樹海②
一日目は、徒労に終わった。正午を過ぎた辺りで、良平が前もってインプットしておいた二番目の場所から散策してみたのだが、成果は無かった。日没と共に瑞月の家に移動し、蒼月が用意しておいたお好み焼きのタネを皆で焼いて食べ、早々に雑魚寝をして眠った。
二日目も、金の小箱の発見に繋がるような朗報は、何も得られなかった。日の出とともに三番目のスポットからスタートし、その後は今迄に見て来た幾つかの枝分かれした小道を進んでみたのだが、黄の箱を見た動物は皆無だった。
――これは、本当に何十年か掛かる作業になるかもしれない……。
誰もが心の中で、そう思い始めていた。簡単ではないが、何とかなるのではと期待していた自分を、認めざるを得なかった。今迄、何とかそれを可能にして来たのは、自分では無い。……指輪だ。今それが無いことに、否、それが無いことを知った上で、何とかなると楽観視していた己にそれぞれが溜息を付いた。
「明日、どうしようか。」
瑞月の家の近くのファミレスで、ハンバーグの付け合わせのコーンをぶつぶつとフォークで刺しながら、良平は尋ねた。
「そうだなあ…………。」
誰彼と無しに、食事を口に運びながらそっと呟く。自分達の想像以上に樹海は深く、ほんの片足を踏み入れただけに過ぎないと、誰もが実感していた。それにも増して、二日間歩き続けた疲労が彼等を襲い、思考回路を麻痺させていた。
「皆もそろそろ考えていたと思うけど、道から外れて森の方へ踏み出してみる?」
翼が提案した。彼女の前には、海鮮丼と焼魚定食と二種のサラダが並べられてあったが、彼女は一定の速度でそれらを口に運びながら、他のメンバーを見渡した。
「ううん。」
蒼月は首を振った。
「あなたは明日の夕刻、出立しなければならないのだもの。無理をしてはいけないわ。」
「そんなこと……!」
「違うの!自分が甘かったなってつくづく思うのよ。もう少し下準備をして、疑いのある場所を特定出来てから、あなた達を呼んでも良いのかなって思ったの。」
「うん。俺もそう思ってた。俺等は学生だし、長い休みは今後もまだあるから。委員長の協力が必須だけど。」
「勿論だよ。何なら夏休みの間中、毎日通い続けても構わない。そうだな……蒼月、取り敢えず明日はどうしたい?」
そうねえ……と蒼月は考え込んだ。
「もう一度、最初の場所から探してみたいのだけど。何か情報を掴んだ仲間がいるかもしれない。新しい場所を散策するより、今迄歩いて来た道程をもう一度通ってみたいわ。」
「分かった、皆もそれでいいよね?」
「ええ、そうよね。聞くだけ聞いておいて、そのまま移動しちゃっただもんね。」
「僕も。これといった良いアイデアが思い浮かばない。」
「まだ一日あるものね。あの深い森を歩いていると、ひょっこり黄の箱が落ちてるんじゃないかと、錯覚することがあるの。諦めないで頑張りましょう。」
「うん。明日も沢山歩くことになると思うけど、皆よろしくね。」
その夜も、食事が終わると瑞月の家に移動し、瞬く間に深い眠りに落ちた。夢を見る者は、誰もいなかった。




