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人造人間

完全なる人造人間?

「これは、あたしが作ったんだよ」

 小較が自信たっぷり麻婆豆腐をテーブルに置く。

「作ったって、麻婆豆腐の素から作ったんだろ?」

 良美がまぜっかえす。

「お味噌汁一つ作れない人には、言われたくない!」

 小較が怒鳴る中、白風家に遊びに泊り込みで遊びに来ていたシシがフォローする。

「小較の気持ちが篭ってて、凄く美味しいよ」

「そうだよね」

 笑顔になる小較を見て良美が肩をすくめる。

「こんなシーンを二人の父親が見たらどうなるんだろう?」

 シシの顔に冷や汗が流れる。

「大丈夫だよ。もしもなんかしたら、あちきが許さないから」

 較が残りのおかずをもってやってくる姿を見てシシが話題をずらす。

「しかし、八刃の人達は、不思議ですね。谷走を執事にしている間結以外は、本家の偉い人達も特に雑用を人に任せる事は、あまりしません」

 較は、テーブルの上におかずを並べながら答える。

「基本的に自分の事は、自分で出来なければいけないって言うのが基本姿勢だからね。八刃の人間だったら、小学生でも独りで生活出来るよ」

「中学生になる前に無人島で一週間生活するなんて訓練メニューがあったよね?」

 較が苦笑する。

「このご時世に無人島なんて、シチュエーションを探すほうが難しいのにね。どうせなら、無一文で都会に放り出して、公的トラブルを起こさないで一週間過ごさせる方が現実的だね」

 シシが顔を引きつらせる。

「問題にするのは、そっちなんですね?」

「他に何処に突っ込みが入れられるの?」

 較や小較が不思議そうな顔をする中、良美が呆れた顔をする。

「この二人、本気で解ってない。こういう場合、小学生にサバイバル訓練させている事実が問題なの」

 頬をかく較。

「そういえば、そうだね。八刃では、当然の様にやっていて、話が通じるから忘れていたよ」

「えーと、普通は、サバイバル訓練しないの?」

 小較の問い掛けに良美が投げやりに答える。

「良華辺りに確認してみて」

「良美に確認するより絶対良いからそうする」

 小較の答えに良美が睨んだ時、チャイムが鳴った。

「こんな時間に誰だろう」

 較が席を立ち、玄関に行ってドアを開けるとそこには、小較と同じくらいの少女が立っていた。

「ここは、八刃の盟主、白風の長の家だという情報を元に来ました」

 較が目の前の少女の異質さを感じながらも答える。

「そうだけど、何が狙い?」

 少女が即答する。

「私を生かしてください」

「……はい?」

 想定外の答えに較も首を傾げる。



 食堂に連れてこられた少女。

「生かして欲しいって言ったのですか?」

 シシが真剣な顔をして少女の様子を探る中、小較が少女を凝視する。

「ねえ、ヤヤお姉ちゃんこの子、何か変?」

「初めてあった人間を変って言うのは、止めなよ」

 良美が嗜めるが、少女が平然と告げる。

「構いません。私は、人造人間ですから変で当然です」

「「「人造人間!」」」

 良美と小較とシシが驚く中、較が頷く。

「普通の人にある、過去からの魂の縁が感じられないから多分、間違いない。問題は、そんなんがどうしてここに来たかって事だよ」

 シシが頷く。

「そうですね。ここがどんな危険な場所かだなんて、人造人間を作れそうな所でしたら十二分に知っている筈ですからね」

「先程も言いましたが、私を生かして欲しいのです。自分が死んだ後、私を生かせる可能性は、あるのは、八刃だけだと私を作った博士が教えてくださいました」

 少女の答えに較が眉を顰める。

「八刃にしか駄目って、単なる人造人間じゃないの?」

「普通の人造人間って何?」

 良美の突っ込みに小較が答える。

「前に『賢者の石』のホモンクルスのがいたじゃん。そういうのだよ」

 較も頷く。

「人を作り出すって事自体は、今の科学技術でもクローンって方法が確立している。ただの人造人間ならある程度の組織なら生かすなんて可能な筈だよ」

 少女は、淡々と語る。

「博士は、言いました。クローンやホモンクルスは、人の子宮を使わないだけで、その手順は、変わらないと。私は、バイオパーツを組み合わせて作った、完全な生体ロボットだと」

 較とシシが目を見開く。

「本当にそうだとしたら、とんでもないですよ」

 シシの言葉に較が携帯を取り出す。

「そうだね。それだったら八刃じゃなければ駄目って訳も理解できる。とにかく、八刃の研究機関に行くよ」

 こうして、慌しく動き出す較達だった。



 八刃の研究機関で調査を終えた少女、フランケッテを小較と一緒に遊ばせながら較が結果を確認する。

「それで、どうなの?」

 急かす良美に較が眉を顰める。

「本当に完全な生体ロボットだよ」

 同じ資料を見ていたシシも驚嘆の様子を隠せない。

「手には、手専用の遺伝子。足には、足専用の遺伝子しか存在しない。これってこの博士が人ゲノムを大半を解析しているって事になりますよ。信じられない天才です」

 資料を閉じて較が言う。

「はっきり言って、八刃でも手に余る存在だよ」

 較は、無邪気に戯れる小較と無感情的に対応するフランケッテを見る。

「これだけの存在が今まで何の情報も流れていないって言うのが一番信じられない」

 シシがネットを検索しながら言う。

「そうですね。これだけの事をやれる組織ならば、八刃でも動きを追っていそうな気がしますが」

「個人でそれやったんじゃないの?」

 良美の指摘に較が手を振る。

「幾らなんでも無理。バイオパーツを作り出す装置なんてどう足掻いても個人で所有するなんて事は、出来ないからね」

「凄い天才なんでしょ。ヤヤ達が考えない方法で作ってるかもしれないよ」

 良美が食い下がるがシシが否定する。

「数十キロの肉体を維持するのに毎日数キロの質量保存が必要であり、それを食事で摂取するのでなければ、毎日バイオパーツを作り続けなければいけません。手間もそうですが費用、製造装置のスペース、隠蔽性、どれを考えても個人では、不可能です」

 携帯が鳴って、報告を聞く較。

「問題の博士の名前とその博士を援助していた組織が解った。ちょっと話をつけてくる」

「本当に話にいくだけですか?」

 シシの突っ込みに較が笑顔で答える。

「誠意を持って話をするつもりだよ」



 数時間後、アメリカの片田舎にあるアジトのボスの部屋。

「何で、八刃のそれもホワイトハンドオブフィニッシュが出てくるんだ!」

 何故か日本が出来るボスに較が告げる。

「だから、貴方の組織で作っていた生体ロボットを技術込みで買い取りたいって話よ。ほらお金もちゃんと用意してあるよ」

 シシが改めて途方も無い額の現金を見せるとボスの周りの幹部が歓声を上げる。

「だれが渡すか! あれは、シュタイン博士の生体ロボットが我が組織の唯一の力なのだ!」

 ボスの宣言に良美が呆れる。

「詰り、それが無ければ無力なんだ?」

 ボスが言葉に詰るのを見てシシがフォローに入る。

「解っています。組織の理想があり、頑張っているのですね。しかし、先立つものが不足してしまっている。このお金があれば改めて力を生み出すことが出来ます」

 ボスが唾を飲み込み金を見つめるが首を横に振る。

「騙されないぞ! お前に関わった組織は、全部壊滅している。我々も壊滅させられるんだ!」

 その半狂乱ぶりを見て良美が言う。

「ねえヤヤ、これってやばくない?」

「やばいかも」

 較が顔を引きつらせる中、ボスが背後の柱に隠してあったボタンを押した。

「自爆装置だ! 我が組織も終わりだが、お前等が求める物も失われるんだ!」

 完全なやけっぱちの様子に較が怒りを籠めて壁に拳をめり込ませる。

「こっちが折角、乱暴な真似は、避けていたのに! 『ナーガ』」

 周囲の土から生み出されたナーガが次々と組織の構成員を捕獲締め上げて、地上部に脱出させるのであった。

 崩壊していくアジトにボスが狂った様に高笑いをあげ、幹部達が真っ白に燃え尽きる中、シシの冷たい視線に較が顔を背ける。

「今回は、ずっと話し合いをしようと、最後まで乱暴な事は、しなかったよ」

「日頃の行いがいけないのです」

 シシの痛恨の一言に較が項垂れる中、良美が言う。

「結局、必要な情報が手に入らなかったね」

 シシが頷く。

「そうですね。このままでは、数日もしないうちにフランケッテは、死にます」

 較が疲れた顔で言う。

「八子さんに頼めば延命は、可能だよ。そうやって時間を稼いで、なんとか別の方法を探す」

 こうして較達は、日本に戻るのであった。



 一ヵ月後、フランケッテは、八刃が見つけた里親に引き取られていった。

「また遊ぼうね!」

 手を振る小較にフランケッテも僅かに笑みを浮かべて手を振り返した。

 そんな様子を見ながら較とシシは、遣る瀬無い顔をしていた。

「二人ともフランケッテが普通の生活出来るようになったって言うのにどうしてそんな顔してるの?」

 良美の問い掛けに戻ってきた小較も不思議そうな顔をする。

「でも、実際、どうやったの? 途中まで、八子さんにバイオパーツの時間を戻して回復して貰うなんて面倒な事してたよね?」

 較がため息を吐きながら言う。

「出来なかったのかしなかったのかは、解らないけど、脳ミソだけは、フランケッテのモデルにした女性の遺伝子を元に作られた普通のクローンだった。だから、その遺伝子を使って全身を作って、脳内情報をコピーした」

「元々コピー出来るように脳内情報が整理されていたので、ほぼ完璧にコピーできました。元の体は、良い実験材料だと、八刃の皆さんが喜んで解体していましたけど、その程度は、許容範囲です」

 シシの言葉に良美が嫌そうな顔をする。

「それが許容範囲なのか?」

 較が面倒そうに言う。

「今回の事には、それなりにお金も人手を使ってるの。仕方ないよ」

 小較が眉を顰める。

「だったらどうしてヤヤお姉ちゃんとシシがそんな顔をしているの?」

 較と視線を合わせた後、シシが言う。

「良美さんが言っていた様に、許容範囲と納得するのに少し時間が掛かっていただけです」

「ダウト。ヤヤが許容範囲と納得できなかったら、事故に見せかけて体を処分するとかするよ。本当は、何なの?」

 較の嘘だけには、鋭い良美の言葉に較が確認する。

「聞いても遣る瀬無くなるだけだよ?」

「それでも聞きたいの」

 良美の言葉に小較も頷く。

 シシが一枚の写真を見せる。

「この左の人がフランケッテを作った博士、シュタイン博士で。右の人がモデルになった女性です」

「綺麗な人ですね。フランケッテもこんな風になるんだよね?」

 小較の言葉に較が首を横に振る。

「遺伝子が同じでも成長過程の変化で変わる。そして、結末も全く違う。フランケッテは、モデルの女性の様に死ぬ事は、ないだろうね」

 較の意味ありげな言い方に良美が気付く。

「死に方に意味があるの?」

 シシがシュタイン博士の家系図を見せる。

「シュタイン博士の家系は、先天的な遺伝子病での死亡確率が異常に高かったんですよ。実際、シュタイン博士も家族と同様の遺伝子病で死亡しました」

 小較が驚く。

「ちょっと待ってよ! だってそのシュタイン博士って人ゲノムを解析してたんでしょ? だったら、自分の遺伝子治療くらい簡単だったんじゃないの?」

 遠い目をするシシ。

「多分、死が確定する少し前にでも研究すればどうにかなっていた筈です。でも、それをするよりもフランケッテを完成させる事を優先していたのが、自宅から発見した日記代わりのメモから解りました」

 較がシュタイン博士の経歴を見せる。

「元々は、自分の病気を治そうと遺伝子研究が盛んな大学に入ったみたい。そこで会ったのがフランケッテのモデルの女性。一目惚れだったみたい。因みに一目惚れの研究に遺伝子的に自分に欠けた物を求めるってあるけど、その女性は、病気を誘発させるシュタイン博士の遺伝子と対極、同遺伝子の人間が数十億居たとしても遺伝子病が発病する事ない強い遺伝子だったらしいから、そこに惹かれたのかもしれない」

 良美が首を傾げる。

「モデルの女性が死んだとしてもシュタイン博士がフランケッテを、生体ロボットをそこまで必死に生み出そうとする理由が見えてこないよ?」

 シシが辛そうに言う。

「遺伝子病で亡くなったんですよ。その発病確立は、百億分の一。全人類合わせたって、発病するかどうかです。当然、フランケッテは、発病する確立は、地球が爆発するよりも低いです」

 良美と小較が何それって顔をするのを見て較が言う。

「凄く神を恨んだみたいだよ。発病率が高い筈の自分より先に二度と発病者が出ないだろう遺伝子病を発病させた事にね。だからシュタイン博士は、完全に神の関与しない体、全てを自分で設計した生体ロボット、フランケッテを作ろうとした。それなのに、フランケッテの生かしたのは、神の生み出した遺伝子配列を残した脳みそだった。この事実を聞かされた時、最低のブラックジョークを聞かされてるんじゃないかって思ったよ」

「同感です。自分の命までなげうってした事が、全部無意味だったと言わんばかりの結末だなんて」

 シシがやりきれない顔をするのを見て小較が呟く。

「神様って自分に逆らう者には、残酷なのかな?」

 較もシシも答えられない中、良美があっさりと言う。

「大丈夫、神様なんて卵料理一つでいうこと聞かせられるから」

「もー真面目な話をしているのに!」

 怒る小較と笑って取り合わない良美。

 シシが較に小声で尋ねる。

「さっきのってまさか?」

「神様にも色々居るからねー」

 較は、遠い目をするのであった。

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