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グラウカ  作者: 日下アラタ
STORY:27
232/246

01・キルリストの順位

 ──僕が『キルクルス』を結成してから、もう2年近くが経つ。


 元々のきっかけは、中学1年生の時にたまたま覗いた『都市伝説・You』というインターネットサイトで、グラウカの“特異体”の記事を読んだことだった。

 “殺しても死なない個体”の存在にすこぶる興奮した僕は、自身が“特異体”かどうかを確かめたくて、すぐさまにナイフで眉間を突き刺した。

 だけど、さすがに痛過ぎて上手くいかず、結局はインターネットの裏サイトで募集した、素性も知らない誰かに刺してもらった。

 その結果、本当に自分が“特異体”だったと知り、ヘンな笑いが止まらなかったのを覚えている。


 それから、僕は『都市伝説・You』のオフ会に参加して管理人の遊ノ木(ゆのき)秀臣ひでおみさんと親しくなり、遊ノ木さんの知人だった鳴神冬真なるかみとうまさんと出会って、3人で反人間組織『キルクルス』を立ち上げた。

 その後、人間の殺人現場で獅戸安悟しどあんごさん、インクルシオ対策官の殺害現場で半井蛍なからいけい君、ラブホテルからかすかな血の匂いを漂わせて出てきた茅入姫己かやいりひめきちゃんに遭遇し、彼らを順にスカウトした。

 もちろん、遊ノ木さんと鳴神さんを始め、他のメンバー3人も、僕のことを最初から信用したわけじゃない。

 だから、一人一人と仲間になる度にナイフを渡して“殺して”もらい、僕がグラウカの“特異体”であると証明して、メンバーたちの納得と信頼を得た。

 それにしても、あの頃はまだナイフで脳みそを貫かれる感覚に慣れていなくて、『死からの蘇生』を実演するのはとても苦痛だったよ。

 それでも、僕はどうしても自分をリーダーとする反人間組織を作りたくて、顔中を血だらけにしながら頑張ったんだ。


 それは何故なら、当時、僕の幼馴染の二人がインクルシオ訓練施設にいたから。

 大好きな彼らがインクルシオ対策官になるのなら、僕はその対極の立場に立って気を惹きたいと思うのは、当然でしょう?




 2月下旬。東京都月白げっぱく区。

 『厚生省特殊外郭機関インクルシオ』東京本部の南班に所属する「童子班」の高校生4人──雨瀬眞白あませましろ鷹村哲たかむらてつ塩田渉しおたわたる最上七葉もがみななはは、反人間組織『イマゴ』によるグラウカ収監施設『クストス』の襲撃事件の収束後、任務と鍛錬に励む日々を送っていた。

 晴天に恵まれた日曜日、この日は非番の高校生たちは、東京本部から程近い場所にある24時間営業のファミリーレストランにいた。

 店の奥に位置する8人掛けのテーブル席には、「童子班」の高校生4人の他に、インクルシオ千葉支部の2班に所属する石坂桔人いしざかきっと宇佐葵うさあおいが座っている。

 私服姿の高校生たちと同じく非番の二人は、「久しぶりに会おう」と前日に連絡をして、千葉県から都内にやってきた。

 ランチを済ませ、デザートの抹茶クリームあんみつを食べて、石坂が言う。

「……真伏まぶせ特別対策官の一件は、俺たちも耳を疑ったよ。『イマゴ』の一員として『クストス』襲撃に関わったことも、懲戒解雇になったことも」

 レアチーズケーキを前にした宇佐が「ええ。本当にね」と目を伏せ、高校生4人が無言でうなずいた。

 ふと店内の明るい雰囲気とは反対の重たい空気が、対策官たちを包み込む。

 石坂が慌てて「いや。暗い話題はやめよう。せっかくの機会なんだから、もっと楽しい話を……」と言った時、テーブルに人影が近付いた。

「お前ら。遅れてしもて、すまん」

 そう言って、空いた椅子を引いたのは、二頭の虎がプリントされたスカジャンを着た人物──高校生4人の指導担当である特別対策官の童子将也どうじしょうやで、石坂と宇佐がパッと居住まいを正す。

 二人は「童子特別対策官。お久しぶりです」とやや緊張した顔で挨拶をし、童子が「二人共。久しぶりやな」と笑顔で返した。

「童子さーん。俺ら、もうお昼を食べちゃってデザートタイムなんスけどー」

「少し遅れるとは言ってましたけど、けっこう遅かったですね。いや、決して責めているわけではないですが……」

「ワガママなのは百も承知ですが、一緒にランチしたかったです」

「童子さんだって非番なのに、いつも忙し過ぎる……と思います……」

 童子の姿を見た途端、塩田、鷹村、最上、雨瀬の口から文句が漏れる。

 童子が「すまん、すまん。普段できへん事務処理をまとめて片付けとったら、遅なってしもたんや。これでもかなり急いだ方やから、許してくれ」と苦笑しつつ謝ると、高校生たちが「はぁーい」と渋々返事をした。

 そのやりとりを見ていた石坂と宇佐が、クスリと笑う。

「相変わらず、「童子班」は仲がいいですね。俺たちも、今の指導担当とは良好な関係を築いていますが、そういうのとはまた違う何かを感じるような……」

「それはきっと、“絆”ね。羨ましいわ」

 石坂と宇佐の率直な感想に、高校生たちが「へへ」と照れ笑いをした。

 童子はホットコーヒーを注文し、7人は客でにぎわうファミリーレストランの一角で、とりとめのない話題に花を咲かせた。

 ゆったりとした和やかな時間が過ぎ、窓の外が淡いオレンジ色に染まる。

 帰り支度を整えた石坂が、テーブルの椅子を立つ間際に、しみじみとした様子で言った。

「……さっき、童子特別対策官が来る前に、真伏特別対策官の話をしていたんです。この間の事件で真伏特別対策官がインクルシオを去ったのは、仕方のないこととは言え、俺もけっこうショックで……。改めて、特別対策官のみなさんの存在が、インクルシオ全体の大きな“支柱”になっているんだと気付きました。……でも、だからこそ、俺も奮起しないと。童子特別対策官を始め、全国の拠点にいる10人の特別対策官のみなさんに一歩でも近付けるように、もっともっと頑張ります」

 石坂の言葉を聞き、童子が「そうか」と返し、高校生4人が「お互いに精進しよう!」と元気な声をあげた。

 ほどなくして、店を出た石坂と宇佐は、見送る「童子班」の面々に大きく手を振って、地元への帰途についた。


 翌日。午前9時。

 インクルシオ東京本部の最上階の会議室で、定例の幹部会議が開かれた。

 資料が置かれた楕円形の会議テーブルには、インクルシオ総長の阿諏訪征一郎あすわせいいちろう、本部長の那智明なちあきら、東班チーフの望月剛志もちづきつよし、北班チーフの芥澤丈一あくたざわじょういち、南班チーフの大貫武士おおぬきたけし、中央班チーフの津之江学つのえまなぶが着席している。

 先日の西班チーフの路木怜司ろきれいじの辞職を受けて、当面の間、同班のチーフは那智が兼任することになった。

 反人間組織に関する各班の捜査情報を共有した後、那智が通りのいい声で言った。

「次に、キルリストについて。大ボスの正体が不明とは言え、『イマゴ』は組織としては消滅した。従って、キルリストの組織最上位は、『キルクルス』とする」

「あー。まぁ、当然、そうなるでしょうね」

「あの鳴神がいる時点で、脅威度はダントツだからな。まったく、クソな話だが」

 黒のジャンパーを羽織った望月がうなずき、芥澤が顔をゆがめる。

 津之江が「『キルクルス』は人数こそは多くないものの、メンバーが粒揃いで厄介ですね」と言い、大貫が「そうだな」と同意した。

 阿諏訪が一つ咳払いをし、おもむろに重厚な声を発した。

「諸君。キルリストの組織最上位となった『キルクルス』のリーダーは、グラウカの“特異体”である乙黒阿鼻おとぐろあびだ。この乙黒の早急な身柄の確保、そして組織の壊滅に向けて、より一層の尽力をして欲しい。頼んだぞ」

 阿諏訪の指示に、チーフ4人が首肯する。

 那智が「それでは、会議を終了する」と告げ、幹部たちはガタンと音を立てて椅子を立ち、朝の会議室を後にした。




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