。では追って周知する」
王のその言葉に今回の議論は終結した。続きは、いや、結果は騎士団長との試合で全てがわかる。
――わからせてやる。
私は己の騎士の実力を知らしめる最良の機会に、俯いた影でニヤリと口角が上がるのを止められなかった。
若干の予告詐欺感が否めませんが、彼の腹黒さ。いえいえ、真っ直ぐさゆえのちょっとした悪戯心が垣間見える結果になりました。
次回は模索中です……。