怪奇! 妖怪馬車担ぎの誘い!
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夜は相変わらず森へと出かけている。
子育てのジャマをしても悪いのでクマ姐さんの所には頻繁には行かない。その代わり暗視の錬度を上げるために森の中を走り回った。もちろん木、障害物、魔物全てを避けながらだ。
時折イノシシ君やオオトカゲ君とも会った。彼らは一所に留まらないので会いづらいのだ。以前と違って今はもう出会いがしらの衝突はしない。ちゃんと魔力で存在確認、暗視で視認、アイコンタクトで戦意確認、してから突進、ひとしきり戦って転進、 Yo! とラップでリズムを刻みたくなるぐらいに彼らと会うのは楽しみなのだ。色々発散できるからね、昼間周囲に迷惑をかけないよう縮こまっている分とか、古語の勉強がなかなか進まず「魔術書」が読み解けない分とか。だからもう彼ら相手に戦闘訓練する意味も無いんだけど、見かけるとついつい戦いに行っちゃう。
ともかく連夜の訓練のお陰で暗視の錬度も上がり、初夏になる頃にはもう光道の明かりだけで子熊ちゃんの可愛さが十分堪能できるようになった。
彼らも大分大きくなり後ろ足で立ち上がればもう私の背と同じくらいだ。もう少ししたら子熊とは呼べなくなってしまうだろう。向こうも慣れてきたのか大きくなった所為か逃げたりはしなくなった。尤も近づくとクマ姐さんの鉄壁ブロックが入るけど。モフモフへの道は未だ遠い。
そんなある晩のこと。
私はいつものように赤ずきんちゃんスタイルでこっそり裏口から離れを出た。
さあ今日はどの辺に行こうかと森を見やった丁度その時森の奥の方、真っ暗闇の中で一瞬オレンジ色の光が煌いたのが見えた。
目を凝らして見ているとまた光った。あれはクマ姐さんの火球? もしかして誰かと戦ってる?
ともかく行ってみないと!
私は納屋からあるものを持ち出し肩に担ぐと急いで光の見えた方へと向かった。
ソニックブームの轟音を出さないように慎重に、でも急いで現場へと向かう。移動するのは木の上。魔力感知で丈夫そうな枝や幹を見つけながら、飛び移って移動する。木に着地するとぐぐっと撓ってザザザッ!!と大きな葉擦れの音がするけど持ち出した荷物が嵩張るので地上は通れないのだ。近づくまでは気にしないことにする。
クマ姐さんがいるのは崖の下、私が以前遠当てで崩してしまった辺りだ。
崖の縁あたりには木がない。そこを伝って行けば歩けるので今更かも知れないけどできるだけ音を立てないよう慎重に近づき、上から覗き込んだ。
真下に魔法の光球が浮いていて崖の下を照らし出している。
元から多少開けていた場所だけど、辺りの木々がなぎ倒されてかなり広くなっている。
そんな中、全身に炎を纏ったクマ姐さんが二人組の冒険者――そもそもこの世界に冒険者っているのかな? とりあえずハンターとしておこう――と対峙しているようだ。他の魔力は感じられない。幸い子熊ちゃんたちは近くにはいないみたいだ。
あちこちから煙が上がっていているところを見るとクマ姐さんは大分暴れまわったようだ。でもハンター達には目に見えるダメージがない。一方クマ姐さんはかなり疲れている感じだ。
ハンター達は弓や槍などではなく何故か投石器で攻撃している。時折魔法攻撃もしているがこれも飛礫っぽい弾丸を飛ばす魔法だ。継続的に変調放射が出ているから二人とも身体強化中だろう。
クマ姐さんは火球を吐きつつ自身も炎の塊となって突進していくけど簡単に躱され一方的に礫を浴びている。動きもかなり悪い……と思ったらその場に倒れこんだ。纏っていた炎も消えてしまう。
その様子を見たハンター達がクマ姐さんに近づいていく。
いつの間にか一人の手に光でできたような直剣が握られていた。魔法の剣!? 強い魔力を放っている。
止めを刺すつもりだ!! もう一刻の猶予も無い!
私は眼下の光球に飛び込み、魔力を纏わせた足先で蹴りぬいて破壊するとそのまま着地した。
「な、何だ、急に暗く……女の子? 女の子が馬車……いや荷車を担いでる…のか?」
私が着地したのはハンター達とクマ姐さんの間、しかも常に距離を置いていたハンター達よりかなりクマ姐さんに近い。光球を破壊しつつ飛び込んだので着地地点は選べなかったのだけど大分いい感じの位置だ。
肩には納屋から持ち出したものを担いでいる。実はこれ大型の荷車だ。それをふわりと地面に下ろすと無言でハンター達を手招きした。
雲が出ているのか光道の光は辛うじて見える程度。
辺りを照らしていた光球は壊したしクマ姐さんが纏っていた炎ももう無い。ハンターが手にしている輝く剣の光は私まで届いていない。
落ち葉や下草が所々でぶすぶすと燻り、立ち上る煙をわずかにオレンジ色に染めている。それだけが私を照らす明かりだ。つまりほぼ真っ暗。もし暗視があってもハッキリとは見えないはず。
その暗闇の中無言で馬車(荷車だけど)に誘う少女。フードを目深に被っているので見えないだろうけど笑顔も作っている。
ついでに言うと私は身体強化のほかに暗視魔法も発動しているのだけど変調放射は全く出ていない。暗視なんかでは出ても良さそうなものなのに何故か出ないのだ。暗視も身体強化の一種だったりするんだろうか。ともかくそのおかげで魔法を使っていないように見えるはずだ。
魔法抜きで馬車を担ぐ少女(私)が無言で馬車に誘う。(荷車だけど) 結構ホラーな絵面になっていると思う。
さらに周囲に軽く魔力を放っている。魔力の生体放射が全くないと身バレの危険があるからやってるんだけど、その色は本来の朱ではなく黒。色を思いっきり暗くしたらこうなった。色合いや透明度を変えるのは難しいけど明るさだけはなんとか変えられるようになったのだ。半透明の黒い魔力なんて見たことないので結構不気味なはず。さらに色以外の部分も頑張って調整して人間っぽくない魔力に仕上げてある。生体放射が無い私だからこそ出来る完璧な魔力偽装。正直維持するのはしんどいんだけど「人の形をした何か」の雰囲気が出ているはずだ。
題してプランA「怪奇! 妖怪馬車担ぎの誘い!」
ここにいるのは妖怪馬車担ぎで実在の領主の娘とは一切関係ありません、というシナリオだ。
真っ向勝負では勝てないかもしれないし領主の娘として権力を振りかざすのも問題がある。だから演技と演出で勝負する。
ジャパニーズホラーで育った前世の経験、そして人とはちょっとだけ違う魔法が今こそ生きるのだ!
ハンターが気味悪がって引いてくれれば万々歳。あくまでクマ姐さんに拘る様なら隙を見て荷車にクマ姐さんを乗せて逃げる、というか馬車担ぎらしく担いで連れ去る。私の身体強化ならそうそう追い付かれることはないはず。
以前こんなことがあったらと妄想して作ったプラン、魔力偽装も練習しておいたんだけど正直出番があるとは思わなかった。準備しておくもんだね。
ちなみにプランB以降は考えていない。
「嬢ちゃん、こんな所で何してるんだ? 危ないから早く帰りなさい」
ハンターその1、剣を持っている方が呼びかけてくるが聞こえない振りをして手招きを続ける。時々かわいらしく小首を傾げてみせる。
「親父、こいつもしかして『馬車担ぎ』じゃないか。急に光球も消えたし。だとしたらヤバいよ。逃げた方がいい」
「バカ言え、そんなの居る訳ないだろう」
「だってこんなに小さいのに荷車を担いでたんだよ。人間じゃないよ!」
ハンターその2は上手く騙されてくれたみたいだけど、その1はまるで信じていないようだ。
「身体強化が強力ならできなくもないだろう」
「こんな子が身体強化? あり得ないよ」
「知らないのか? 領主の下の娘さんは3才の時身体強化を発動したって話だ。出来る奴は出来るんだよ。確かに発動している感じは無いが、それだって訓練次第で隠せるって話だ」
ハンターその1が核心を突いてきた。魔力の偽装は上手くいっていないんだろうか? でもここは演技を続けるしかない。ひたすら手招きする。
「とにかくブレイズベアが息を吹き返すと嬢ちゃんが危ない。眠らせるぞ」
言うや否やハンターその1の魔力が煌めき睡眠魔法が飛んできた。
これは想定の範囲内。
今私は身体強化を最大発動し、服にも荷車にも強靭化をかけその上で全体に魔力を纏わせている。そして何よりクマ姐さんを守るために戦意MAXだ。
この状態ならまず睡眠魔法は掛からないはずだけど、念のため遠当てで魔法を迎撃した。
「な! 魔法が崩れた!? 何が起こったんだ?」
「親父ぃ、もうやめよう、気味が悪いよぅ」
遠当ては変調放射の煌めきがなく魔力も感知できない。ハンター達からは睡眠魔法の魔力が急に爆発したように見えたはずだ。驚いている様子から見てやっぱりこんな魔法は無いんだろうな。
よし、この隙にクマ姐さんを確保だ。
そう思って後ろを振り向いたら……
おおぅ、このクマ、クマ姐さんじゃない。
クマ違いだ……




