新たな怪談を作ってしまった
評価・ブックマーク有難うございます。
「皆様安心して。その可能性も無いわけじゃないけど恐らく違うわ。実はこの話にはもう少し続きがあるの。聞いてもらえばわかるわ」
アベリア様が一同をぐるりと見渡す。
皆固唾をのんでアベリア様に視線を集中させる。
「丁度同じ頃、城壁の上の衛兵たちが見たのですって、彼誰時の薄暗い空を北に向かって飛び去る小さいものを。大きさは丁度人の頭位だったらしいわ」
おおう、そっちも見られてたのか。着地時に光学迷彩をかけておいて正解だった。
「アベリア様、それで何故リース女王が出て来ていないと言えるのですか」
質問したのはお姉様。お父様が最近王宮に詰めているから余計に心配なんだろう。
「ミリアさん、考えても御覧なさい。夜中に現れたのがリタリエ男爵夫人の首。その後明け方頃に北へと飛び去る頭らしいものが目撃された。
同じ晩に起こったよく似た怪異。怪異なんて滅多に起こるものではないから恐らく両者は同じもの。飛び去ったのもきっとリタリエ男爵夫人の首でしょう。なら同じ頃に霊廟から飛び出したのもやはり男爵夫人と考えるのが自然だわ。飛び出してそのまま北に向かったのね。
きっと男爵夫人はリース女王を訪ねていたのだわ。
それにね。伝説によるとリース女王はいつも自分の寝室に居て他には行かないのだそうよ。例外は僭王カイを呪い殺した時ぐらい。今回に限って出てくるとは考えづらいわ」
アベリア様の解説を聞いて皆少し落ち着きを取り戻したようだ。ミレーヌ様もしがみついていたのに気づいて赤面しながら離れていった。うん、良かった。ケガさせなかった。
そして目撃されたのがリタリエ男爵夫人じゃなくて私だということを除けばアベリア様の推測はほぼ当たりだ。
正体が私だとばれないように余計な事は言わないようにしないといけない。
でも一つだけ気になっている事がある。これだけは聞いておきたい。
「霊廟を警備していた方たちは無事だったのですか?」
「いい質問ね。ええ、その後特に何もないそうよ。それも出て来たのがリース女王でない証拠ね。女王なら邪魔した相手は呪われるはずだもの」
あの二人、無事らしい。リースを怖がっていたからあんなことになってノイローゼになっていないか心配だったんだよね。
「でも何故男爵夫人はとリース女王を訪れたのでしょうか?」
お姉様がさらに掘り下げる。
勿論私は答を知っています。
たまたま秘密の抜け穴を見つけたからです。知らずにリースの部屋に入ってしまいました。
「それも推測できるわ。男爵夫人が飛び去った方角がポイントね」
「といいますと?」
「男爵夫人が飛び去った方角は北。一方男爵夫人の墓所がある旧リタリエ領は西。つまり男爵夫人は墓所に戻った訳ではないわ。
では夫人が向かった先、北には何があると思う?」
北? 北には何があったっけ。
運河を下り、大河レーヌスを下るとあるのはチョコの聖地フーゼン市。固形チョコが作られている都市だ。そのフーゼン市があるのは……
「…ヘルツァーエ公爵領?」
「フレンさん、その通りよ。他にもカイケー伯爵領など第一王子派の主だった方々の領地は軒並み北にあるわ。男爵夫人が北に行くのはそれらの土地を呪い祟るためでしょう。
でも普通に考えれば王都に立ち寄らずに直接北へ、王都に寄るにしても王宮ではなく第一王子派の方々のお屋敷へ、王宮に行くなら第一王子殿下の寝室へと向かいそうなもの。しかし実際には真っすぐリース女王を訪ね、その後脇目も振らず北へと向かった」
「第一王子派の屋敷には現れなかったのですか?」
「どうもそうみたいなの。現れたという話も聞かないし、どなたかが祟られた気配も無いの。ヘルツァーエ公爵にせよカイケー伯爵にせよ王都に居るというのにね。もちろん殿下の所にも来なかったらしいわ。
ならば考えられる答は唯一つ。
男爵夫人はリース女王の力を借りようとしたのよ。だから真っすぐ大怨霊である女王の霊廟を訪れた。きっと夫人は怨霊としての力があまり強くないのだわ。
しかし男爵夫人が霊廟を出たのは明け方。随分時間が経っている。もし女王が直接力を貸すのなら長時間留まる必要はないでしょうし怒りに触れて逃げ出したのならもっと早く、真夜中、魔力が感じられた頃だったはず。
ということはおそらく夫人は女王に教えを乞うたのでしょう。そして夜明けまでかけて怨霊としての力の使い方でも学んだのではないかしら。
そして一路第一王子派の領地へと向かった。これから単独で祟りを成すのでしょう。でもさすがにリース女王ほどの力はないでしょうから時間をかけてゆっくりじわじわと祟るのではないかしら」
いえ、リースとは単におしゃべりしてただけです。祟る予定もありません。
「ゆっくりじわじわ……それはそれで恐ろしいですね」
「でも夫人の無念も分かる気がするわ」
「陛下の裁定に異を唱えるわけではありませんがあの時は第一王子派への罰が足りないような、いえ異を唱えている訳ではありません。リタリエ男爵夫人ならそう感じるだろうな、と言いたかったのですわ」
ここにいる面々は皆正妃派。自分たちが祟られる側ではないと聞いてすっかり傍観者モードに入ったみたい。まあずっと怯えられているよりはいいんだけど。
こうして私はまた新たな怪談を作ってしまったのだった。




