私に必要なのは本物の闇
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前世のイメージでは貴族と言えば宵っ張りで毎晩舞踏会をやっている印象があったけどこの国は違う。
というか夜中は各地区の出入口である坊門が閉ざされ通行が制限されるので夜のパーティーは泊まり前提の時しか開かれない。
勢い皆さん早寝早起きの健康的なライフスタイルになる。
王宮では朝議が文字通り早朝に執り行われ、会議だの事務作業だのは通常昼前には終わるらしい。なんてホワイト。もちろん以前の王宮襲撃事件みたいな大事件があれば別なんだろうけど。
庶民は夕方まで働いているけど日没後にも開いている店は酒場や宿屋(いかがわしいのを含む)ぐらいだ。
もちろん衛兵さんみたいに昼夜問わず働いている人もいるけど全体から見ればごく少数。
この国の夜は非常に早いのだ。
王都に来てから何度かお茶会やパーティーに招待されたけど、どれもこれも昼間から夕方の開催。前世でイメージしていたような、シャンデリアの下で踊り休憩で星を眺めるといった感じの舞踏会は一切なかった。
まあ、仮にあってもダンスパートナーが危険だから踊れないんだけどね。というか多分招待されない。昼間開催の舞踏会はあるけど招待されるのは両親だけだし。
そんな訳で夜は長い。
エーコ領では毎晩のように森に出かけてクマオやクマ姐さん達と遊んでいたんだけど、王都にはそういう相手がいない。
新たな魔物と出会いたい。
王都の外は北側に運河がある他は全て平野。地図によると魔物が居そうな森で一番近いのは南に馬車で一日位の所だ。
でも私の足なら大して時間はかからない。
そこに行けばまだ見ぬクマ、いやクマじゃなくてイノシシでもオオトカゲでもいいんだけど私に付き合ってくれる魔物がきっといるに違いない。
人目さえなければダッシュで森まで行くところなんだけどここは王都のど真ん中。町中で目撃される危険があるし、城壁の上にも常に見張りがいるので抜け出すのも忍び込むのも難しい。
大人しく寝てればいい? それは出来ない相談です。
寝る子は育つと言うけど、私はちょっと育ち過ぎに危機感を覚えているのだ。
前世、身長が少しだけ低かった私はもう少し背が欲しいと願っていた。そしてどうやらこの世界の神様はその願いを叶えてくれるつもりらしい。
でも物には限度というものがあるのだ。
10才なのにメイドのアリスの身長をとっくに抜かしてしまった。今の身長は14才のお兄様や13才のお姉様とほぼ同じぐらい。なんかそのまま追い越しかねない勢いで伸びている。
さらに王都で同い年の子たちと会って思い知らされたのだ。誰も彼も小さくて可愛い、というか私だけ妙にデカい、と。
太ってるわけじゃないよ。むしろ痩せてる方。私が言っているのは縦方向の話。
ユージン君なんかとは頭一つ分ぐらい違う。もちろんこれから成長期が来るから逆転される可能性はあるんだけど、私の方もそのままにしておいてはいけないのだ。
幸い前世知識で夜更かしが成長ホルモンの大敵だと知っている。
前世ではより多く分泌されるよう夜10時に寝るのを心掛けていた。(受験の時にやめちゃったけど) 今世ではその逆をやる。つまり夜更かしだ。
3年前は外出を諦めて室内で延々と魔力操作の訓練だけをしていた。でもそれだと精神的に疲れてしまってすぐ寝てしまうことも多かった。
やはり外に出て動き回る方が起きていられる。すぐ横にベッドがなく部屋に帰るまで寝られない、というのもいい。
幸い今の私には足跡を残さず無音で移動できる技がある。魔力は元々出ないので後は視覚さえ何とか誤魔化せればこっそり出入りするのも可能だろう。
視覚を誤魔化すと言っても、きっちり透明化する必要はない。
夜なのだ。闇に紛れればいい。
残念ながら真っ黒な服は持っていない。厳密にいえば有るには有るんだけど体を動かすには不向きなつくりなのだ。
そこで魔力で何とかしようと思う。
魔力を闇に変えて体を覆えば行けるはず。
実は魔力で闇を作り出すのはやったことがない。
魔力を闇色に変えることは出来るけどあれは実際の闇ではなく単なる魔力の印象の話だ。魔力が見えない人には全く見えないし見える人でも視覚を阻害されたりしない。
私に必要なのは本物の闇。誰が見ても真っ暗で向こう側を見通せないものを作り出す必要があるのだ。
そう、ユージン君が言っていた光の代わりに闇を放つ魔道具のように。
光の魔法の応用でできそうな気がするけど、魔法でやってしまうと変調放射で却って見つかりやすくなってしまう。
だから魔法になる前の魔力だけで何とか出来ないか考えてみよう。
まず私の魔力を人差し指に纏わせてみる。
纏わせた魔力をぐるぐる回す。
速度を上げていくと固体を通さなくなり、液体も通さなくなり、最後に気体も通さなくなる。
ここまではやったことあるけど、今回はさらに速度を上げていく。
どんどん上げる。魔力を超高速で回転させる。速く、もっと速く。
思った通り、光を通さなくなり始めた。指が良く見えづらくなっていく。
その状態でさらに加速していくと……
ピカーッと輝く鏡面になった。魔道具の灯りを反射して一点の曇りもなく煌めいている。
指先に出来た円筒形の魔力の鏡を覗き込むと横に引き伸ばされた私がはっきり映っている。
へんな顔、と思った瞬間集中力が切れて鏡が消えた。維持するのはかなり大変だ。
一応頭の周りでやってみるけど光を全く通さないので前が全然見えない。てゆうかこれ魔力も遮断してるっぽい。視覚も魔力感知もだめじゃ移動中は使えない。
それにキンキラの鏡になっているのも問題。確かに視線は遮られて中は見えないだろうけど、かえって目立つよね。
でも取り敢えず魔力で光に影響を与えられる事は分かった。あとは色々試してみるのみ!




