第52話 魔人スカーレットはオオカミを探す
オオカミを探す! 嘘つきは誰だ。
「ここにボードゲームカフェがあるのね」
スカーレットはじいや、ベロニカ、ソニアそれに加えて城のメイドさんを連れて、目的の雑居ビルに来ていた。
というのも、しばしばスカーレットを召喚するお団子頭のカフェの店長が、またしても『多角経営』の一環として新規事業に着手したからである。
「ホント、あの人何でも手を出すわね……」
「まあ、いいじゃないか。実は前から来てみたかったんだ、ボードゲームカフェ」
そう言うソニアは何だかわくわくしているように見える。確かに自分も興味はあったが、入り口がわかりにくい雑居ビルに入っていることが多いため、何となく来ることはなかった。
これはいい経験かもしれない。スカーレットもまた、気持ちが昂って来ていた。
ビルの階段を上がり店の扉の前までやってきたところで、緊張した様子でメイドさんがおずおずと聞いた。
「あの、ついてくるように言われたので来ちゃいましたけど、何で私も?」
はたから見れば、ランキング上位の魔人が三人。同じ魔人である彼女と言えど、並んで歩くには恐れ多いのかもしれない。それでも彼女とは以前、一緒にみたらし団子を作った仲だ。立場なんて関係ない。
「店長に言われたのよ。『最低五人で来てくださいー』って。迷惑だった?」
「いえ、決してそんなことは……。お三方と遊べるなんて『望外の喜び』です!」
……多分、とっても嬉しい的な意味なんだろう。
「はいはい、いいかげん店に入りますよ」
メイドさんとは対照的に、主人にも敬意を払わない執事がカフェの扉を開いた。
店内はビルの外見とは違い、明るい照明でソファも置かれているおしゃれカフェ風の内装だった。ゲームをプレイするテーブルは五つ置かれ、そのうち二つがくっつけられている。
「どうぞいらっしゃいませー。スカーレット様、この度はありがとうございます」
お団子頭の店長が明るい調子で出迎えてくれる。
「いいのよ、店長にはお世話になってるし」
スカーレットがそう言うと、店長はお団子をペコペコ上下に動かし感謝した。そして、くっつけられたテーブルに客人を案内する。彼女たちは店内の雰囲気や近況を話したのち、話題はボードゲームに移る。
「それで今日の目的は、オープン前のテストプレイってことよね?」
「そうですー」
店内には彼女たちと店長以外は誰もいない。今日はオープン前に、実際のゲームの雰囲気を確認したりSNS用の写真を撮るためにやってきたのであった。
「今日はこちらのゲームで、みなさんに遊んでいただければ……」
店長が取り出したのは『オオカミ探し』書かれているボードゲームだった。箱を開けて使用する役割が書かれたカードを取り出すと、慣れた様子でルールを説明してくれた。
一、ゲームは人間側とオオカミ側に別れ勝負する。人間側はオオカミを全て倒せば勝ち。オオカミ側は人間側をオオカミと同数、またはそれ以下にすれば勝ち。
二、ゲームごとに話し合いを行い、オオカミだと思う人に投票する。最も多く投票された人はゲームから排除され、それ以降の発言は禁止。
三、投票後、オオカミ側がまだ残っている場合は、追加で排除する人間を選ぶ。
四、これらをどちらかの勝利条件を満たすまで繰り返す。
「ざっくり言うと、こんな感じですね」
さらに詳しい説明を受けると、反応はそれぞれだった。一回聞いただけで完璧に理解する者。わからないところを店長に確認する者。そして、スカーレットは……。
「全然わからん」
全然わからなかった。
「……私も。でも、やってるうちにわかるよね?」
自信なさげにベロニカもこぼした。彼女にも難しかったらしい。
「大丈夫です! すぐに慣れますよ。それでは私がゲームマスターとして進行しますので、さっそくやってみましょう!」
店長が宣言すると、さっそくオオカミ探しが始まった。
「『ただの人』かあ」
配られた役割カードを見て、スカーレットは少しがっかりする。『ただの人』は何の能力もないただの人だ。どうせなら『オオカミ』がやりたかった。
今回はゲームマスターを除くと五人。オオカミは一人だけで、他は全員ただの人のルールだ。
他の面々もカードを確認している。抜け目ないスカーレットは、その時の彼女たちの表情を観察する。
「(……ベロニカは、なんとなくほっとしているような顔ね。ソニアとメイドさんは……、真剣にカードを見てる。それでじいやは……)」
こっそりと彼の表情を確認しようとした時、じいやは突然変顔をこちらに向けてきた。
「……ぷっ、何よその顔!」
思わず噴き出したところを、彼は指摘する。
「スカーレット様が考えそうなことくらいわかります。どうせカードを配られた時の表情を盗み見ていたのでしょう?」
ぐっ、図星だ。
「スカーレットちゃん、そんなことしてたの?」
「相変わらず姑息なやつだ」
「勝負はもう始まっているということですね、スカーレット様!」
みんなから一斉に顔を向けられしどろもどろしていると、進行の店長が助け船を出してくれた。
「みなさん、自分の役はわかりましたね! それでは、話し合いをしてオオカミだと思う人を選んでください。
第一ゲーム
「最初のゲームは手掛かりがないわね。直感で決めるしかないのかしら?」
周りを見ながらスカーレットが言うが、ソニアは納得していない。
「そんないい加減な方法で決めていいのか?」
皆一様に「うーん」と首をひねると、じいやが発言した。
「確かにオオカミをいきなり当てるのは難しいですね。しかし、逆は簡単です」
「逆? ただの人が誰かわかるってことですか?」
ベロニカが聞くと、注目を集めたことに満足した様子で彼は言った。
「はい。ずばり、スカーレット様とベロニカ様はただの人です」
突然指名され、当人の二人は戸惑った。なぜそんなことがわかるのだろう?
「根拠はあるんですか?」
疑うようにソニアが尋ねるが、ひるむことなくじいやは続けた。
「もちろんあります。まずスカーレット様は先ほど、カードを配られているみなさんの表情を盗み見ていました。自分がオオカミであれば、他は全員ただの人。表情の変化を探る必要はありません」
「それがフェイクだという可能性は?」
彼女の質問は最もだった。スカーレットは自分がオオカミでないのを知っているが、他の者は違う。演技をしていると考えるのも自然な反応だ。
それでもじいやは断言する。
「ありませんね。スカーレット様はこのゲームは初めてですし、なによりそこまで頭が回るとも思えません」
主人に対する発言とは思えないものだったが、周りの者たちは納得したようだった。
「確かに」
「そしてベロニカ様も初めてなのでしょう。カードを見た時にほっとした顔をされていたので、相手を騙すオオカミでないのに安心したのではないかと」
そう説明され、ベロニカもまたゆっくりと息を吐いた。
「つまりオオカミは私、じいやさん、メイドさんに絞られると?」
「その通りです」
そこまで話すと投票の時間となった。三分の一まで絞られた。あとは勘で決めるしかない。スカーレットはあまり話題に入って来なかったメイドさんに入れる。オオカミであれば、ボロを出さないために口数が減るのではと考えたからだ。
第一ゲーム投票結果
スカーレット → メイドさん
ベロニカ → メイドさん
ソニア → じいや
メイドさん → じいや
じいや → メイドさん
メイドさん脱落
「そんなあ……」
メイドさんはがっかりしていたがルールだから仕方ない。ごめんよ。
「それでは投票が終わりましたので、次に進みます。全員目をつぶってください」
スカーレットは言われた通りに目をつぶった。周りの者も同様にする。
「それではオオカミの人は目を開けて、追加で排除する人を指さしてください」
スカーレットは意識を集中させるが、何も聞こえない。だが、今まさに次の犠牲者が選ばれているのだ。
「……はい、わかりました。みなさん目を開けてください。第一ゲームでは残念ながらオオカミを排除できませんでした。そして、新たに犠牲者が生まれました。それは……」
全員が固唾を呑んで店長の言葉を待つ。告げられた名前は……。
「ベロニカ様です!」
「えぇー、私! がっくし」
テーブルに力なく倒れ込むベロニカ。思いのほか楽しんでいたみたいだ。
ベロニカ脱落
「それでは最終ゲームです。三人の中からオオカミを見つけてください!」
店長がゲームを進行し、最終ゲームが始まる。
「第一ゲームではわかりませんでしたが、はっきりしました。オオカミはソニア様です」
開始早々、じいやはソニアの方を向き切り出した。
「へえ、説明してもらえますか?」
疑われている彼女の方も冷静に答える。やはり、このゲームは平常心を保てる者が強いのかもしれない。
「まず先ほどのゲームで、ソニア様は私に投票しました。これは私を警戒してのことでしょう」
「私がオオカミであればそうするでしょうね。しかし第一ゲーム後に排除されたのはベロニカだ。私がじいやさんを排除しない理由はないはずです」
ソニアの言う通りだ。彼女がオオカミなら、一番厄介そうなじいやを排除するのが定石だろう。しかし、彼は表情を崩さない。
「本当にそうでしょうか? もし私が排除されれば、残るのはスカーレット様、ベロニカ様、ソニア様の三人になります。先ほどのゲームで私が指摘した通りなら、推定無罪の二人が残ってしまう。すると、次に怪しいのはソニア様となる。だからあえて私でなくベロニカ様を排除することで、私とソニア様の二択を迫ったのではないですか?」
理路整然と語るじいやに、ソニアは小さくうなり声をあげる。
「……筋は通っていますね。でも、それはじいやさんにも言えるのではないですか? メイドさんが排除されてスカーレットとベロニカが残った時点で、オオカミならばどちらかを消す」
「その通りです」
言葉の応酬が終わり、投票の時間が来た。……二人がヒートアップしていて、全然会話に入れなかった。おそらく二人はお互いに投票するだろう。つまり、私の票が勝敗を左右するということだ。スカーレットは頭を抱える。
えぇー、荷が重い。全然わかんないし……。じいやかソニア。どっちがオオカミなんだ?
その時、じいやの言った言葉を思い出す。『カードを見た時にほっとした顔をされていたので』あれはベロニカがカードを見た時の様子を話していた時だった。つまり、『じいやも表情でオオカミを特定しようとしていた』のだ。だから自分とも顔が合った。
少し悩みつつも、スカーレットはソニアに票を入れた。
最終ゲーム投票結果
スカーレット → ソニア
ソニア → じいや
じいや → ソニア
ソニア脱落
最後の投票を終え、残ったのはスカーレットとじいや。二人ともただの人なら人間側の勝ち。じいやがオオカミであったなら、人間と同数となりオオカミ側の勝ちである。
全員がドキドキしながら店長の発表を待つ。勝ったのは……。
「それでは結果発表ですー。今回勝ったのは……『オオカミ側』でした!」
店長が高らかに発表すると、勝ったじいやは変顔でスカーレットをおちょくった。
「お前かー!」
「はっはっは! スカーレット様が私に勝てるはずがないでしょう! 計算通り!」
勝ち誇ったようにじいやは言う。めちゃくちゃ腹が立ったが、負けたのは事実。スカーレットは彼にどこまでが計算だったか聞いた
「始めにスカーレット様がキョロキョロしてたのを見た時からですよ。オオカミ以外は誰がオオカミか疑心暗鬼になる。だから、同じようにキョロキョロしている者がいれば、自分と同じ立場だと錯覚するのではと思ったんです」
まんまと乗せられたということか。じいやはスカーレットを味方にするため、あえて彼女がただの人だと周知させた(不自然でないようベロニカも)。そして、運の要素が強い第一ゲームを乗り切り、みごと勝利したというわけだった。
「もし第一ゲームでメイドさんじゃなくて、ソニアが排除されていたらどうしたの?」
「その時も基本的に同じですね。ベロニカ様を排除し、私とメイドさん、どちらがオオカミかスカーレット様に選んでもらう。今日のメイドさんは緊張して口数が少なく、怪しく見えると思いましたので勝算は高いかと」
この短時間でよくもそこまで頭が回るものだ。じいや、恐るべし。
スカーレットが感心していると、こみ上げてきた笑いを隠そうともせずじいやは言う。
「それにしても、ここまで計算通りになるとは! スカーレット様もまだまだですね!」
「何をー!」
ポカポカとじいやを叩くスカーレット。その様子をカメラを構え、ほほえみながら店長は写真に収めている。
「なんだか思うようにやられちゃったな」
「だねぇ。でも、次はわからないよ!」
「はい、負けません。『碁で負けたら将棋で勝て』幸い、ここにはたくさんゲームがありますから」
そしてその日、全員で様々なゲームを楽しみ満足して帰った。




