第69話 魔人スカーレットは休暇を取る
休暇を取る! また会う日まで!
「返事は今すぐでなくてもいいわ。でも、準備もあるから一週間後までには答えを聞かせて」
そう言ってその日、コラーユはまだ残っている仕事もあるのでいったん城を離れた。あれから数日が経ち、二日後には返事の期日となっていた。
「ううん、どうしよっかな?」
部屋で頭を抱えるスカーレットの元に、じいやがノックもしないで部屋に入ってくる。
「まだ決めてないんですか? 特に悩む必要ないじゃないですか? 休み欲しいって言ってましたよね?」
「だからノックしろっての! ……そうなんだけどね」
「……何が気になってるんですか?」
彼がまじめな表情で尋ねると、「はあ」とため息をついてスカーレットは語り出した。
「あたしはね、『休み』は好きだけど、『休む』のは苦手なのよ。決められた休みと自分で休むことは違うの。あたしが楽しく遊んでいる間に、代わりの誰かが働いているって考えると気が進まないのよ……」
そう言っていつもの元気がないスカーレットに対し、黙って彼は話を聞いた。
「確かにあたしがしばらくいなくても大丈夫なのはわかってる。お父さんも復帰するし、ちょっと頼りない勇者や生意気な後輩魔人もいることだし。でもね、それとこれとは別なのよ」
とうとうと話し続けるスカーレットの気持ちが、いつもそばにいるじいやにはわかった。『自分の仕事が誰かの役に立つ』それが彼女の働く理由だ。でもだからこそ、それを横に置いてまで自分が休息を取る必要があるのかを悩んでいるのだと。
彼女の気持ちは素晴らしいものだ。しかし、じいやは断言する。
「スカーレット様のお気持ちはわかります。ですが、これだけは言わせてください。『あなたの代わりはいる』」
思いがけない突き放した言葉に、スカーレットは戸惑う。彼が厳しいことを言うのはよくあることだ。だが、ここまではっきりと自分の意見をぶつけてくることは珍しい。
「……言ってくれるじゃない。あたし程度の魔人はいくらでもいるから、いくらでも休みを取れっていうわけ?」
「違います。あなたほどの魔人は、そうはいない」
「それならどういう意味よ?」
彼の要領を得ない発言に、いらだちを隠せないスカーレット。それでもじいやは決して急ぐことなく、丁寧に言葉を続ける。
「代わりがいるということは、価値が低いということではありません。あなたはもちろん、それはあらゆる人々に当てはまります。……ジグソーパズルと同じですよ。同じ形のピースなんてない。だから、そのどれもが役に立ち、必要なのです。そして小さなピースが大きな一枚の絵になり、社会は成り立っているのです」
そこまで話すと彼は、スカーレットの表情を窺う。めちゃくちゃ良いことを言った。その確信があったので、自分の言葉で彼女が感動していると思ったからだ。だが、スカーレットは予想外の反応を示す。
「……えっと、つまりどういうこと?」
全然通じてなかった。さっきまでの自分が語った時間が無駄になり、彼は投げやりに説明した。
「あー、そうですね……。例えば私が休みを取るとします。代わりに別の執事が来るからといって、私がこの城に必要と言うことは変わりませんよね。だから、休みを終えて力がみなぎっている私が戻ってくると、スカーレット様により良いお世話ができるよねって話です」
「なるほど! それはそうね!」
さっきまでの悩んでいた態度はどこへやら。じいやの話を聞いたスカーレットは、すんなりと休暇を取ることを決める。その時のがっくりした彼の姿を、スカーレットは少しも気にすることはなかった。
そして旅立ちの日。
「スカーレットちゃん、しばらく会えないんだね……」
城の前まで見送りに来てくれたベロニカは、寂しさのせいか声に元気がない。
「ベロニカ、ただの旅行なんだから、そんなにしんみりしなくても……」
ソニアの方はいつもと変わらず淡々とした態度だった。スカーレットは「もう少し寂しがってもいいのよ」と調子の良いことを言うが、イラっとした彼女にポカリとやられる。
「それで、一体どこに行くつもりなんだ? そんなに荷物を持って?」
パンパンに詰め込まれたスーツケースを指さし、ソニアは尋ねた。
「なんか南の島って言ってたわね。お母さんが綿密に計画してるみたいだから、あたしはお任せしてるのよ」
「相変わらずいい加減だな」
呆れたソニアだが、思わず笑みがこぼれる。こいつは何も変わらない。今までも、それからこれからもきっとそうだろう。そう感じたからだ。
「スカーレット様、そろそろ……」
じいやが時計を示し、出発の時間を告げる。スカーレットが「じゃあ、行くわ」と瞬間移動しようとした瞬間、ベロニカが叫ぶ。
「待って! スカーレットちゃん!」
ぎりぎりで魔法を止めると、いつになく大きな声を出した彼女にスカーレットは聞いた。
「どうしたの?」
握ったこぶしを震わしながら旅立つ友を見つめ、ベロニカは答えた。
「私、スカーレットちゃんの分までお仕事がんばるよ! だから、お母さんと一緒にゆっくりしてきてね!」
「……ええ!」
頼りになる友を持って幸せだ。仕事があまり好きじゃないベロニカが、あんなことを言うなんて……。これで心置きなく自分はゆっくりできる。そう思ったスカーレットだったが、
「あ、でも、あんまり長すぎるのも寂しいかも……。やっぱりほどほどで帰って来てね!」
との言葉にずっこけた。案外、ずうずうしいんだよなあ……。
「それじゃあ、今度こそ行くわね。ばいばーい!」
そう言って彼女はスーツケースと共に姿を消した。
「行っちゃったな」
「行っちゃったね」
「行っちゃいましたね」
残された三人は、彼女が向かったという南の方角を眺める。はるか遠くの南の島。そこで彼女はどんな騒動を起こすのだろうか。
「じいやさん、スカーレットちゃんがいつ頃帰ってくるか聞いてます?」
ベロニカの問いに彼は首を振って否定する。
「いいえ。でも、スカーレット様のことです。飽きたらすぐに帰ってくるでしょう」
彼の言葉に二人が同意していると、じいやのスマホにメールが来る。スカーレットからだった。文面を見た彼は思わず吹き出し、画面をベロニカとソニアに見せる。そこにはこう書かれていた。
『南の島での最初の予定をお母さんに聞いたら、ファイヤーショーを見るんだって! あれならあたしでもできそうだから、飛び込みでやってやろうかしら?』
そう意気込んでいる彼女だったが、メールを見た三人の頭には失敗して体がファイヤーしているスカーレットの姿が浮かんでいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
何とか無事に完結することができました。書きたいことはあらかた出しつくしたので満足です!
それではみなさん、またお会いしましょう!




