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1.「プロローグ」

「いやぁぁあああ!」


何度四肢を斬り落とされただろう。


「ライ! ライぃいい!!」


 何度胴体を貫かれただろう。


「いやぁあ! 死なないでぇえええ!」


 何度吐血し、喀血しただろう。


 仲間の美少女たちが泣き喚く。


 頼むから、泣かないでくれ。


 みんなが泣くようなことじゃないんだ。


 ……って、柄にもなく格好つけちゃったけど、いや、ほんと!

 冗談抜きで、もう泣くのやめて!


 だって、今死に掛けてる俺ってさ。

 そう見えるだけ――つまり、ただの幻影魔法(うそ)だから!


※―※―※


まずは、俺が火力極振りパーティ【銀閃の焔】に入るまでの話をさせて欲しい。


「はっくしょん! ……ズビー……」


 ……っと、その前に、失礼。

 まさか異世界でも花粉症に掛かるとはな。

 おかげで、常に涙と鼻水まみれで、唾をまき散らす日々だ。


 ……話を戻そう。


異世界転生した俺は、さっそく母親に捨てられた。

その母親とは似ても似つかない、素晴らしい姉と一緒に。


前世でも姉がいたので、そういう運命なのかもしれない。


「よし、行くか」


その後、紆余曲折を経て、山中で銅剣を拾った俺は、七年ほど必死に我流で剣技を磨いた。


そして、それまで暮らしていた山から下りて、一ヶ月歩き続けて、このシュルデバーグ王国の王都であるコアルズに辿り着いた。三年前のことだ。


 冒険者ギルドに行った俺は、受付のお姉さんに迷わず聞いた。


「女性だけの冒険者パーティはありませんか?」と。


 そう。

 俺は下心満載だった。


 前世も今世も女性経験が皆無の俺は、女の子だけの冒険者パーティに加入してキャッキャウフフの輪に入れてもらえば、毎日天国じゃね? と、安直に思い付いたのだ。


 引き攣った笑みを浮かべた受付嬢に紹介されたのが、銀閃の焔だった。


「!」


実際に会い、一目見た瞬間。

どうしようもなく惹かれた。


 茶色のロングヘアをポニーテールにしている美少女剣士(人間)のソティ。


 ウェーブの掛かった長い金髪と碧眼を持つ、年齢不詳(だが年上なのは何故か分かった)のハイエルフ美女戦士エルラ。


 炎の精霊の血を受け継ぐ美少女(の年齢だが幼女に見える)で、炎そのものに変化させた拳の殴打で炎を放つ魔拳士のファラティア。


 見目麗しいパーティであり、確かにその点も大いに惹かれたが、一番の決め手は、彼女たちの年齢だった。


「よっしゃ! 全員年上だ!」


 みんな、俺よりも年齢が上だったのだ。

 まぁ、当時俺は十二歳だったので、どちらにしても俺よりも若い冒険者などほとんどいなかっただろうけど。


 え? 何で年上なのがそんなに重要なのかって?

 う~ん、自分でもよく分からないけど、可能性として有り得るのは、現代日本でもこの異世界でも姉がいたから、その影響だろうか。


 全く自覚はなかったのだが、そう考えると、俺はシスコンだったのかもしれない。何かヤだな、おい。


「コホン。何はともあれ」


現在、俺は十五歳、ソティは十六歳、エルラは相変わらず年齢不詳で、ファラティアは十八歳になった。なお、リーダーはやはり最年長のエルラだ。


 もう三年間も一緒にいるのだ。

 かなり仲が進展したと思うだろうか?


「一ミリたりとも進展してねぇぇえええ!」


 そもそも、彼女たちにとって俺は、最初の印象が最悪だったらしいからな。


「うわ……また性懲りもなく男が来たのね……」

「ハッ! 気持ち悪くて反吐が出るってもんさ!」

「ファラ、そろそろこういう輩は燃やして良いと思うの!」


 ソティたちは、俺のことを飢えたケダモノだと思ったらしい。

 

 失敬な! 俺はそんな下心だけで動いてなんか――いました。はい、申し訳ありませんでした。


 どうやら、女性のみのパーティ且つ美少女&美女ばかりということで、それまでにも既に嫌になる程チャラチャラした軽薄そうな男ばかりが、「一緒にパーティを組もう」、または「加入させて欲しい」と言ってきたのが原因のようだ。


 ううっ、耳が痛い……


「ということで、男は要らないから」

「ま、待って! 一回だけで良いから! まずはお試しで!」

「ハッ! この棍棒で叩き潰されたいのかい?」

「た、頼む! 一度だけ! どうか何卒おおお!」

「ファラ、しつこい男は嫌いなの。燃やすの」


叩き潰されそうになりながら、燃やされそうになりながらも、必死に懇願し続けて、やっとお試しで加入させてもらえることになった。


「はぁ。一回だけよ?」

「おおお! ありがとう!」


 俺は、みんなの役に立とうと、必死に頑張った。

 少しでも認めてもらえるように、全力でダンジョン攻略に取り組んだ。


「全然駄目ね」

「ハッ! 今まで見てきた男どもの中で一番貧弱だね」

「とっとと諦めてどっか行くの!」


 けど、俺はみんなの足を引っ張ることしか出来なかった。


 自分が有益であると絶対に分かってもらわないといけないという凄まじいプレッシャーの中で、極度の緊張状態に陥った俺は、七年間の修行の成果を全く出せなかった。


 というか、当時のソティたちは結成半年にもかかわらず既にC級冒険者であり、そもそもF級冒険者(ルーキー)が並んで立てる訳が無かったのだ。


「お願いだ! も、もう一回だけ! もう一回だけで良いから、チャンスをくれないか?」

「え~?」


 土下座して額を地面に擦りまくることで、「ああもう、しょうがないわね」と、何とか了承してもらえた。


 その後も、「やっぱり駄目じゃない」「ハッ! どこまでも役立たずだね」「見込み無しなの!」と、拒絶され続けながらも、必死に懇願、食らいつき続けて、今に至る。


 空回ってばかりだった最初の頃を経て、俺は落ち着いて戦況を分析するという頭を手に入れた。


 すると、モンスターの動きを冷静に把握出来ると同時に、自分よりも三個も上のランクである仲間たちの戦いぶりを観察することが出来た。


「スゲー……」


 前衛・後衛に分かれて、連係して戦う彼女たちに圧倒された。


 だから、俺はそんな彼女たちを極力邪魔しないように、中衛に位置しながらサポート役に徹することにした。


「『ファントム』」


 そこで俺が(密かに、小声で)使ったのが、幻影魔法だった。


 敵に幻を見せて、油断させたり、隙を生じさせたり、同士討ちさせたりするものだ。


 確かこの異世界に転生した直後は持っていなかったと思うのだが、いつの間にかステータスウィンドウの固有スキルの欄に書かれていたのだ。【ゲンジュツ】というものが。


 幻術……つまり、幻影魔法を扱えるようになる、というスキルだ。


「男として異世界転生したからには、最強剣士を目指すべきだ!」という信念のもと、俺は当初幻影魔法には見向きもしなかったのだが、背に腹は代えられない。


 斥候をやらせて欲しいと申し出た俺は、モンスターを発見次第、幻影を見せてフラフラとおびき出したところを仲間たちに攻撃させた(幻影魔法発動後は速やかに中衛に戻った)。


 また、複数のモンスターを互いが敵同士――つまり俺たちに見えるように仕向けて、同士討ちさせたりもした。


「ダンジョンの中をイルカが泳いでるわ!?」

「ダンジョンに花畑!? どうなってるんだい!?」

「向こうにもファラたちがいるの! でも、鏡なんて無かったはずなの!」


 惜しむらくは、俺は器用ではないので、敵に対して使用した幻影が、仲間たちにも見えてしまうということだ。俺自身にも見えるのは言うまでもない。


 だが、今となっては逆に良かったと思う。

 命懸けで仲間を助ける、という俺を演出することが出来るからだ。


 自分で言うのも何だが、俺の幻影はかなりリアルで、現実と混同してしまうほどなので、これは使えると思った。


「がはっ!」

「「「!」」」


 初めて身を挺して仲間を庇ったフリをした際、ソティたちはちゃんと幻影魔法で騙されてくれた。


 B級ダンジョンのボスである、鬼のような見た目のオーガ戦。


三メートルの巨躯にもかかわらずスピードがかなり速いオーガに距離を詰められ、回避も防御も間に合わなかったソティを庇い、俺が代わりに棍棒の一撃を食らって吹っ飛び、左腕と肋骨を骨折する――という幻を見せた。


 攻撃終わりの隙を突いて、ソティたちは長剣・棍棒・炎で畳みかけて、オーガを袈裟切り、頭部を上段から叩き潰し、全身を燃やし尽くして倒した。


 嘘だとバレないようにリアルを追求した俺の幻影は痛みすら再現しているので、激痛を感じつつ、ちゃんとハイポーションを飲んで俺は怪我を治す。


「そういうの、やめて」

「!」


 しかし、どうやら俺の行為は全く評価されなかったようだ。


 当然だ。今まで完全にお荷物だった奴が、一度や二度貢献したくらいで、評価が百八十度変わるなどと期待するのはあまりにも都合が良過ぎるだろう。


 だから、俺は決意した。


「信頼してもらえるようになるまで、何十回でも何百回でも庇い続けよう!」


 A級ダンジョン攻略に取り掛かり、敵が圧倒的に強くなりピンチに陥ることが多くなった仲間たちを、俺は何度も庇った。


 骨折は日常茶飯事。

時にモンスターの爪で腕が斬り落とされ、時に脚が切断された。


 胸を、腹を貫かれた。

 ブチブチと肉を食い破られた。

 噛み千切られた骨をしゃぶられた。


「やめて!」

「やめな」

「やめるの!」


 その度に、ソティたちに同じ言葉を掛けられた。

 俺は、まだ努力が足りないのだと思い、もっと頑張って庇おうと奮起した。


※―※―※


 そして、運命のあの日。


 俺たちは、A級ダンジョンのボスと遭遇した。


 A級ダンジョンで出てくるのはその名の通り、基本的にA級モンスターばかりなのだが、唯一の例外がボスだ。


 ボス部屋に待ち構えるモンスターだけは、一つ上のランクなのだ。

 つまり、今回はS級ということになる。


「このまま一気にボスもやっつけちゃうの!」

「いや、流石にそれは無謀ってもんさ。最下層に辿り着くまでにかなり体力を消耗してしまったからね。今日のところは、一旦引き上げるべきさ」


ハイエルフなのに魔法も弓矢も使わず、代わりに棍棒で戦うエルラは、やたら肌面積が多い鎧を装備、荒々しい言動も目立つが、パーティリーダー且つ最年長として、ファラティアの無謀な提案を却下した。


「やだやだやだ! ファラは今すぐ戦いたいの!」

「我がまま言うんじゃないよ」

「やだやだやだ! やだやだやだやだ!」


 十八歳とは思えない様子で駄々をこねるファラティア(見た目通り幼女なのでは? と錯覚してしまう)と「はぁ、全く」と閉口するエルラという二人を見かねて、ソティが間に入って提案する。


「じゃあ、ボスがどんな感じか、ちょっとだけ様子を見に行くっていうのはどうかしら? 勿論、見たら直ぐに帰るわ」

「まぁ、それなら……」


 エルラが折衷案を呑み、俺たちは様子を見に行くことにした。


 最下層の最奥にあるだだっ広い空間――明らかにボス部屋であろう場所に辿り着くと、松明の数が極端に少なく、かなり薄暗かった。


「何あれ!?」


目を凝らして見てみると、中央でアイスドラゴンが死んでいた。

A級ダンジョンのボスが。


すぐ傍には、ウィンドドラゴンも倒れていて、こちらも絶命している。


「同士討ち!?」


 基本的に、ボスが倒されるとまた別のボスがやってくるものだが、こういうこともたまには起こる。まだボスが健在なのに、殴り込みに来るのだ。


「いや、ちょっと待て。あの傷は――」


 俺は、思わず声を上げた。

 どちらのドラゴンも胴体が大きく抉り取られていることに気付いたからだ。


 まるで、二匹のドラゴンですらも相手にならないような、強大な敵に殺されたかのような……


 嫌な予感がした。

 背中を冷たい汗が伝う。


「今すぐここを出よう!」


 俺が踵を返すと、つられて仲間たちも振り返った。


「ガアアアア!」

「ブ、ブラックドラゴン!?」


 三匹目のドラゴンが闇の中から現れた。

 SS級の最強モンスターが。


 魔王の右腕として恐れられる獰猛な漆黒竜は、どうやら、他の二匹のドラゴンたちよりも巨大なその身体を、暗闇の中に隠していたようだ。


 退路を断たれた俺たちには、戦う以外の選択肢が無かった。


「やああああ!」

「おらあああ!」


 A級ダンジョンに挑むにあたって、オリハルコン製に変えた長剣と棍棒を、跳躍したソティとエルラが上段からブラックドラゴンの頭部に叩きつけんとする。


「ガアアアア!」

「ぐはっ!」

「がはっ!」


 俊敏に身体を回転させたブラックドラゴンの尻尾によって吹っ飛ばされた二人が、壁に激突、地面に落ちる。


「よくも二人を! 許さないの! たああああ!」


 ファラティアが炎へと変化させた小さな両拳で殴打ラッシュをすると、数十発の炎塊が飛んでいった。


「ガアアアア!」

「そんな!」


 ブラックドラゴンが吐いた闇炎のドラゴンブレスにより、ファラティアの火球は全て飲み込まれ、消滅した。


「ガアアアア!」


 ブラックドラゴンが大口を開けて、再び闇炎のドラゴンブレスを放とうとする。マズい!


「『ファントム』」


 咄嗟に俺は呟き、幻影魔法を発動した。


 俺が身を投げ出してみんなを庇う、という幻だ。


 そのおかげで、ブラックドラゴンに隙が出来て、態勢を立て直した仲間たちが攻撃して、倒すことが出来た。


「いやぁぁあああ!」

「ライ! ライぃいい!!」

「いやぁあ! 死なないでぇえええ!」


 闇の炎に焼かれて、四肢が全て焼け落ち、ずるりと臓物が外に出てしまっている俺の姿に、ソティたちが泣き喚く。


 流石俺の幻影魔法。

 仲間たちだけでなく、俺自身もちゃんと騙してくれる。

 これだけ激痛を感じていれば、演じる必要もない。


「……みんな……無事か……?」

「! ……ええ、無事よ! 貴方のおかげよ、ライ君!」

「ライ! 死ぬんじゃないよ!」

「ライライ! 死んだら許さないの!」


 みんながこんなに泣いてくれるだなんて!

 つまり、それだけみんなの役に立てたってことだ!

 最初と全然違う! 嬉しい! これからは、もっと頑張ろう!


 それにしても、本当、この世界のハイポーションは優秀だ。

 両手両足、そして臓物が飛び出ている下腹部に仲間たちがハイポーションを掛けて、俺に何本も飲ませてくれると、俺は元通りに回復した。


 ……いや、どうやら俺みたいにハイポーションを超高頻度で飲む奴はいないらしく、ちょっと効き目が悪くなっているので、時々胸や腹が痛くなって蹲ってしまったりもする。


と言っても、あくまで幻影魔法がそのように俺に感じさせている、というだけだけどね。だって、そもそも怪我自体していない訳だから。


そこまで再現するとか、俺の幻影魔法は本当にすごいね!


 とにかく、今回は間違いなく成功だった!

今後は、更に精進して、みんなを庇いまくろう!


 ……そう思っていたのに……


「……ライ君、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい……私のせいよね……私が『ボスがどんな感じか、様子を見に行く』なんて言ってしまったから……私は、どうしたら償えるかしら……一体、どうしたら……そうだわ! ライ君、お金が必要なのよね? それなら、私が自分の内臓を売って稼ぐわ。ウフフ。大丈夫よ。肺も腎臓も二つあるじゃない。目や耳だってそうよ。一つくらい無くなったって死にはしないわ。それに、そもそもハイポーションがあれば、元通りに回復するじゃない。何も心配しないで。もう貴方はダンジョンには潜らずに、ゆっくりしていて。ウフフ。ウフフフフ」


「……ああああ! もしあんたが死んじまったら、あたいは……あたいはああああああああ! ……そうだ……あんたが死なないようにすれば良いんだ……そうすれば、ずっと一緒にいられる……ライ。あたいの肉を食べておくれ。よく言うじゃないか、人魚の肉を食べると不老不死になるって。長寿を誇るあたいらハイエルフの肉にも、もしかしたらその効果があるんじゃないかい? 試してみる価値はあるさ。腕でも脚でも、内臓でも何でもあげるからさ、食べておくれ。そしたらきっと、あんたはあたいと同じになる。一緒に何百年何千年と一緒に生きよう……。……これで、もうあたいらは永遠に離れることはなくなる……ずっと一緒さ。フフッ」


「ファラが『このまま一気にボスもやっつけちゃうの!』って言ったせいで、ライライは酷い目に遭っちゃったの……本当にごめんなさい……本当に……本当に……本当に……。……お詫びと言ってはなんだけど、ファラの血をあげるの。ファラは精霊の血を受け継いでるから、飲めばきっとライライの胸やお腹の痛みを治してくれるの。あと、飲んだ後に副作用が出てないかとかも、ちゃんとチェックしてあげるの! つい先日ファラに発現した固有スキル【超知覚(スーパー・パーセプション)】で! これからはこれを使って、ファラがライライの内臓の状態を常に知覚してあげるの! 脳も、心臓も、肺も、胃も、膀胱も、小腸も、大腸も、全部の健康をファラが管理してあげるの! だから、安心するの! キャハッ♪」


 ……あれ? おかしいな……

何か、みんな……ヤンデレ化してない?


……もしかして、これ……

『全部幻でした』ってバレたら……殺されるんじゃね?


※―※―※

この時、まるで俺自身が幻影魔法の影響を受け記憶改竄までされていたかのように、忘れていた。


 前世でも今世でも俺の代わりに目の前で姉が死んだことを。


そして、この時、俺は気付かなかった。


 そんな残酷な現実を心の底から恨んでいた俺のステータスウィンドウの固有スキル欄にある【ゲンジュツ】という文字が【ゲンジツ】へと変化していたことを。

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