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突破

評価・ブックマーク有難うございます。

 通路は広いが灯りは全くない。完全に忌避されている区画の様だ。私にはありがたい。

 でも当然ながら掃除は全くされていないようだ。

 換気の為に足元に隙間を開けて魔力の団扇で空気を取り込んでいるんだけど大分埃っぽいニオイがする。光学迷彩の内側で別に魔力を纏っているから埃自体は吸ってないはずなんだけど……もうちょっと強く纏うか。よし、匂いが減った。


 リースに聞いていた位置に下り階段を発見。リースの部屋が二階だからここは下り一択。階段用に光学迷彩の下部分を拡張し斜めに降りる。転げ落ちないように慎重に。

 一階に降りたら主通路をリースの記憶を頼りに進む。魔力の髭で探り探り進んでいく。

 基本は道なり。最終的に中庭に面した回廊に出られるらしい。中庭側は柱だけで壁が無いそうだからそこから外に出られるはずだ。

 そこまで無人だといいんだけど。 

 途中で魔導灯の明かりが見えたら要注意だ。


 あ、正面が壁。左右も壁。行き止まりだ。

 リースに聞いていた構造とは違う。通路が途切れている。改築されてしまったようだ。

 確か少し戻った所が十字路になっていたはず。バック、バック……あった!

 こっちの道がどうなっているかは聞いてないから分からない。左右どちらにも進めそうだけどどうしよう。

 あんまり迷子になってる暇はないんだよね。夜明けまでどれだけ残っているか分からない。

 えーっと、この通路は北向きだったはず。屋敷は王宮から見て北東か北北東か位の方角だから東側の通路、つまり右側から試すのがよさそう。


 右側の通路を魔力の髭で探りながら進んでいく。どこまで続いているのだろう。体育座りのままだからいい加減窮屈なんですけど。魔力感知が使えないから人がいるかどうかも分からないし。

「今なにか気配がしなかったか?」

 その時意外なほど近くで人の声がした。多分3mもない。魔力の髭のすぐ先だ。こちらに手を伸ばせば光学迷彩に触れてしまうかもしれない距離。

 思わず声をあげそうになるのをこらえる。見つかっちゃいけない。そっと後退し息を詰めて気配を消す。

「いや? 何も感じなかったぞ」

「なにか中から動きを感じたんだよ」

 何この人鋭い! 

「怖い事言うなよ。こんなとこ誰も入らないし例のあのお方は寝室からは出て来ないって話じゃないか。それともお前、中に入って確認するか?」

「いや、それは……でもしかし万一……」

「中に入れってのは冗談だ。でも気になるならちょっと扉を開けて中を照らしてみたらどうだ。すぐ閉めればあのお方の怒りに触れることもないだろう……多分」

「多分ってなんだよ多分って!」

「多分は多分だよ。確証なんかないんだから」

「じゃあ一緒にやろうぜ」

「あ? 何で俺まで」

「俺たち二人の役目だろうが」

「…………ちっ、仕方ない。1、2の3で開けて同時に中を覗くぞ」


 扉が閉まっていたらしい。しかもその前には衛兵が二人。どうしよう。

 光学迷彩があるから見られても多分大丈夫だけどその後が問題だ。気付かれずに通るのはまず不可能。

「行くぞ。カウントを始めるぞ。いいか、ほ、ほんとに始めるからな」

「いいからさっさとしろよ」

「いや待て。まだカギを開けてなかった……よし」

 もう考えている暇はない。イチかバチか向こうが扉を開けた瞬間魔力の足で跳ねて通り抜けよう!


「行くぞ。いーち、にーの…」

扉ギリギリまで近寄って、魔力の髭で扉の動きを監視する。必要な幅は最低5m。触った感じ扉はもっと幅があるけど、それだけ開いたところでジャンプだ。上はアーチ形になっていて中央の高さは10mほど。飛び越えるには十分。向きを整えて……あれ、扉が内開きだったらどうしよう。つっかえて開かないかも。でももうバックしている暇はない。

「さんっ!!」


 幸い外開きだったようで扉は開いた……ちょっとだけ。両開きの扉が少しだけ開き、隙間から二つの灯りが覗き込んだ。

通り抜ける隙間も暇も無かった。


 光学迷彩のすぐ先、わずか数メートルの距離から見られている。

 見つかりませんように!

 私は息を殺し、衣擦れの音さえしないように動きを止めて審判の時を待った。


「なんだよ。何もないぞ」

「うーん、おかしいなあ。確かに気配を感じたんだけど」


 よかった。ちゃんと光学迷彩が効いてくれたようだ。


「扉の陰がよく見えないな。もっと大きく開けようぜ」

「やめてくれよ。何もないって」

「でもちゃんと確認しないと」


 頑張れ真面目な方の人! もっと開けて!


「じゃあ俺はあっちに行ってるからその間に思う存分調べてくれ。俺はあのお方を刺激したくないんだ」

「むぅ、しょうがない。これ以上は止めておくか」

「それがいい。じゃ閉めよう」


 ああっ、いま閉められたら困る! こうなれば仕方ない。強行突破だ!

 体育座りをやめて立ち上がり身体強化を発動。体勢に合わせて光学迷彩を上に伸ばすのも忘れない。


「おわっ! なんだ! 扉が勝手に開く!!」


 そして扉の隙間に光学迷彩ごと突入、こじ開ける!


「身体強化ッ! ダメだ、止められない……っ! うわっ!!」


 やったっ! 外に出られた!


 ここは建物の外みたい。遠くで灯りがいくつも動いているのが見える。地面から少し高いところを見るとあそこはきっと王宮を囲む城壁の上。そこを見張りが巡回してるんだ。あ、前方の空が少し明るくなってきているのもわかるよ……って夜明け!! 急がないと!!


「おい、何が出てきた!」

「分からない! 何もないぞ! とにかく扉を閉めないと!」 

「呼子を鳴らすのが先だ!」

「先ず扉だ! 開けたままだと中に響くだろうが!」


 よし。まだ見つかっていない。今のうちに魔力の足でジャンプ。下側にも光学迷彩を発動、さらに紙飛行機を展開し北へと滑空する。

 後ろで笛がピーピー吹かれているけど気にしない。

 王都全体を覆うバリアまで越えてしまうと不味いので壁のギリギリ上を飛び越える。

 王宮のバリアは何の抵抗もなく通過できた。リースの情報通りだ。そのまま一路屋敷へ。

 迷子になっている時間はない。王宮からも十分離れただろうし顔の周りの光学迷彩は止めておこう。一応赤ずきんちゃんフードをかぶっているから見られても誰だか分からないだろう。

 視界がクリアになり魔力も感知できるようになった。これでもう迷わない。

 そのまま真っすぐ屋敷へ。無事出発地点の木立の中に帰還した。

 着地の時だけ念のため光学迷彩を完全発動しておく。これで誰にも見られなかったはず。

 洗浄も忘れない。洗浄魔法を使う訳にはいかないけど纏った魔力に付いた埃なんかは出来るだけ弾き飛ばしておいた。

 もう屋敷の使用人たちは働き始めている。その中を魔力感知フル活用ですり抜けて離れに戻り、身につけていた赤いフード付きケープを仕舞った所でメイドのアリスがやって来た。セーフ!!!


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