大分前から好き合っていたらしい
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聞くと二人は大分前から好き合っていたらしい。
しかしトニーは私を誘拐した元誘拐犯の片割れ。本来極刑になるべき所を黒幕について証言させるために処分保留になっていたのだ。あと、犯行動機となった借金はうちが黒幕にばれないようにこっそり肩代わりしていたらしい。その分を働いて返していたんだとか。知らなかった。
借金は魔法学園関連だそうだ。平民の学園生には国から補助が出るため授業料無料かつ給付金付きで学べるのだけど、中退したり卒業後に魔法騎士団に入らなかったりすると授業料をふくめ全額返金しなければならないのだ。トニーとボブはそれが出来ず借金を背負ってしまっていたそうだ。
とにかく処分が保留されていたため結婚には踏み切れなかった。証言をした後誘拐に対してどんな罰を受けるか分からなかったからだ。
そしてとうとう証人としての役割も終わり、借金も完済していたのでお父様から改めて沙汰が下された。「罪を償ったものと見做す。このまま働き続けてほしい」だそうだ。それでようやく安心して結婚できるようになったんだって。お父様GJ。
「二人とも、おめでとう! 祝福するよ!」
この二人とあとボブにはかなり世話になっているからね。幸せになってほしい。
お父様にはまだ言っていないというので皆で執務室に移動。
お父様の執務が一区切りするまで待たされる。
久しぶりに入った執務室だけど、知らないうちに大きな地図が張り出されていた。国内の地図だ。赤と青と白でまだらに塗り分けられている。エーコ領は青、ヘルツァーエ領は赤だ。派閥で塗り分けているらしい。
これを見ると結局派閥争いはまだ全然終わっていないんだな、とげんなりする。
気を取り直してフーゼン市からうちまでの道を確認しよう。重要なチョコの流通経路だ、是非知っておきたい。
フーゼン市はエーコ領の遥か北、レーヌス川の東岸にある。レーヌス川は国の東から入って大きく蛇行しつつ北へと流れる大河だ。物流の大動脈だと習ったっけ。ということはチョコも船で運ばれるのだろうか。地図を見ると支流のひとつが近くを流れている、というかエーコ領の東、『Z』の領域との境界になっているリガ川だ。割合近くを流れているのだけど対岸が『Z』の領域なので港は無い。川幅の広い川でも『Z』はどうやってか渡って来ることがあり、大勢の人が集まるとその頻度が上がるのだ。というわけで対岸まで石樹の森になった時点でリガ川沿いの町は全て放棄され、今では町の跡地等に作られた魔法騎士団の小さな砦があるだけだ。
港はかなり北のほうまで行かないと無いみたい。それほど厳密な地図じゃないから実際の距離は分からないけど。
王都の方には別の支流が流れ、そして王都まで運河が通っている。あの屋台のおばちゃんが仕入れるチョコ、というかカカオ豆はこれを通って来るんだろうな。
そうこうしている内にお父様の仕事が一段落したのでトニーとスージーの結婚について話す。
お父様も祝福してくれた。
ただ一つ問題になったのが……
「そうなるとスージーに部下が必要だな」
「スージーに部下……ですか?」
「それはそうだろう。子供が出来たら今までのようには働けなくなる」
おおう、それもそうだ。今現在私についているメイドさんはスージーただ一人。しかも教育係も兼任している。基本的に朝から晩まで私に付きっ切りで色々やってくれてるけど子供が出来たらそれは無理だろう。
それに、スージーはまだ十代のはずだけど私の教育係を兼任するために色々みっちり詰め込まれていた。そう考えるともう少し偉くなってもいい。
「アリスと申します。よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
やって来たのは小柄な(といってもまだ8才にもなっていない私よりは十分大きいけど)栗色の毛の女の子だった。なんかガチガチに緊張している。というか怯えている。
「アリス、そんなに緊張しなくてもフレンお嬢様はお優しい方です。暴力を振るうような方ではありませんから『事故』にさえ気をつければ問題ありませんよ」
「でもスージー先輩……」
どうやらアリスはここに来る前に散々脅されてきたらしい。そして部屋に残る私の指の跡だの手形だのを実際に目にしてしまったと。まあやっぱり怖いよね。私なら怖い。
でも私の身動き一つ一つに反応して硬直するのはやっぱりちょっと傷つく。
時間をかけて安全だと分かってもらうしかないかな。とにかく今は不用意に近づいて怖がらせないように気をつけないと。
その後、ある程度の引継ぎを済ませると私の身の回りの世話はアリスがやるようになった。スージーは私の教育係と自分たちの結婚式の準備に集中するらしい。式自体は中夏の予定なのでまだまだ先なんだけど色々やる事があるらしい。
ちなみに「中夏」はこの国の暦の用語だ。日本で「仲夏」というと夏至ぐらいの時期だったはずだけど、この国の「中夏」はそれより一か月半ほど遅い。
この世界には現在月が無い。
伝承によれば昔は月があり、月の動きを元に一年を12か月に分けていたのだそうだ。つまり地球と同じだった。
しかしある時大災厄が世界を襲った。世界各地の土地が異世界の森だの荒野だのと入れ替わり始めたのだ。入れ替わる広さも様々なら現れる異世界も様々。複数の村を含む広大な農地が一夜にして広大な塩湖になっていたり、逆に森が消えて都市ひとつが住人ごと現れたりもしたらしい。さらにそこから未知の動植物や魔物、それに言葉や文化、姿さえ違う人々が広がっていき世界は大混乱に陥った。
そしてその原因がなんと月。狂った月の魔力がこの混乱を招いていたのだ。そのため月は英雄たちによって砕かれ、それ以降入れ替わりは起きなくなった。元に戻ることもなかったけれど。
この惑星の環――光道はそのときに月のカケラから出来たのだという。
その出来事があったので暦から「月」が排除され、太陽の運行のみを基準にした新しい暦が作られたのだそうだ。
現在の暦では冬至から春分までを冬、春分から夏至までを春――という風に一年364日を4つの「季」に分け、それぞれの季をさらに3つの「節」に分ける。例えば夏なら初夏、中夏、晩夏という具合だ。つまり一年は12節になる。結局節と月ってほぼ変わらないんじゃ? とも思うが月由来の部分を形式的にでも無くす事が重要だったのだろう。因みに新年は冬至からだ。
現在は「晩春」なので式は再来節(≒再来月)という事になる。こらそこ、「晩春」を日本の辞典で引かないように。この国の暦は日本と違うのです。
なお、月を砕いた英雄が我が家の祖先である――という所までがうちに伝わる伝承だ。(ちなみに王家を含むこの国の全ての世襲貴族がその英雄の子孫を称しているらしい)
話を戻すと、アリスはガチガチになりながらも毎日頑張っている。
あまりに健気なので秘蔵のたけ○こを分けてあげた。(たけ○この箱にはなにか細工がしてあるらしく全然湿気らず溶けたりカビたりもしないのだ) 聞いたところによるととても喜んでいたそうだ。これでたけ○こ派がまた一人。くふふ。




