魔法
広大な土地と人資源を使った魔法の実験が始まる
中国西部の国際空港に較達が到着する。
「今更だが、今回の件は、八刃に一任する訳には、行かないのか?」
同行者の如月雷斗の言葉に較が頭をかく。
「雷斗さんの考えは、正しいと思う。でもあちきは、大人じゃないんだよ」
「そうなのか」
残念そうな顔をする雷斗。
「だいたい、こういうことを他人任せにするなんて無責任な真似出来ない」
雷華の言葉に良美が強く頷く。
「そうそう、あたし達にも責任感って奴があるんだよ」
二人の言葉を冷めた目で見る雷斗と較であった。
雷斗が運転する車で移動しながら資料を確認する較。
「森原教授って曲者みたいだよ」
「一応は、まともな大学の教授だろ、どう曲者なんだ?」
雷斗の問い掛けに較がお金のマークを作って見せる。
「金を作るのがやたら上手いの。学術調査といって密輸した色々なヤバ目な商品を売ったり、裏口入学を斡旋してたり。そしてなにより嫌なのは、そうやって作った金を湯水の様に自分の研究に使う事。金儲け優先でもなく、研究一筋でもない。研究をする為に金儲けを節操なくやる一番厄介なマッドサイエンティスト」
舌打する雷華。
「研究の為だったら何でもする上、現実って奴もちゃんと見えてるって本気で厄介な奴だな」
「現実を見えてるってどういう意味?」
雷華の問い掛けに良美が続ける。
「そうよ、子供を実験道具にする様な奴が現実を見えていると思えない」
「見えてるさ。実験台にする子供を中国の農村の二人目以降に限ってるんだからな」
雷斗の言葉に首を傾げる良美と雷華。
「中国は、人口の増加抑制で、二人目以降は、やたら税金が掛かるの。貧しい農民にとっては、それは、死活問題。口減らしとして居なくなっても何処からも突込みが入らない」
「そんなふざけた話があるの!」
いきり立つ良美。
「子供を捨てられず家族で路頭に迷うより、一人子供を売って残りの子供を育てる方が現実的なんだよ」
辛辣な言葉に言っている自分ですら眉を寄せる雷斗。
「とにかく問題は、実験は、この先で行われている筈なんだけど」
較の言葉と共に視界が開け、その先に描かれた巨大な魔法陣とそれに鎖で繋がれ配置された子供達を発見する。
「とりあえず、その教授は、人生終了させるのだけは、確定だね」
良美の言葉に反論は、無かった。
作業をしていた白衣が較達に気付く。
その中でも若い男が声を張り上げる。
「ここは、私有地だ! 勝手に入ってくるな!」
「なんか言ってるよ」
半笑いの雷華の言葉に較が車から降りて空気中の塵を気で収束、加速させる。
『フェニックス』
気で制御された塵が、較の意志力で発火点を下げられ炎の固まりに変化し、フェニックスの形を成し、白衣に襲い掛かった。
慌てて逃げ出す白衣の中で、一人落ち着いた表情をした中年が言う。
「ほう、これが意志力による、理の変化か、興味深い現象だ」
雷斗も降りて告げる。
「あんたが、森原教授だな。あんたのやっている事は、色々とルール違反なんだ。今すぐ止めて子供達を解放すれば、多少は、地獄を見れるが、まだ生きている事を実感出来るぞ」
「それが譲歩のつもりらしいが、研究を貫くって事は、そんな中途半端な気持ちでは、駄目なのだよ」
落ち着いた様子の中年、森原がそう告げると、スイッチを押すと、子供達が叫び後を上げる。
「何をした!」
雷斗が掴みかかるが森原は、平然と答える。
「魔法だよ、発動に必要な意思力を事前予測出来ないため、こうやって過剰な人数を集めたが、成功した様だ」
較がスイッチを奪い、切ると子供達が倒れていく。
「大丈夫なの?」
雷華が動揺する中、良美が即座に動き手近の子供の様子を見て叫ぶ。
「まだ息は、してる。でもヤヤに壊された人間に近い状態になってるから早く治療しないと駄目」
「とにかく、魔法陣から解放して、横にして、医療班は、直ぐに来るから」
事前準備をして置いたメールを送りながら較が森原が持っていた鍵を投げ渡す。
「良いのか?」
解放された森原の言葉を較が無視する中、雷斗が振り返り睨む。
「お前は、この後の自分の心配でもしていろ」
「そうだな、このまま異界とのゲートが開いた状態では、危険だろうな」
森原の言葉に合わせるように魔法陣の中央から、この世界の生物とは、思えない魔物がゆっくりと浮き出てくる。
「えーとあれって、召喚魔法だったわけ?」
顔を引きつらせる雷華に対して較が首を横に振る。
「残念だけど違う。あれは、異界とのゲートを構成する高等魔法だった」
「そんな高等魔法をどうしてあんな奴が使えたの?」
良美の問い掛けに較が忌々しげに言う。
「術式的には、シンプルって言うか、幼稚だけど、それに使っている意志力が莫大だった所為で成功したんだよ」
「一度開けた扉を閉じるには、同じだけの力が必要だ。それを踏まえてもう一度いう、子供達を解放して良いのか?」
森原の言葉に較達の殺意が高まる。
「お前は、本気で外道だな」
雷斗が掴みかかろうとしたが、較が止める。
「そんな無駄事をしている時間あったら子供達を解放して!」
「しかし、そんな事をしたら扉が……」
そう言い淀む雷斗にもう、子供達を解放して、避難させている較の代りに良美が答える。
「そんな門は、子供達を犠牲にしなくたってあたし達どうにかする」
「解った!」
雷斗も参加して、子供達が次々と解放される。
そして、魔物達の中にも完全にこちらの世界に出て来た奴も現れる。
「あちきが魔物相手をするから、その間に子供をお願い! 『バハムート』」
較は、気の攻撃で魔物を牽制しながら接近すると手刀で両断する。
『オーディーン』
「急ぐよ!」
良美に急かされて雷華と雷斗も急ぐ。
子供達が全員解放された時には、百近い魔物がこちらの世界に出現していた。
『シヴァ!』
数体の魔物を凍りつかせる較であったが、その氷を乗り越えて来る魔物。
『ナーガ』
大地が盛り上がり食らいつき、障害物になるが、それでも較に迫る魔物の数は、一向に減らない。
それどころか加速度的に増えていく。
「ヤヤ、ここで一発やっちゃえ!」
「場所が悪い。ここだと地面のゲートをもろともやろうとすると射線に町が入る」
較の答えに雷華が叫ぶ。
「そんなのちょっと角度つければ何とかなるだろう」
「下方向に五度以上角度つけて撃つのは、絶対禁止って念押されていたよ」
良美の補足に雷斗が沈痛な表情で言う。
「当たり前だ、それ以上いくと本気で地球が終わる可能性が0.1パーセントを越すんだぞ」
「千回に一回って事ならなんとかならないかな」
良美の言葉に雷斗が怒鳴る。
「一億分の一の可能性でも地球を破壊するんだったら止めて欲しいんだよ!」
「あれの暴走確立、一万分の一以上だった気がするけど」
雷華の答えを良美が訂正する。
「それって以前の話、今は、八千分の一だよ」
「……俺、人類の未来の為の選択を間違えたか」
真剣に悩む雷斗。
較は、魔物を捌きながら必殺の一撃を放てる位置を確保しようとしていた。
「実に有効なデータだ」
その様子を淡々とデータ取りしている森原。
「駄目だ、どうしてもゲートを完全に破壊する射線が取れない」
較が弱音を吐くと良美が言う。
「ヤヤ、いっその事、ゲート破壊を諦めたらどう?」
「こっちに来てる魔物だけ倒しても直ぐに新しい魔物が来るだけだよ」
較の答えに良美が言う。
「だったら向うに居る魔物ごと倒せば良いじゃん」
「そんな真似が出来るわけがないだろ」
雷華の反応と反対に較が指を鳴らす。
「その手があった。『イカロス』」
上空に飛び上がると較は、ゲートの直上に出る。
『ホワイトファング!』
較の右手から放たれた光は、ゲートに直撃した。
「おい、地球を壊すつもりか!」
雷斗の突っ込みに着地した較が言う。
「大丈夫、ちゃんとゲートの範囲内に納めて撃ったから」
そして、ゲートは、そのままに関わらず、魔物の出現は、止まるのであった。
「これって向こう側の奴等をゲート越しに全滅させたって事だよな」
雷華の問い掛けに較が頷く。
「そうだけどなに?」
「あっちの世界ってただで済んでるのか?」
雷華の指摘に較の頬を冷や汗が流れ落ちるのであった。
「そんな事より、あいつは?」
良美の言葉に較が即座に反応する。
「あそこ!」
較が指差した先には、垂直発信可能なジェット機があった。
「いくらなんでもアレで逃げられたら、もう追いつけない」
『今回の実験は、有意義であった。また会おう』
そう捨て台詞を残して逃げ去る森原であった。
「やられた!」
雷斗も悔しそうにする。
「追いかけよう!」
雷華の言葉に較が首を横に振る。
「先に、子供達を助けるのが先」
「絶対に地獄を見せてやるからな」
もう点にしか見えないジェット機にそう叫ぶ良美であった。




