第39話 魔人スカーレットはオーパーツを起動させる
オーパーツを起動させる! ポチっとな。
「ダメだあ。全然終わらん」
だらだらと自室の片づけをするスカーレット。というのも、この前キャラクターグッズを買いすぎて、部屋のファンシーさが許容量を超えた。彼女自身は全く問題なかったが、少し前にじいやが「いいかげんにしてください!」と怒り、部屋を片づけるよう彼女に言いつけたのだった。
「一応、あたしがこの城の主人なんだけど……」
言い訳をしたくなるが、確かにものが多すぎるのは事実だった。しょうがない、やるか。そう思い、最初は順調に作業を進めていった。部屋にある大量のぬいぐるみを城の空き部屋に移し、棚やテーブルに丁寧に並べていく。たくさんのぬいぐるみたちも、みんなで広い部屋にお引越しすることでゆとりがあってうれしいかもしれない。そんな風に思うと、彼らを運ぶ作業にも身が入った。
ぬいぐるみ全員を移し終えたが、まだまだ部屋にはものがたくさんある。買ったはいいものの弾かなくなったギター。健康のために始めたが、三日持たずハンガーラックと化したぶら下がり健康器。勉強のために買った積まれたビジネス書などなど。
「うわぁー、こんなの全部片づけるのにどんだけかかるのよ!」
そして、スカーレットは作業を中断し今に至る。
しばらくはじいやに借りたマンガをじゅうたんの上で読んでいたが、時計を見るともう一時間は経っていた。
「やばい! もうこんな時間! 時間が過ぎるのが速いわ!」
慌てて放りっぱなしになっていた部屋を見渡す。当たり前だが、全然片づいていない。ふと部屋の端に転がっていた楕円形の物体が気になった。明らかに異質な代物で、手に取って確認しても全く何に使うかわからない。
「何か汚れてて硬いけど……。そうだ、この前じいやと化石掘りに行った時、もしかしたら卵の化石かもと思って持って帰ってきたんだった」
改めて卵の様なものを確認したが、明らかに材質は金属のようで重量感があり、とても化石には見えない。
「でも、よく考えたら重すぎるし、化石っていうより何かの機械って感じ。……なんだこれ?」
くぼみをカリカリといじっていたら機械はパカッと開き、中には怪しげなボタンが収められていた。
「……ボタンだ。怪しげな機械の中に、怪しげなボタン……。絶対押したらダメなやつよね」
どう考えても怪しい。絶対に押したらダメだ、絶対に……。
彼女は悩んだ。魔人の本能がこれは危険だと告げている。でも、気になる……。
「ま、いっか。押しちゃえ!」
結局、スカーレットはボタンを押した。すると、部屋は閃光に包まれ、次の瞬間には彼女は姿を消した。
「あれ、どこだここ?」
スカーレットが目を覚ますと、硬い場所の上にいることに気づいた。
「そうだ、部屋で怪しいボタンを押したらピカって光って、それで……」
もうろうとする頭を片手で押さえながら、反対の手で地面に触れる。ん、冷たい?
「何よこの床、カチカチじゃない!」
自分は城の中にいたはずだ。しかし、床はもちろん、壁や家具といった部屋の中のあらゆるものが、ここが自分のいた城ではないと確信させる。それどころか、目に見える範囲全てがよくわからない機械の様なものでできており、およそ現実とは思えなかった。
「ああ、これ夢だわ。こういう時はほっぺをつねって、っと……」
痛い。おかしいぞ、夢じゃないのか? スカーレットは頭をフル回転させて、別の可能性を考える。もしかしてあの世とか? いや、それにしては近未来すぎる。あの世って、お花畑とか雲の上とかのイメージだし……。それなら宇宙人にさらわれた? ボタンを押した後、城の中のじいやを含めた誰にも気づかれることなく? 到底無理だろう。じいやは鋭いし……。
色々考えた結果、彼女は一つの可能性にたどり着いた。
「おそらくあたしは……、『異世界転移』した!」
宇宙船の様な部屋。気づいたら知らない場所。強くてニューゲーム。これすなわち、『異世界転移』そうに違いない!
「やっばいなぁ……。どうやって城に帰ればいいのよ?」
見渡す限りの異世界っぷりに、彼女は途方に暮れた。すると、部屋の扉が自動で開き、白衣を着た何名かの魔人が慌てた様子で入ってきた。
「ああ、気がつかれたんですね! 良かった!」
一人の女性がスカーレットの状態を確認すると、安堵したように言う。どうやら彼女は突然現れたスカーレットをベッドに移動させるため、人を呼びに行ってくれたそうだった。医療知識がある者によって無事を確認されると、最初に声をかけてくれた女性以外は部屋を出て行った。
「ご迷惑をおかけしました。えっと、あなたは?」
スカーレットがお詫びと質問をすると、白衣の女性は答えた。
「私はポプラと言います。この研究所の責任者をしています」
研究所? なるほど、言われてみればそんな感じもする。
「そうなんですか。私はスカーレットと言います」
「スカーレットさんはどうしてここに? いや、どうやってここに? ここは研究している内容もあって、セキュリティが厳しいはずなんですが……」
ポプラは疑いのまなざしでスカーレットを見た。まずい、めっちゃ怪しまれてる。でも、『謎のボタン押したら異世界転移した』なんて言ったら、もっと怪しい!
彼女は頭をひねり必死に上手い言い訳を考えたが、言える範囲で正直に話すことにした。
「ごめんなさい、わからないんです。気づいたらあそこに倒れていたので……」
頭を下げつつ、それだけ振り絞る様に言った。その様子にポプラはふうと息をつくと、穏やかな顔で言う。
「……言えないこともあるわよね。悪い人には見えないし……。行くところないなら、少しの間ここにいない?」
「いいんですか!」
見知らぬ土地で住む場所があるなんて、願ってもないことだ! スカーレットは両手でポプラの手を握り、深く感謝した。
そこから数日、スカーレットは働いた。
異世界とはいえ魔物は出る。研究所は壁に囲まれた街の中にあったが、外から襲って来る魔物はいくらでもいる。タダ飯食らいでは悪いので、彼女が存分に力を振るい脅威を排除すると、研究所の職員だけでなく多くの街の住人からも感謝された。
だが、異世界暮らしに慣れ始めた頃、大事件が起きる。
「今日のご飯は何かなー」
お昼ご飯が近づきスカーレットがそわそわしていると、研究所に警報音が響き渡る。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 研究中の戦闘機能搭載タイムマシーンが暴走した! ただちに一般職員は避難、戦闘可能な職員は対象の破壊を頼む!』
館内放送で非常事態が伝えられると、瞬時にスカーレットは研究室に駆けだした。
最速で向かった彼女だが、研究室には多くの職員が倒れていた。手には銃のような武器が握られているので、暴走した機械を止めようとしたのだろう。
そして、その中にはポプラの姿もあった。
「ポプラ!」
スカーレットは倒れている彼女に近づき、声をかける。
「ああ、スカーレットさん。しくじっちゃいました」
良かった、けがをしているが問題ない。
「ダメじゃない無理したら……」
「いえ、無理しなくちゃダメなんです。あれは魔物から身を守れるように、戦闘機能がついたタイムマシーンなの。もし暴走したあれが街に出たら、もっと被害が出る……」
タイムマシーン。ここで研究していたのはあれだったのか。嘘みたいな話だが、本当にあれで時間移動できるならセキュリティが厳しくても不思議じゃない。
「……わかった。あたしに任せて!」
「でも、危険です!」
「ポプラには世話になったからね。それに、『魔人スカーレット』は無敵なのよ!」
そう言うと、スカーレットは二本の足で静かにたたずむタイムマシーンを見据えた。
警戒している。攻撃してこなかったのは、自分の力量を測るためか。相手は二足歩行の大きな人型機械。ならば、どちらかの腕で攻撃してくるはず……。
勝負は一瞬。行くぞ!
スカーレットが機械に向かって駆けだすと、後ろからポプラの声が聞こえた。
「気をつけて! レーザーを撃ってきます!」
同時にタイムマシーンの胸部が光り、光線が放たれる。
「うそぉ!」
スカーレットは体をひねり、間一髪でかわす。危なかった。だが、
「終わりよ」
先ほどレーザーを繰り出した胸部を、思いっきり殴りつける。激しく損傷した機械は足元から崩れ、膝をつくような格好となり静止した。
「止まった……」
スカーレットはホッとして、一息つこうとした。何とかこれ以上の被害は抑えられた。そう思った。けれど、
『活動限界に達しました。機密保持のため、これより爆破プログラムを作動します』
なんかとんでもないこと言い出したー! 慌てるスカーレットにポプラが声をかけてきた。
「コックピットに停止ボタンがあります! 早く押してください!」
彼女の言葉を聞き、スカーレットは急いで頭部のコックピットに入る。でも、ボタンだらけでどれがどれだか……。パニックになった彼女は手当たり次第にボタンを押しまくった。
「……これも違う。これも、これも。もー、どれなのよ!」
「スカーレットさん、早くー! 爆発しますー!」
極限の緊張状態で、スカーレットは走馬灯のようなものを見た。ベロニカ、ソニア、お父さん。いざとなったらしょうもない記憶ばかり思い出すのね。それに、じいや。どうせ片づけサボったあたしのこと怒ってるんだろうなあ。あんな卵みたいな機械のボタン、押さなきゃよかった……。
その時、目の前にあった機械にスカーレットは仰天した。なんでここに?
訳が分からなかったが、瞬時に機械のくぼみをいじりふたを開け、中のボタンを押した。すると、閃光に包まれ彼女を乗せたタイムマシーンは、研究所から姿を消した。
「スカーレット様、片付け終わりましたか……って、なんですかそれ!」
自分が彼女に片づけを言いつけてから、数時間は経つ。じいやはそろそろ終わったと思い、扉を開けた。そこにあったのは、壊れかけたどデカい機械。
「えっ、じいや? ということは帰ってきたんだ!」
コックピットから顔を出したスカーレットはほっぺをつねり、現実であると確認する。痛みがあることを喜んだあと、冷静になった彼女は「しまった」という顔をした後言った。
「……ごめんじいや、爆発するわ」
じいやが「えっ」と言いかけた瞬間、機械は轟音を響かせ爆発した。
その後、床はもちろん、壁や家具といった部屋の中のあらゆるものが元の姿と変わってしまった部屋で、じいやは眉間にしわを寄せ、気持ちとは真逆の笑みを浮かべながら言った。
「今後一切、変なものは拾ってこないでくださいね!」
「ごめんてぇ……」
自らも工具を持ち吹き飛んだ部屋の修復をしながら、スカーレットはさすがに反省した。




