科学
森原との直接対決の時、勝負を決めるのは?
「良かったな、例のホワイトファング、こっちでは、影響が出ていないって事だ」
雷斗の言葉に安堵の息を吐く較。
「こっちでは、って言うのが気になるね」
雷華の突っ込みに雷斗が肩を竦める。
「ゲートの向うの世界がどんな惨状になっているかまでは、解らないって事だ」
「そういうのは、おいといて問題は、森原の奴よ。行方をなんとしても掴まないと」
較が必死に話をずらしにかかる。
「確かにな。取り敢えずは、目の前の事、あの腐れ外道をどうにかしないといけない」
良美も肯定する。
「そっちだが、あいつは、もう中国に居ない」
「日本に帰ったの?」
雷華の問い掛けに雷斗が首を横に振る。
「今度は、ドイツに向った。そこで、何かしらの実験を行うって事になっている」
「また、子供達を悪用したとんでもない実験!」
良美が声を荒げるが雷斗が難しい顔をする。
「そこは、解らない。しかし、八刃の調べた中では、前回みたいな大量の人身売買は、ありえないって事だ」
「とにかく、行方が解ったんだから追いかけるよ」
較の言葉に良美は、特別室に入れられていた子供達を視線を向ける。
「この子達の借りは、きっちり返させてやらないとね」
決意を新たに較達は、ドイツに向った。
「今回は、意外と都会ね」
雷華が不思議そうな顔をすると雷斗も同意する。
「そうだな。どんな実験をするか解らないが、こんな都会じゃ、色々と問題があると思うんだがな」
「非合法な実験だろうから、隠蔽性って事からも適していない筈だけど、何を企んでるんだろう」
較が眉を顰めると良美が言う。
「考えても始まらない。さっさとあいつのところに行って、邪悪な実験を阻止してやろう」
「そうだね、どんな思惑があるかなんて、阻止すれば関係ないもんね」
較が頷き、四人は、問題の実験が行われると想定された研究所に向った。
較達が到着したのは、オフィス街の中心にあるビルだった。
「本気でこんな所で実験をするのか?」
雷斗が困惑するが良美は、気にせず進む。
「関係ない。行くよ!」
「まて、ここは、女子供が来る場所じゃ……」(ドイツ語)
ガードマンが防ごうとしたがその手が良美に触れる前に較が動いた。
『ベルゼブブ』
較の放った髪がガードマン達の警棒に当たり、粉砕する。
「邪魔をするんだったら、次は、あんたらの頭を砕くよ」(ドイツ語)
ガードマン達が腰を抜かす中、良美を先頭にビルに入っていく。
その後も申し訳程度の妨害があったが、較が鎧袖一触で終わらせ、問題の実験が行われる部屋に到着した。
『早い到着だ。だが丁度良かったよ』
頭を覆うように機械を着けた森原の声がスピーカーから響き渡る。
較が分厚い防弾ガラスを叩き言う。
「こんなもんであちきを止められるなんて思ってないよね?」
『当然、さっきも言っただろう。これから実験を行う。その実験に付き合って貰う』
森原の答えと共に激しい機械音が鳴り渡る。
『前回の実験で魔法に使う脳の仕組みもある程度の目星は、ついた。そして、この装置は、私に魔法を使わせる為の装置だ』
森原の宣言に較が指摘する。
「無駄な事は、止めなよ。機械で思考波を増幅した所で、素人じゃ、魔法を、物理法則の変則など不可能だよ」
高笑いを上げる森原。
『独りでは、だろう? 私には、多くの協力者が居る』
「このビルに居る人間、全部合わせた所で、大した数には、ならないぞ」
雷斗の指摘に森原が失笑する。
『お前等では、その程度の考えしか考え付かないだろうな』
その時、較が気がついてしまう。
「あんた、だからこんな都会で実験を強行したんだね!」
感心した顔をする森原。
『流石に君は、気付いたか。そう、このビルにある装置を使えば、半径一キロの人間の脳を勝手に利用できる。そういう電波を発生させる事が可能なのだよ』
雷斗と雷華が驚愕する。
「本気で考える事が最低だね」
軽蔑の眼差しを向ける良美に森原が輝ける未来を見る眼差しで答える。
『この実験の成功で私は、歴史にその名を残すのだ!』
「残さない! あんたの名前なんて、悪名すら残してやるもんか! 『バハムート』」
較の強力な気を収束した一撃は、防弾ガラスをすりぬけ、森原に迫る。
『ロジック、アイアンシールド』
機械の軌道音と共に較の放った一撃は、防がれた。
『例え人外といえど、万に届く人間の意志には、勝てないだろう』
森原が勝ち誇る中、較が雷華と雷斗に耳打ちする。
「解った。任せておいて」
雷華は、胸を叩く。
「こっちは、大丈夫なのか?」
雷斗の心配に良美が笑う。
「ヤヤがあんな老害に負けるわけないだろう」
「そういうことだから急いで」
較に促されて、雷華達は、部屋から出て行く。
『なるほど、お前が私の注意を引いている間に装置を破壊しようと企んでいるのだな? だが、無駄だ。この装置の本体は、このビルの地下、既に入り口は、物理的に閉鎖してある。重機でも使わなければ壊すことなど出来ないぞ!』
森原が愉快そうにしていた。
「好きに考えてな。だいたい、あっちは、単なる保険。あちきがあんたを叩きのめすつもりだからね。『ツインテール』」
防弾ガラスを両手で放つ連打で粉砕する較。
「出来るかな?」
森原が余裕の表情を浮かべ、機械音がなる。
『ロジック、サンダーアロー』
膨大な量の雷の矢が較に迫る。
『カーバンクルパラソル』
受け流す形で凌ぐ較であったが、更なる攻撃が来る。
『ロジック、アイスリバー』
床が凍りつく。
『イカロス』
較は、空中に飛び上がり、そのまま空中を蹴って、迫ろうとした。
『ロジック、エアーナイフ』
圧縮空気のナイフが較を押し返す。
『イカロスキック』
着地した壁を蹴りながら移動する較。
『フェイントなど、無駄』
較を目で追う事すらしない森原。
『ロジック、サンダークラウド』
部屋を埋め尽くす雷の雲が較を捉える。
「ヤヤ!」
良美の言葉に、凍りついた床に落ちた較が立ち上がりながら答える。
「こんくらい屁でもないよ!」
「無論、これでは、終わらん」
森原の追撃が始まる。
『ロジック、アイスピラミット』
床の氷が即座に盛り上がり、較を氷のピラミットに封じ込める。
「続くぞ!」
己が振るう力に酔うように森原が続ける。
『ロジック、アースハンマー』
氷のピラミットが物凄い力で破壊される。
『ロジック、サンダーストーム』
破片諸共、雷の竜巻に飲み込まれる較。
吹き飛ばされた較は、良美の前に落下する。
「流石の人外でも、数の暴力の前では、無力だな」
森原の勝利宣言に良美は、自信たっぷりに答える。
「その冗談は、笑えない。ヤヤは、あんたなんかに絶対に負けないよ」
「この状況でそんな強がりがでるとは、流石は、ウエイトオブアースだな。しかし、万が一にもそいつが立ち上がろうと、私には、触れる事すら出来まい」
勝ち誇る森原。
「こっちの冗談は、笑えるよ」
較が立ち上がるのをみて再び感嘆の声をあげる森原。
「流石は、人外、地球で最大の攻撃力を持つものだ。だが、冗談だと? 私は、科学者でな、真実しか、口にしないぞ」
較は、自分の頬を突付きニヤリと笑う。
「何が言いたい?」
困惑していた森原だが、その仕草の意味に気付き、自分の頬を触れた。
その手には、血が付いていた。
「ば、馬鹿な!」
較は、ゆっくりと歩み寄りながら言う。
「自分でも言ったでしょ。所詮は、科学者が戦いで戦士に勝てると思わないでね。さっきの攻撃、氷付けを一度破壊した所で、あちきに攻撃チャンスがあったんだよ」
悔しそうな顔をしていた森原だったが、小さな溜め息を吐いて告げる。
「確かにそうかもしれない。ここは、科学者らしく頭を使った作戦を行おう」
『ロジック、アースハンマー』
壁に穴が開いた。
『ロジック、アイスピラミット』
市街地の上空に氷のピラミットが生まれる。
「私に攻撃をすればその度にあれを落す」
「際限なく最低奴!」
叫ぶ良美、較は、冷めた瞳で告げる。
「赤の他人が人質になると思ってるの? あちきは、他人の命より、自分や大切な人間の命の方が大切だよ」
森原が頷く。
「そうだろう。だから、要求するのは、この場を見逃す、それだけだ。それ以上は、望まない。強行すれば、多くの人間が死ぬ。そうしてまでここで意地を通すつもりか?」
舌打する較。
「本当に計算高い奴」
「ヤヤ、そいつを倒して、それから外の氷を……」
良美の提案に較が首を横に振る。
「無理だよ。ああやって見える位置ならともかく、そいつがその気になればこっちが防ぎ様の無い位置にあれを生み出せる」
「理解が早くて助かる。さあ、決断をしてもらおうか?」
既に較の答えを確信した顔での森原が問いかけだったが、その時、建物の電気が消えた。
『フェニックス』
較が放った炎の塊が、外に浮かぶ氷の塊を粉砕する。
「タイムオーバーって奴だよ」
「覚悟は、出来ているな」
較が、良美が近寄る中、必死に装置を操作する森原。
「な、何が起こった! 装置の本体を壊すことなど出来ないはずだぞ!」
較が笑みを浮かべる。
「別に装置自体を壊す必要なんて無いんだよ。機械なんて所詮、電気がなければ動かないんだから」
「雷華達は、このビルに繋がる電源ケーブルを破壊しに行ったんだよ」
良美が拳を鳴らす。
「非常用電源では、動かせるようにしていなかったのが致命的だった」
その場に崩れ落ちる森原の顔面に良美の本気の拳がめり込む。
吹っ飛んび、壁にぶつかった森原の胸倉を掴み較が言う。
「ここで人間として終わらせようとも思ったけど、さっきの言葉で気が変わった。これ以上は、危害を加えないであげる」
「ヤヤ!」
睨む良美に較が笑顔で答える。
「大丈夫、もっと効果的な方法を思いついただけだから」
「な、何を考えているのだ?」
戸惑う森原に較が満面の笑顔で答える。
「良い事」
数週間後、結果報告に雷斗がやってきた。
「奴は、八刃の研究所で監禁されて研究を強制されているよ」
「世間的には、帰国中の事故で死亡した事になってるみたいね」
雷華が新聞に小さく載った死亡記事を見せる。
「あいつは、ああ見えて、名誉欲が高かったからね。悪名だろうが、残したくなかった。あいつの関係した本は、全て回収、論文は、他人が書いた盗作って捏造しておいた」
較の答えに良美が言う。
「だけど、あいつがやった事を考えると、もっと酷い目に合わせて良かったんじゃないか?」
「いいや、多分、肉体的にどんな酷い目に会うより、きつかったみたいだ。年寄り若く見えたあいつが、もうヨボヨボの爺さんにしか見えなくなってたよ」
雷斗の報告に雷華が独り困った顔をする。
「結局、あたしは、大学の推薦の件は、駄目になったわね」
「その事だけど、八刃で今度、学校を作る事になってるからそこの大学だったらあちきのコネで入れて上げられるよ」
較の提案に雷斗が呆れた顔をする。
「あのな、そんなあからさまな裏口入学を受ける訳が……」
「よろしくお願いね」
即答する雷華を呆れた目で見る雷斗。
「……お前も変わったな」
「目的の為に手段なんて気にしてらんないのよ」
雷華が辛辣な言葉を口にする。
「とにかく、今回の一件は、無事に終了。森原教授の件は、八刃に丸投げしたから、大丈夫だし、今回の被害は、日本の大学とドイツのビルだけで後始末も殆ど終わってる。良かった良かった」
平和そうな顔をする較に良美が思い出したように言う。
「そういえば、ホワイトファングを打ち込んだ異界の方は、どうなるんだろう?」
較が顔を強張らせ、冷や汗を垂らしながら口にする。
「異界の事なんてどうしようもない事だよ」
その時、空間が割れ、以前、遭った事があるイルカの八百刃獣、船翼海豚が現れた。
『ヤヤちゃん、八百刃様から直々の御神託。あんたが放ったホワイトファングの影響で、大変な事になってる世界があるからそこを救う事を許された。僕は、その移動役さ』
長い長い沈黙の後、良美が告げる。
「こんな事だと思った」
その場に崩れ落ちる較であった。




