樹海③
「うあ――――!!何だこれは!?」
最初に来たスポットへ着いた途端、誰もが凍り付き、絶句した。
初めはそれが、何なのか分からなかった。突如として森に現れた、得体の知れない変幻自在な謎の生物に見えた。しかし、目を凝らしてよく見てみると、それは何百、何千という蛇の集団だった。様々なバリエーションに富んだ彼等は、お互いに絡み合い、まるで一つの生物であるかのような様相を見せていた。
「苛めちゃ駄目よ、毒を持っているからね。こっちが何もしなければ何もされないわ。」
蒼月は淡々と言い、彼女だけが冷静な眼差しでその塊を凝視していた。
「ちょっと聞いてくる。私は絶対に大丈夫だから、何があっても騒がないでね。」
蒼月はそう言い残すと、蛇のいる藪の中へと踏み出して行った。その途端、蛇もするすると蒼月を取り囲み、一匹、また一匹と彼女の身体を這い登ってゆく。蛇は完全に彼女を覆い、蒼月の姿は全く見えなくなってしまった。やがて、小山のようになった蛇の塊は突然解け、あっという間に地へと消えた。蒼月だけが一人立ち尽くし、自分を抱きしめるような格好で小刻みに震えていた。
「大丈夫か、蒼月!!」
瑞月が蒼月に駆け寄った。
「……あ、あたし、どうしよう…………。」
蒼月は震えたまま瑞月にしがみつく。
「いるみたいなの……。」
「しっかりしろ、蒼月!何がいるんだ!」
「黄の箱を知っている子が、いるみたいなの……。」
誰もがはっと息を呑んだ。
「そうか…………。」
瑞月は溜息交じりに呟き、少し笑った。
「ああ……やっとキュアに会いに行けるな。皆に来て貰って、探し続けて良かったな。蒼月、俺達はどうしたらいい?そこは、ここから離れてるのか?」
「道は、蛇さんが教えてくれるわ。」
蒼月は地面を指差した。そこには小さな川の流れがあった。しかしそれは川などではなく、大小様々な蛇が、少しずつ体を重ねながら横たわる姿だった。彼等は南東へと延々に連なり、黄の箱へ続く道標を指示していた。瑞月は遠い目をして、その流れを見つめた。
「あの先に、黄の箱があるんだな……。よし、行こう!」
「ちょっと待って!」
「何?」
「恐らくこの先に、黄の箱はある。でも、ここから随分離れているみたいなの。道なき道を行く訳だし、今日中に辿り着けるか分からない。」
「折角ここまで来たんだ。行ける所まで行ってみようよ。」
「皆はそれで大丈夫?」
逸る瑞月を押さえて、蒼月はメンバーを振り返った。
「やっと手掛かりを得られたんだもの。私だって、この先に何があるのか知りたい。」
「僕もだ。蒼月、行こう。」
翼と遥眞も、蒼月に真直ぐな視線を向けて頷く。
「ありがとう。私が先頭を行くわ。もし狼とか虎に出くわしても、急に襲われることは無いだろうから。」
蒼月は蛇の道へと足を踏み出した。
「ちょっと待って、蒼月!」
「何?」
今度はオールジーが彼女を呼び止めた。
「あの……今まで出し惜しみをして来た訳じゃないのだけど、もっと楽に移動出来る方法があるのよ。」
「え……?きゃ――!!」
オールジーがそう言った途端、蒼月の身体はふわりと宙に浮いた。
「今迄はより多くの動物に出会うことが目的だったから、敢えて提案しなかったの。でも移動するだけならこの方が安全に、早く行けるわ。私が先頭を行く。この蛇の跡を辿れば良いのね?」
「ええ。……凄いわ、オールジー!」
「蒼月は私の後ろに付いて。皆、一列になって移動するのよ。なるべく障害物は避けて行くから。皆が慣れてきたら徐々にスピードを上げていくわ。」
そう言うと、彼女自身もすっと宙に浮き、蛇の道の上を滑るように進み始めた。他の者も一列になって、初めての立位浮遊と格闘しながら、彼女の力に運ばれて行った。




