鳴り響くサイレン
ヤヤの情緒が不安定な連作になります
「世界が滅びるのか!」
白い光が天を覆った。
現地の人々は、それが世界の終末の前兆だと疑らなかった。
しかし、それを成した少女、較は、地面に倒れて言う。
「これで終末は、免れたよ」
較が相対していたのは、この世界を侵食しようとしていた異邪の端末。
もしもその数億にも及ぶその端末の一つでも残っていれば本体である、緑蝕の魔王がこの世界を侵蝕しつくしていただろう。
命懸けでそれを防いだ較と良美だったが、残念な事にそれが賞賛される事は、無かった。
「この破壊魔が!」
傍で一部始終を見ていた男が憎悪の限りを籠めて叫ぶ。
「あのオヤジ、何か文句あるみたいだね」
ホワイトファングを撃った影響で体に不調を抱える良美が面倒そうに言うと較も気だるそうに答える。
「多分、あちきが消し飛ばした異邪の端末の巣窟になった浮遊島の事で文句があるんじゃないかな?」
「文句だあるだと! 当たり前だ! あの島がどれだけの価値を持ち、どれだけの歴史があり、どれだけの労力と精魂が籠められて居たかお前等に、解るのか!」
男の絶叫を左から右に聞き流しながら脱力感に襲われるままに寝転がる較と良美であった。
「これで何度目か解らないけど質問するわ。自分のした事の重大さが解っている」
希代子さんの事務所に呼び出しをくらった較が身を縮める。
「えーと、今回も仕方なかったんです。あのままあの異邪を放置すれば、世界が侵蝕されてしまったんですよ」
必死に言い訳をする較に対して大量の資料を取り出して半眼で睨む希代子。
「結果的にそうだったのは、認めるわ。しかし、その過程でもっと八刃から応援を呼んでいれば、ここまで事が大事にならずに済んだ筈」
更に小さくなる較。
「あの時は、その場の勢いって奴がありまして……」
頭に血管が浮き出たのが想像出来るほどの怒気を籠めて希代子が怒鳴る。
「その場の勢いで毎回毎回、数億円以上の被害を出さないで!」
「ごめんなさい!」
米搗きバッタの如く頭を下げまくる較。
大きく深呼吸をして少し落ち着きを取り戻してから希代子が言う。
「これまでがどうにか生き残れたからって次も生き残れるとは、限らないんだからね。もう少し八刃の力を使いなさい。そうすれば必然的に被害も少なくなるんだから」
姪を心配する伯母の顔を見せる希代子。
「気をつけます」
素直に受け入れる較を見て、新たな書類を取り出す希代子。
「それでは、後始末の話に入りますよ」
その書類の山を見て嫌そうな顔をする較であった。
「また希代子さんに呼び出されているんだ」
小較の夕食の買出しに同行する良美。
「そうだよ。今回は、浮遊島を消失させたんだよね?」
較から預かったメモを見ながら食材をかごに入れていく小較。
「秘匿されていた島の一つや二つ消えた所でそんな大問題じゃないと思うけどな?」
さり気なく肉をかごに入れる良美。
「秘匿されていたからって無かった訳じゃないよ。質量がある以上は、他に影響があるわけで、周囲の環境にも影響が出るんだよ」
小較は、入れられた肉を戻す。
「今回も後始末が長引くのかな? 小較の作るご飯は、いまいちだから早く終わってくれると良いな」
良美のぼやきに小較が頬を膨らませる。
「別に無理に食べる必要ないよ!」
そんな平和な風景、そんな中、良美にまだ物心もついていなそうな少女が近寄ってくる。
「お母さんとはぐれたの?」
そんな良美に少女が触れて吐血し、魂を失っていた。
流石に言葉を失う良美、そしてスーパーの中に悲鳴が木霊した。
「無事なの?」
慌てて戻ってきた較の問い掛けに辛そうに良美が言う。
「あたしは、ただあの子の手形が付いただけだけど……」
残った手形から魂がない少女の事を思い出している良美だったが、較は、残った手形を見て、怒鳴る。
「右鏡、左鏡、貴女達は、何をしてたの!」
慌てて現れる右鏡と左鏡。
「どうしたのでしょうか?」
右鏡が緊張した面持ちで確認すると較が問題の手形を見て告げる。
「呪刻をつけられるなんて失態をしてどうしたって聞きたいの?」
一気に青褪める二人。
「そんな、あの子が術者な訳が……」
左鏡が弱々しく呟くが較が無視する。
「今すぐ良美を八刃の施設に連れて行くから後は、何とかしなさい!」
較は、良美の手を引っ張ってその場を離れ様とする。
「君、彼女は、大切な……」
止めに入ろうとした警官だったが、較と視線を合わせた瞬間、失禁した。
「どうした!」
周りの警官が集まる中、問題の警官が頭を抱えて呻く。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない……」
異常な状況に警官が較達を止め様としたが右鏡と左鏡がそれを防ぐ。
「悪いけど、ここでのことは、全部忘れて貰うわ」
「関わらない方が幸せな事なんです」
二人が次々と気絶させていく。
八刃の研究施設。
「それで、この手形には、どんな意味があるの?」
検査が終わった良美の言葉に至急の呼び出しに答えてくれた八子が言う。
「かなり面倒な事になっているわ。結界は、一応万全だけど、この外には、出れないと思って」
資料を何度も読み直していた較の周りに人は、居ない。
溢れ出す殺気に誰も近づけないのだったが、良美が無造作に近づき、頭を小突く。
「ヤヤ、自分の世界に入っていないで事情を説明して」
較は、深呼吸をしてから説明を始める。
「問題の子供は、浮遊島事件の首謀者の娘。あいつ、自分の娘に魂を利用した術を使ったんだよ」
「どんな術?」
子供の魂が失われた事にショックを隠せない良美に八子が答える。
「簡単に言えば、その手形が貴女を殺す呪力の受信機になっているわ。それがある限り、貴女を殺そうとする呪力を防ぐのは、難しい」
「八子さんが全力を使った空間遮断結界でなんとかって感じだよ。暫くは、ここで大人しくしていて」
較が立ち上がるのを見て良美が言う。
「どこに行くつもり?」
「娘すら犠牲にする馬鹿をぶち殺して、面倒な呪力の発信を止めて来る。そんなに時間は、掛からないから安心して」
殺気を隠そうとしない較の肩に良美が手を置く。
「何?」
振り返った較の顔に良美の拳が命中し、骨が折れる音が聞こえた。
「馬鹿、何やってるの!」
自分が無傷なのに顔を青褪める較を拳の骨が折れた良美が睨む。
「これが今のヤヤの現状だよ。普段のヤヤだったら、こんな事にならないよ」
「それは……」
言葉に詰る較に良美が怒鳴る。
「もっと考えて! 復讐の為に娘の命を捧げるなんて馬鹿な奴を殺すなんてテンプレートな結末なんてあたしは、認めないよ!」
較が沈黙する中、希代子が現れる。
「一つ朗報よ。あの子、まだ完全に死んでいない。手形の効果があまり使われていない今だったら、まだその手形に籠められた魂を体に戻して復活させる事は、可能」
良美が微笑む。
「馬鹿な父親を半殺しにして、手形の魂を戻してあの子を助けてあげようよ!」
較が戸惑う。
「それでいいの? ヨシは、自分の命を狙われたんだよ?」
良美が胸を張って言う。
「あたしは、心が広いから。それにあんな小さい子が死ぬなんていけないよ」
較の殺気が薄れる。
「解った。八子さん、あの子の方もお願いします」
「子供は、未来。それを護るのが先に生きるものの役目だものね」
八子が了承すると較が改めて動き出す。
較が部屋から出た後、良美が蹲る。
「けっこう痛いね」
八子が回復させながら言う。
「かなり酷い骨折だったけど、よく我慢できたわね?」
良美が笑顔で答える。
「ヤヤを暴走させられないか。それがあたしの役目だしね」
そんな良美を見て希代子が目に涙を浮かべる。
「貴女がヤヤの傍に居てくれる。その幸運を神に感謝するわ」
空港で飛行機を待つ較。
その周りを黒服の男達が囲む。
「何の用か知らないけど、あちきは、いまあまり機嫌が良くないからね」
較の脅しに黒服達が怯むがそれでも包囲を崩さない。
「貴女が機嫌が悪い事は、知っています。しかし、出国して頂く訳には、いかないのです」
黒服を割って、白いスーツの白人男性が現れた。
「冗談だよね。あちきは、ちゃんと出国申請も出しているよ」
「了承は、されていない筈です。このままでは、許可が下りません」
白スーツの言葉に較の目が鋭くなる。
「何処の手の人間かは、知らないけどあちきを止められると思ってるの?」
白スーツがあっさり首を横に振る。
「無理でしょう。しかし、今回の事で無茶をすれば、八刃にも多大な不信が生まれるでしょうね?」
舌打ちする較だったが、目を瞑り、気を落ち着かせてから呟く。
「目的は、何? こんな危険な役を買って出た以上、何かしらの目的があるんでしょう?」
白スーツが笑みを浮かべる。
「話が早くて助かります。ちょっとホワイトファングを誤射して欲しいんですよ」
「あちきの力をを悪用しようと言うの?」
較から再び殺気が噴出す。
白スーツがオーバーアクションで否定する。
「世界平和の為に必要な事です。核武装したテロ国家があります。そこの核ミサイル基地の場所が丁度、貴女が向う場所と隣接しているんです。後始末は、こちらでお任せ下さい」
「あちきがその案を断ったら?」
較の問い掛けにも白スーツは、笑顔を崩さない。
「私達には、貴女に何も強制する事も出来ませんし。何も求めていません。ただ、貴女が偶々誤射をしたとしても、それをフォローする準備があると言っているだけなのですよ」
較は、面倒そうに言う。
「そして、そっちの意に沿わない場合は、今回の事を殊更大袈裟に問題視し、八刃に不利益が降りかかるって脅しって訳ね?」
「八刃を敵に回すなんて怖いことは、私達は、間違ってもしません。それに八刃にとって見ず知らずの国がどうなろうが関係ないでしょう?」
白スーツの白々しい台詞に較が苦虫を噛んだ顔をしながらも告げる。
「あちきがホワイトファングを撃つ可能性があるから、危険がありそうな範囲の人は、避難させる様にしてね」
「そうですか。私達は、人類の平和を願う者。最大限の努力をさせてもらいます」
白スーツの胡散臭い微笑みに較は、激しい殺意を覚えながらも飛行機に乗るのであった。




