隅から隅まで二人で探索した
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「そんな訳で怪談にされちゃったんだよ」
『ほええ~、私たち怪談の中で共演しちゃったんだ。面白いね』
「確かに。で、それはそれとして怪談に思いがけない副作用があって」
『副作用って?』
「第一王子派の人達が早々に領地に帰っちゃったんだよ。領地が心配になったんだと思う。多分リースが絡んでいると聞いて無視できなかったんだよ」
『それって何か困るの?』
「困るよ! ローシュさんやユーミ様に偶然会える可能性がなくなったんだよ!」
『ああ、チョコレートの人達ね。派閥の関係で正面からは会いに行けないのだっけ。面倒な事よね』
「そうなんだよ。ああ~結局今年も会えなかった」
私はまたリースに会いに来ていた。そろそろ領地に戻るので最後に会っておきたかったのだ。
王都を覆うバリアは三日後には解除された。王宮のは今も毎晩張られているけどそれはそういうものなんだろう。
ともかく王都のバリアがないので今日は帰り道も抜け穴経由だ。
光学迷彩の視界の問題は解決できていないけど王宮近くを避け障害物のないルートを通れば問題なく往復できる。
寧ろ心配すべきは穴の入り口。
掘った穴は大きな岩で塞いである。誰かに簡単にどけられてしまわないように重いのにしたんだけど、開け閉めするときその重みでどうしても足跡がついてしまうのだ。まあ魔力かんじきを使っているので足跡というより広く圧雪したような感じになるんだけど、新雪の中だとそれなりに目立ってしまう。というか目立っていた。
来るとき岩の蓋を持ち上げたら雪に思いっきり跡が付いたのだ。
幸い木の上に雪が積もっている。帰りがけに落としておけば上手く足跡を覆い隠してくれるだろう。
でも最初の日はうっかり見落としてた。誰かに見付けられなかっただろうか、ちょっと心配。
『大丈夫、あなたの後は誰も来ていないわ』
「それならいいんだけど」
『本来の出口を使ってみたら? 私は行ったことがないけど小さな祠の隠し扉だって聞いたわ。そこなら岩で塞がなくても大丈夫じゃない?』
「実は今日来るとき抜け穴を辿って行ってみたんだけど開かなかったんだよ。反対側にぶっとい木の根っこを感じたからその所為だと思う。無理に開けたら扉が壊れちゃいそうだから止めといたんだ。抜け穴にも結構根っこが出て来てたし、近くの木が大きくなったんだろうね。もしかしたら祠自体もその木のせいで崩れちゃってるかも」
『あらら、そうなんだ。でもそうよね、三百年だっけ、経っているのだもの。「永遠の8才」と違って木は成長するのだし、そうなっていても不思議はないわよね』
なんかリースが寂しそうな顔をしたので話題を変えることにした。
「建物の話で思い出したんだけど、この部屋がある区画は王宮から切り離されてるんだって。周りを取り壊して一つの建物に作り替えたらしいよ」
『ええっ! そうなの?』
「そう。この建物、今では『リース女王の霊廟』っていうんだって」
『私の霊廟……全然知らなかった。……あっ』
「どうしたのリース?」
リースが急に動きを止めて宙の一点を見つめている。
見ていると突然姿が消え、少しして現れたかと思うと興奮した様子で顔を近づけてきた。
『……広がった! 私の国が広がったよ! すごい!!』
「えっ……何? どういう事?」
『建物全部私の国になったの! 今までこの部屋だけだったのに! 部屋の外にも出られるわ! すごいすごい!!』
リースはよほど嬉しいんだろう、顔を真っ赤にして興奮している。
『ありがとうフレン! あなたのおかげ!』
「私、何もしてないんだけど……」
『教えてくれたじゃない! この建物が私のだって。知らなかったら私、いつまでもこの部屋だけの主だったわ』
この建物が自分の霊廟だと分かったから霊廟全体を移動できるようになったってこと? 霊のルールはよく分からないな。
『一緒に建物を探検しましょう!』
「え、いや、面白そうだけど万一監視の魔導具があったら不味いし」
『それなら大丈夫! 生きている魔道具は無いから。あ、修復は別だけど』
「そんな事も分かるの?」
『もっちろん! 私の領土の事は何だって分かるよ。だからさあ、早く早く!』
リースは完全に無邪気な子供モードに入ってしまったようだ。
こうなったらとことん付き合いますか。昔の王宮にも興味あるしね。
建物は二階建て。部屋数は使用人用のも含めて60程。
一晩で見て回るには少し無理があるので、リースを説得して探検は二回に分けてもらった。
その分隅々まで徹底的に見て回ることになってしまったんだけどね。
リースの部屋は二階の中央南側。そこから主通路が北に向かって伸びている。元々は真っすぐ執務室まで続いていたそうだ。
通路脇の部屋には王族が住んでいたらしい。
入ってみたけどどの部屋も空っぽのすっからかんだ。固定されていないものは全て持ち出されていた。
リースは兄や姉の部屋が空っぽだったことに腹を立てていたけど怨霊化はしなかった。一安心。
一方で動かせない柱や天井には彫刻だの天井画だのがきれいに残っていた。
こういう細かい細工、壊れたら自動修復されるんだろうか?
『こういうのは無理ね。自動修復出来るのは壁自体とか柱自体。材質にも制限があるしこういう彫刻とか絵とかは修復できないの』
じゃあ残っているのは全部昔からあるやつですか。触って壊さないように気を付けよう。
彫刻にしろ絵画にしろ残されていた分だけでも質、量ともに相当なものでかなり見ごたえがあった。リースの緑色の燐光だけが光源だったのでちょっと不気味だったけど。
私の部屋、というのも決まった。
泊まりに来てほしい、という意味なのだろう。
リースの部屋の隣、元々は王妃か側室のだったんだろうな、という感じの広い部屋だ。
一応貰っておいた。実際に泊まれるのはもっと大きくなってからだろうけどね。
使用人用の空間も結構あった。リースは初めて見るらしくキッチンの使い方とかを色々解説してあげたら目をキラキラさせて喜んでいた。
出入口の扉間際にも行ってみた。勿論こっそりとね。
出入口は二か所。二人ずつ警備の騎士さんがいた。声が聞けなかったので前回と同じ人達かどうかは分からなかったけど、今回は気付かれなかったようだ。
地下には鍵の掛かった宝物庫があった。リースの謎の力で開けてみると広い部屋に棺が一つだけ。
『私の昔の体ね。見てみる?』
と聞かれたので全力で遠慮した。
その他警護の人達が待機するための隠し部屋だのトイレだの天井裏だの、二晩かけて本当に隅から隅まで二人で探索したのだった。




