お兄様からの手紙
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下級貴族の結婚式は晩秋から冬にかけて挙げることが多い。
冬は貴族が王都に集まるので時間の調整が付けやすいからだ。
上位貴族だと魔法学園卒業直後にすぐ結婚ということも多く、その場合は気候のいい初夏になる。
うちはごく普通の子爵家なのでブラインお兄様とクララお義姉様の結婚式は通例どおり晩秋に執り行われた。王宮での新年パーティーの少し前だ。
式は法と契約の神殿で行われた。その内容は二人が神の前で誓いを立てるという前世のキリスト教式に近いものだ。豊穣の神殿式とは異なりエールを沢山飲むような変わった風習は無い。逆に何故か指輪の交換や誓いのキスがある。昔の転生者が広めたのだろうか。
お兄様とお義姉様は現在16才。半年前、二人とも無事魔法学園を卒業した。ちなみに私は今12才。夏に13才になるのでお姉様と入れ替わりで来秋に入学する予定だ。
この国の貴族は魔法学園を卒業しないと一人前とは見做されず正式な結婚もできない。だから結婚式は卒業後になるし、下級貴族なら卒業から半年後のこの時期に結婚するのはよくある事だ。
そして法と契約の神殿で結婚式を挙げるのも貴族としては普通。
つまりこの結婚式はよくあるタイミングで普通の場所で執り行われたのだ。
唯一つ普通と違ったのは招待客だ。
法と契約の神殿での結婚式には親族のみと言う縛りが無い。
だから普通は友人や関係者を大勢招待する。跡継ぎとなればなおさらだ。お披露目の意味もあるのだから。
だというのにこの結婚式に立ち会ったのは双方の家族だけだったのだ。これは通常お兄様が跡継ぎから外された事を意味する。
聞いてないんだけど。
ミリアお姉様は何か知っているようで複雑な表情をしていた。
間もなくして私達の前にお兄様とお義姉様が現れた。
お兄様の衣装は明るい青を基調とし金糸をあしらった礼服とも軍服ともつかないもの。お義姉様は同じ青色の、ウエストが高くあまりスカートが膨らんでいないエンパイアラインドレスだ。やっぱり金糸で刺繡が施されている。
向かい合った二人は幸せそうと言うよりはどこか決然とした表情だ。
お兄様はお義姉様に笑いながら何か囁いたのだけど、どこか鋭く攻撃的な笑顔だった。
セリフを当てはめるなら「今日は何時にもまして綺麗だよ」よりは「さあ征こうか。俺達の戦場へ」の方がしっくりくる、そんな感じだ。
お義姉様も同じ顔で笑い返した。 固い絆で結ばれている感じがするけど、甘い雰囲気は一切ない。
お兄様は本来文官気質だというのに、一体どうしてしまったんだろう。
結婚式は滞りなく終わった。
正直意外だ。主役の二人は何かしでかしそうな雰囲気をずっと漂わせていたのだ。
二人が退出し解散となった。披露宴も何もなく、私達はそのまま馬車で屋敷に戻ることになった。新郎新婦は別行動だった。
馬車の中でお父様に結婚式がひっそり行われたのか理由を問い質すと、二通の手紙を渡された。お兄様とお義姉様からだ。
私はまずお兄様からの手紙を開いた。
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親愛なるフレンへ
君は多分結婚式を見てびっくりしたのじゃないかな、あまりの人の少なさに。
あの式でもう察していると思うが、僕は家督の相続権を返上した。僕とクララは家を出る事にしたんだ。
これは僕たちが自ら望んだことだし両親やあちらの義父母ともよく話し合った結果だ。家督相続についてはミリアに迷惑をかけてしまうがこれも納得してもらった。
これから何故家を出るのか、何をしようとしているのかを順を追って説明していこうと思う。
幼い頃、僕には将来を誓い合った恋人がいた。
名前はマリア・ド・リタリエ。リタリエ男爵家の令嬢で、僕が六歳か七歳の時に王都で出会ったんだ。男爵がうちを訪ねてきた時、一緒について来ていたように記憶している。
同い年だったこともあり僕らはすぐ仲良くなり、屋敷がそう遠くないことも手伝って互いに頻繁に行き来するようになった。
クララと出会ったのもその頃だ。マリアを介して知り合った。彼女はマリアの母方の従妹でマリアと仲が良く、こちらも頻繁にリタリエ家に遊びに来ていたんだ。
僕たちが直接会えるのは貴族が王都に集まる冬の間だけ。他の季節でも僕たちはよく手紙のやり取りをしていたけど、冬になるのが待ち遠しくて仕方なかった。
そして忘れもしない七年前の冬、僕とマリアはお互いの気持ちを確かめ合った。そしてお父様達に掛け合って婚約の内諾をもらったんだ。尤も父さん達は初めからそのつもりで僕たちを引き合わせたみたいなんだけどね。
婚約の発表は次の年、つまり十歳になってからと決まり、一年後の再会を約して僕たちは笑顔で別れ夫々の領地へと戻った。
そしてそれきり二度と会えなかった。
何者かが放ったシャドウクーガーに食い殺されたのだ。
勿論今では実行犯がアトロス子爵だと判っているけれど当時から第一王子派の仕業であることは誰の目にも明らかだった。
だから僕とクララは復讐を誓ったんだ。
もちろん子爵本人は既に断罪されている。しかし子爵に命令なり指示なりを出した黒幕は未だ野放しだ。奴等はまだのうのうと良い服を着て温かい食事を取っているのだ。
許せる訳がない。必ずや報いを受けさせる。
その為に僕たちは派閥抗争に積極的に関与した。しかし上手く行っていないのは君も知っての通りだ。
特に二年前ぐらいから僕たち王妃派の中でも第一王子派との和解を主張する声が強くなり、その方向から復讐を遂げるのはより難しくなっている。
家の為を考えるならこれ以上抗争にかかわるべきではない。父さんも潮時だと思っている。でも僕たちは決して復讐を諦めない。だから僕たちは派閥抗争とは異なる方法を採る事にした。これから何をするのかの詳細は明かせないし知らない方がいいだろう。
しかしそのためには僕がエーコ家の跡継ぎのままなのは些か具合が悪い。リタリエ男爵のように無関係の人を巻き込むつもりはさらさら無いけれど、場合によっては家に迷惑がかかってしまうからだ。
だから僕たちは家を出る事にしたのだ。
僕たちの婚礼衣装を見ただろう。青地に金。これはマリアの髪と目の色だ。この色合いを選んだのは僕らが決してマリアを忘れないとの宣言。神前で誓ったのは永遠の愛じゃない、復讐の完遂だ。
もう会うこともないだろう。本懐を遂げても合わせる顔がないだろうから。身勝手な兄で済まない。
君は幸せになってくれ。
ブラインより
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お義姉様の手紙の内容も似たようなものだった。
こうして私はお兄様の様子が時々おかしかった理由を知ったのだった。
その後お兄様達を乗せていた馬車が空で屋敷に戻ってきた。二人は用意してあった別の馬車に乗り換えそのまま旅立ったそうだ。お兄様と仲が良かった使用人が一人だけ御者として同行したけどその人も退職扱いでもう戻ることはないらしい。つまり向こうから連絡してこない限りどこに行ったのか分からないのだ。




