ここからは一人
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「それじゃそろそろ帰るね」
『また来てね。偶にでいいから』
「うん、またお話ししよう」
帰りは表の扉を開けて王宮内を通り抜ける事にした。
この部屋には窓がないので王宮を抜けるか隠し通路を戻るかしかない。でも戻った場合はバリアの問題が残る。
リースによればバリアは内側からならそのまま通り抜けられるそうだ。つまり王宮のバリアはまだ展開されているけどそのまま突っ切ればOK。三百年たってるけど仕様変更とかはないよね。
王宮ルートの問題は警備体制だ。
リースの記憶では私の前に来たのはメイドさん。
リースが「ありがとう」ってお礼を言ったら仕事を放り出して逃げていったらしい。無理もないよね。仕方なしに自分で部屋の扉を閉めた所までは覚えているそうだ。
確かに室内にはリネン類の乗ったワゴンが放置されていた。リネンがボロボロなので本当に長い間誰も来ていないんだろう。
実際、私がいる間近づいてくる人はいなかった。それどころかかなり遠くまで人っ子一人魔力感知に引っ掛からない。
この区画は全く使われていないのだろう。
ただしリースの時代には監視カメラ的なもので通路を監視していたそうだ。やっぱり王宮だけSF世界だよなーと思ったけど、よく考えたら悪役令嬢物のネット小説には結構監視カメラと録画装置のセットが出て来てたよね。主に悪役令嬢側の証拠用に。そもそも映画だってあるのだ、この世界には。その手の監視装置があったっておかしくはない。
装置がまだ生きているかどうかは分からないけど生きている前提で行動しないと。
光学迷彩が使えるならそれが一番いい。でも光学迷彩は幅を取る。頭上にあるだろうカメラ対策用に高さも必要だ。具体的には幅5m高さ3.5mは必要。
幸いこの部屋の扉はそれより大きい。だから部屋から出るところまでは問題ないんだけどその先はどうなっているのだろう。
リースは部屋から出られない。だから王宮の建物が現在どういう状態なのか、建物が改築されたかどうかは分からない。ただ生前の記憶によれば主要な通路はどれも十分に広かったそうだ。
そういえば私が王宮に来た時の経験でも主要な通路はやたらと広かった。
だから光学迷彩でいけそうだ。光学迷彩を纏ったまま中庭なり何なりに出てそこから大ジャンプで脱出だ。
隠し通路はもう閉めたので部屋は完全に真っ暗……というわけではないけど部屋を照らしているのはリースの体が発する幽かな緑の燐光だけだ。
その中で体育座りをしてから光学迷彩を展開した。今回は横方向と頭上だ。座った理由は光学迷彩の高さを下げる為。立っている状態だと4mぐらいになってしまう。その高さでも扉は十分通れるんだけどその先が大丈夫かちょっと心配。だから今回は座った状態で行くのだ。
展開した途端真っ暗で何も見えなくなり、外部の魔力も分からなくなる。
『わぁ凄い。魂もほとんど分からなくなったよ』
リースが驚くけど、私も驚いた。魂関連にも効果があるなんてビックリだ。実は中から出る光や魔力には迷彩効果がない筈なんだけど、魂だと違うんだろうか。
でも声はよく聞こえるんだね。
リースの声は少し変なエコーがかかってるけど念話的なものじゃなくて耳で聞こえる普通の音だ。どうやって出しているかはともかく光学迷彩を素通りして聞こえてくる。
私の声もリースに届くみたい。光学迷彩は音には効かないんだね。蝙蝠みたいに音で物を探知する相手には使えなさそう。
リースが正面の大扉を開けてくれる。
もちろん光学迷彩の中からは見えないんだけど、外側に魔力で猫の髭みたいなのを作って手探りならぬ髭探りで周囲を確認できるのだ。こらそこ、触角とか言わない。
戸口を確認したら、お尻の下に作った魔力かんじきをうねうね動かして移動だ。こうすれば座っていても移動できるし足跡が残らないから安心だ。唯一の欠点は素早く動けない事だけど、どのみち髭探りで動くので速度はいらないのだ。
「またね」
『気を付けてね』
別れの挨拶をして部屋を出る。後ろで扉の閉まる音が聞こえた。
ここからは一人だ。




