表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/375

パウンドケーキ

評価・ブックマーク有難うございます。

 小麦粉、卵、砂糖、あとは無塩バター。

 卵は家畜化した魔獣ので鶏卵より二回り位大きいけど味は同じ。それを溶き卵にしておく。

 バターはミルクゴートから貰ったミルクでさっき作ったばかりの出来立てふわふわ。それを泡泡立て器でよく混ぜながら同量の砂糖を投入、さらに同量の溶き卵を入れてよく混ぜる。最後に同量の小麦粉を投入し混ぜ合わせたら型に入れてオーブンへ。


 そう、作っているのはパウンドケーキだ。前世のレシピをなんとか思い出せる唯一のケーキ。なにしろ材料は基本全て同じ分量という親切設計。材料の種類と混ぜる順番さえ思い出せばOK、特別な技術は不要という簡単なケーキだ……簡単なはずだよね?  前世では一度だけ焼いたけどネットのレシピを見ながら問題なく作れたし。あの時は計った砂糖のあまりの多さに恐れおののいたなあ。


 別に知識チートしたい訳じゃないから既存のレシピがあればそれで良かったんだけど、残念ながらこの国にはパウンドケーキがないらしく作り方を知っている人は見つからなかった。

 私の記憶はさほど役に立たない。なにしろ一度しか作ったことがないから色々とうろ覚え、特に焼きの温度と時間はまるで思い出せないのだ。(たとえ覚えていたとしても温度の単位とかが分からないので意味がないけど) そこでうちでコックをしているハンスさんに協力を仰いで色々試している所だ。

 ハンスさんはうちのコックさんの中では若手で、ようやく見習いを脱したところだそうだ。一見ひょろりとしていて頼りなさそうだけど働いている時はきびきびしていてちゃんと料理人している。

 因みにうちでは料理人と菓子職人の区別はない。コックさんが料理も菓子も両方作る。だからハンスさんにも菓子作りの心得がある。

 「聞きかじったレシピを再現したい」とお願いしたところ快く協力してくれた。但し2m以内には近寄ってこない。特に泡立て器を使っている時は大分引いている。泣くぞ。

 それでもハンスさんは「砂糖は少しずつ入れた方が…」とか「小麦粉は混ぜすぎないように…」とか知らないレシピのはずなのに色々アドバイスしてくれた。さすがだ。


 オーブンは魔道具だけど温度調整は手動。その辺は全部ハンスさんがやってくれた。触らせてくれなかったとも言う。


 色々な温度と時間を試し、いくつかの失敗(外側焦げ焦げ中は半生とか)を乗り越えてようやくまともな一品が出来た。パウンドケーキの四角い型が無く適当なので代用したので巨大なドーナツ型になったけど味は確かにパウンドケーキだ。


 でもこれで完成じゃない。


 私が目指しているのは甘酒のパウンドケーキ。米麹は屋台のおばちゃんから買った。それを甘酒にして入れる予定だ。


 最近お兄様が疲れている感じなので、なにかお菓子を作って差し入れようと思ったのだ。

 私達兄妹は教育の一環としてエーコ領の実際の経営に多少なりとも関わり始めている。中でもお兄様はビックリするぐらい根を詰めて取り組んでいるのだ。

 私達妹組は魔法の授業とか行儀作法のレッスンとかその他もろもろ合わせても午前中には終わるのに、お兄様は夜中まで一日中やっているのだ。遅いとか要領が悪いとかじゃない。自主的にどんどん仕事を増やしているのだ。大量の資料を、時には何百年分もひっくり返して調べ物をしたりしている。

 もしかしたら婚約者が出来たから早く一人前になりたいと思っているのかもしれない。でもちょっとやり過ぎだと思う。

 とはいえ単に休めと言って休むような人ではない。そこで休憩を取らせるために甘い手作りお菓子を差し入れようと思ったのだ。手作りのお菓子なら「後で食べるよ」と言って放置したりせず休憩を取って一緒に食べてくれるだろうという計算だ。



 ちなみにこの国では貴族がお菓子を作るのは別におかしなことではない。

 そもそも貴族は男も女も全員魔法戦士であるという建前があり、そのため野営料理位は(すべか)らく出来る(事になっている)のだ。

 魔法学園でも授業である程度習うし料理部なんていう部活もあるらしい。

 だから本格的に料理を嗜むのも別に恥ずかしい事とは考えられていない。お菓子作りもまた(しか)りだ。


 差し入れるのが何時ものおやつでは新鮮味が無い。ちょっと変わったものがいい。よし、お兄様に甘酒が気に入っているようなので甘酒入りのお菓子だ! と考えたのだけどそれだとパウンドケーキしか思いつかなかった。

 何しろ前世で食べたことのある甘酒入りのお菓子というと友達が焼いた甘酒パウンドケーキだけなのだ。きっと他にも色々あったんだと思うけど私は知らない。だからここはパウンドケーキ一択だ。


 既に基本のパウンドケーキは出来た。次は甘酒入りにチャレンジだ。


 しかし気が付くと昼過ぎから初めたのにもう夕方近くになってしまっていた。おやつを差し入れるにも遅い時間だ。というかもう晩御飯が近い。

 厨房の他の場所では既に何人ものコックさんが忙しそうに働いている。晩御飯の準備だろう。さすがにこれ以上は邪魔になってしまう、というか既に邪魔になっている気がする。


 続きは明日だな。


 そもそも米麹から甘酒を作るには時間がかかるのだ。

 おばちゃんに聞いたところでは、お湯に麹を浸して半日ぐらい保温しておく必要があるそうだ。しかも温度が悪いと甘酒にならないらしい。逆に上手くいけば薄めないと飲めない位に甘い甘酒になるそうだ。

 でもまだ全く準備していない。どのみち今日中に焼くのは無理だ。

 ハンスさんや他のコックさん達にお礼とお詫びを言って厨房を出た。


 晩御飯を食べた後は魔法の実験だ。こっちはこっちで進めないと。色々試すぞー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ