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強面さまの溺愛  作者: こんこん
一章
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招待状

だいぶ間が空いてしまい、申し訳ありません!

「……成程。強硬手段に出たという訳ですか」


ロゼが手紙を読んでから一時間と経たぬうちに、話は第一師団長であるレライの元へと届いた。普段から一部の隙も無いほどに身なりを整えている彼にしては珍しく、気だるげな様相で執務机に腰を下ろしていた。シャツの胸元をはだけさせ、瞳を隠すようにして垂れた艶やかな黒髪を鬱陶しそうに掻きあげる彼に、ロゼは思わず目を泳がせる。


色気を醸し出しながらも若干不機嫌さをにじませた彼にロゼが少し怯えていると、レライの傍に控えたフランチェスカがその原因をこっそりと教えてくれた。なんでも、昨日は夜通し聖殿の方で会議が行われ、その議題に関する書類を大至急で纏める必要があり一睡もすることができず。やっとのことで書類を二人で纏め上げ、少しでも仮眠をとろうとした矢先に、ゼルドから事情を聴いたリデナスの訪問によって叩き起こされた、という訳だった。

怯えた様子のロゼを和ませようと、目の下に隈のあるフランチェスカは茶目っ気たっぷりに話してくれたが、ロゼとしては寝不足の原因よりも別のことに気を取られていた。


―――上司と部下の間柄とはいえ、妙齢の男女が同じ部屋で寝てよいのでしょうか。


殊勝にもその考えを口に出すことはなかったが、二人の様子から見るにそれは日常茶飯事のようだ。薮をつついて蛇を出すようなことはすべきではないと、ロゼはこのことに関しては頭の中から追いやることにした。


そう、意識を向けるべきことは、他にある。

ロゼはレライの執務机に置かれた、自分宛の手紙に視線を向けた。今、この部屋の中にいる者の意識が全てこの手紙に集中しているのが分かる。二つ折りの跡に沿って折れた白い手紙には、女性らしさのある柔らかな筆跡で文字が綴られていた。


「もう一度確認しますが、この手紙はシュワルツェ、あなたの母君からのもので間違いありませんか」

「はい。筆跡から見ても間違いありませんし、封筒に刻まれていた印も、実家のものでした」


そう答えたロゼに、レライはより一層疲労感をにじませた様子で眉間を揉みこんだ。苦労性のリデナスが普段からしているのと同じその仕草は、レライが明晰な頭の中で今後しなければならないことの数々について考えているためのものだろう。

その様子を見たロゼの心中に、申し訳なさが顔を出す。だがそれを遥かに超える焦燥感、不安、そして家族を危険にさらす恐怖が沸き続け、臓腑の中でごった煮になるようにしてロゼを内から苦しめていた。



ロゼの母、セーナ=シュワルツェの手紙には、実家に先日届いたという、ある舞踏会への招待状のことが書かれていた。

その招待状には、ロゼの名前も書かれていた。ただの招待状であれば、ロゼがわざわざ出る必要はない。シュワルツェ商社と関係を築き、あわよくば商談を持ちかけようとする者からの社交場への誘いは、ロゼを含むシュワルツェ家にとっては稀な事ではなかった。

だが、今回の紹介状には、追記があった。



――――なお、ご息女であらせられるロゼ=シュワルツェ様の参加は必須とさせて頂きます。参加されない場合、今後貴社の営業状態が悪化する、又はご家族の身に危害が及ぶ等の事態が発生しても、この忠告をもって、こちら側には一切関係ないこととします。また、参加される際には同伴者はご家族様方のみとします。



ロゼはぎり、と歯を噛みしめた。俯いた顔の中心に、深く皺が寄るのが分かる。きっと自分は今醜い顔をしているだろう。


こんなの、ただの脅しだ。忠告と称して、厳重な警備を誇る神殿からロゼを引きずり出すための、家族を人質にとった卑怯な挑戦状。神殿という強大な組織に対して分が悪いことは相手も分かっていたのだろう。そこでロゼという()()()の弱みに付け込んで、見え透いた罠にはめようとしている。正面切って挑戦状のようなものを叩きつけてくるくらいだ、余程の勝算と余裕があるのだろう。なんとも不愉快で、嫌見たらしいやり方だ。


ロゼは手紙に書かれていた、母からの言葉を思い出す。母だけではなく父もロゼの身を心配していること、神殿からは出ずにそちらで保護してもらうようにと書かれた手紙には、母自身やシュワルツェ商社のことについては触れられていなかった。母も父も、予測不可能な現状に不安だろうに、第一に愛娘であるロゼを心配し、要らぬ負担を掛けまいとしてくれている。その気持ちが、娘に心配を掛けまいと気丈に振舞おうという心が、ロゼの胸を締め付け、ますます紹介状の送り主への憎悪に似た怒りを膨らませた。


もし、家族に危害が加えられるようなことがあったら。しかもそれが、自分が原因であるとしたら。

リリーの時の比ではないくらいに、ロゼは自分が許せなくなるだろう。


「ロゼ、舞踏会の主催者の名前に心当たりは」


ゼルドの問いかけに、ロゼははっと顔を上げ頭を巡らせた。


「い、いえ。これまでシュワルツェ商社への招待で、重要な催しや私が実家に帰省しているときに届いたものには参加していましたが……私が知る限りでは、この方とは深いつながりなどはなかったように思えます」

「……主催者のこの名前、確かどこかで……」

「――神力封じの首輪。あれの押収の時に、買取名簿にあった名前ですねぇ」


リデナスが呟いたのに対して反応したのは、イスに深く腰掛けたレライだ。

どうやら彼は、主催者の名前に諸段階から見当がついていたようだ。

彼の細く節くれだった指が、手紙に綴られた主催者の名――ドーキンス、という家名をなぞった。


「おそらく、組織の共謀者の一人でしょう。首輪を入手して組織に引き渡したのがこのドーキンスと言う男であれば、話の辻褄もあう。この男はローザリンド出身で、世界各地に拠点を有するシュワルツェ商社に引けを取らないほど、もしくはそれ以上の豪商だ。血筋の者や懇意にしている者、仕事上の関係者だけでも財政会の重鎮たちがわんさかといますよ。――あぁ、本当に頭の痛くなることだ」


どこか嫌悪をにじませるようにして呟いたレライに、いつの間にか準備していたのか、フランチェスカが湯気の立ち上るカップを差し出した。心を落ち着かせるような匂いのする、高級そうな紅茶だった。傍らから無言で差し出されたそれを、レライは音を立てずに優雅に飲み、ふうと息を吐いた。その様子を見たフランチェスカが、手紙に視線を落としながら口を開く。


「ということは、今回の舞踏会も参加者は限られた親しい者だけにしてくる可能性も高いですね。そうすれば、どんな問題がおころうとも後でもみ消すことができる」

「ええ。紹介状をシュワルツェ商社によこしたのも、よほどの勝算あっての事でしょう。家族以外の同伴不可、としているあたりこれは神殿への忠告でしょうねぇ。守りの厳重な神殿に入り込むよりも、シュワルツェを自らの縄張りに引きずりこんだ方がよっぽど誘拐の成功率は上がる。恐らく警備も厳重にして、神殿の手の者を一切入れないようにするでしょう」

「……いかが、いたしましょうか」


フランチェスカが、指示を仰ぐようにしてレライの顔を見る。流石のレライも、これに関してはすぐに答えを出すつもりはないようで、静かに考え込んでいる。




「一人、()()()として送り込めば良かろう」



今まで話を聞いていただけのロゼは、急に自分の背後からした声にぎょっと目を見開き、慌てて後ろを振り向いた。

そこには、腰の少し曲がった、老年の男性がいた。





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