24 王宮魔法士部隊
24 王宮魔法士部隊
「馬だが」
父が話しかけてきた。リリーは無言で、その先を待った。
「馬だが……あの馬だが、その……」
「お兄様が乗りつぶした馬ですか?」
リリーがそう言うと、兄は嫌な顔をした。
「お父様、私も馬が欲しいですわ」
アナベルが口を挟むと、父はそちらへ顔を向けた。
「何だ、アナベル。馬が欲しいのか?」
(これで、あの馬のことが話題になることはないわね)
「はい。私、次は乗馬で競技会に出ます」
「そうか。なら、おとなしい馬がいいな」
父とアナベルの話が続くなか、リリーは席を立った。
「それでは、失礼します」
何だか消化不良で、おもしろくなかった。
(でも、これくらいでいいのかしら。もうすぐ離れる家族だし)
ロバートは相変わらずアナベルを迎えに来ていたが、手首の痛みがなかなか取れないようだった。
侯爵家に出入りする治療師なら、それなりの腕はあるだろう。それでも、ロバートは手首に包帯を巻き、痛そうにしていた。
(いい気味だ)
数日後、リリーは学院の応接室でブルースとハリソンに会った。
ブルースが家を訪ね、リリーの王宮魔法士部隊への入隊について話をする。その前に、詳しい条件を教えてもらったのだ。
正式には、騎士団の下にある王宮魔法士部隊だという。研究部門と戦闘部門に大まかに分かれているらしい。世間では、魔法士部隊といえば戦う部隊だと思われていた。しかし、戦闘力は必要はないそうだった。
(それなら、転ばないし!)
どうやら、研究をする場所らしい。魔力を最大限に使ったらどうなるか、魔法の使い方をどのように教えればよいか。そういったことを研究するのだという。
(ということは、やりたいことをやっていいのね)
騎士団の下に所属するので、身分は王宮武官になるそうだ。
(研究と称して図書館にこもっていても武官って、いいのかしら?)
学院へ指導に出向くこともあるという。
(これなら、場合によっては治療魔法のことを明かしてもいいかも……)
給料の額についても説明を受けた。ただ、それが多いのか少ないのか、リリーにはよくわからなかった。
(お金のことは、これから勉強しよう)
動物を飼っていると伝えると、王宮の寮の端にある、裏庭付きの部屋を割り当ててくれることになった。ちょうど空いているらしい。
掃除をする人も派遣してくれるうえに、食事は三食、食堂で食べられるという。
(何だか楽しみ。それでお給料までもらえるって!)
けれど、浮かれてばかりもいられない。
(騙されていたら大変だから、お父様にも話を聞いてもらって……いえ、だめね。お父様は頼りないから、ナタリーのお父様に相談しようかしら)
よく話を聞いて、すぐには署名しない。
(この心構えで大丈夫)
二人の訪問を知らせる連絡が届いた日、母はリリーの帰りを待っていた。初めてのことだった。
「リリー、王宮魔法士部隊からって、どういうこと?」
「私の仕事についてです」
「仕事って?」
「その説明ではないですか?」
「だから、どういうこと?」
「着替えたいので、あとで」
リリーはそう答えて、自分の部屋へ向かった。
着替えを済ませると、お茶を飲みながら、ゆっくりと本を読んだ。
しばらくすると、母がやってきた。
「いつまで待たせるの? もう着替えたでしょう。説明なさい」
「私、ちゃんと、あとでって言いました」
リリーはそう答え、本に目を戻した。
(あとで。今度ね。断り文句だと理解しておりますよ)
「だから、この手紙。仕事ってあるけど?」
母は、意識して抑えた口調を保っていた。
「わかりません」
リリーはすました顔で答えた。
「わからない?」
母の声が尖った。
「わかるなら、説明に来ていただく必要もないかと」
リリーが小馬鹿にした口調で返すと、母は声を荒らげた。
「いい加減にしなさい。説明しなさい」
「わからないことを説明するには、どうすればいいのですか? お母様だって、婚約者を妹に取られたときの態度について、まだ説明してくださっていませんよ。説明が難しいなら、実演してください」
リリーは肩をすくめた。
「もう! いいわ。せっかく心配してあげたのに」
母はそう言い残して、部屋を出ていった。
廊下では、父が待っていたらしい。
「どうだった?」
母に尋ねる声が、部屋のなかまで聞こえてきた。
(ふん! 気を揉むといいわ)




