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蒼き船上のワルツ 〜後編2〜

 



 ……!!あれはマリア……?!



 マリアがブリッジの上に登って今にも飛び降りそうになっている。

 デッキにいる人々はそれを見て騒然としていた。


 マリア……。一般人の彼女は宰相の娘である私を殺害しようとした罪で死罪になるはずだった。

 私はそれに対して王太子に直接恩赦を求めて、マリアは減刑され無期懲役になった。その後は彼女の光魔法を軍が活用するとかで、戦争にも参加していたと聞いたけれど、この船に乗っていたとは…。


 ブリッジの下に警備の騎士が二人いる。

 私は船の中から回って操舵室まで上がって行った。


 出入り口の扉が開いていて、船の乗組員達が数名慌てている。

 乗組員に気づかれないようにそっと操舵室に入り窓を開けて、外にいる騎士二人がいる場所までたどり着いた。

 マティーニを飲んだし、気分はまるで秘密情報部の諜報員だ。


「…あなたは?!」

「私はフローラ・イーグスと申します。上にいるマリアさんの知人なんですが、彼女は一体どうしたんですか?」

「……!!イーグス宰相のお嬢様ですね!…それが、今回の渡航の件で、緊急時の為に治癒魔法役として客室に待機させていたんですが、警備の隙をついて逃げられてしまって…。私達が近づくと彼女は飛び降りると…」


 ここから海面までは結構な高さがある。しかも今は夜だ。この暗闇の中で飛び降りたら怪我だけじゃ済まないのに…。


 マリアの視界から隠れていた私は意を決して飛び出して彼女に話しかけた。


「マリア!!飛び降りるなんてバカな真似はしないで!!」

「……!!あんた…何しに来たのよ!私がどうなろうとあんたに関係ないでしょ?!」

「関係無いけど、目の前で飛び降りるのを見るなんて胸糞悪いのよ!!」


 今世で初めて糞だなんて言葉を使った。


「あんたバカなの?!じゃあ見なければいいでしょ!私は偽善者のバカになんてもう二度と助けられたくないのよ!マッティア様に会えない人生なんて生きてても意味が無いんだから!」


 私が王太子にマリアの恩赦を懇願した話は、本人にまで伝わったのかな…。

 そしてマッティアを今も想っているだなんて…。


「私が飛び降りてあんたが胸糞悪くなるなら…飛び込んでやる…!マッティア様……今貴方の元へ行きます……!!」

「え……!?」


 私が出たのは逆効果だったか……!!


 マリアが落下防止の魔法を片手で解除して、海上五十メートルの高さから飛び込んだ。

 私は慌てふためいている騎士が持っていた救命浮き輪を手に取り、マリアの後を追って飛び込む。


 一応私だって魔法が使えるんだ!学園で習った風魔法と水魔法を併用してどうにか…!!


 フローラは目の前で無防備に落ちているマリアと自分を水で覆い、下から上に向けて魔力のある限り風を吹かせた。


 ……これで何とかなって!!お願い……!!

 ………


「ちゃぽん、ちゃぽん!」



 フローラの魔力を最大限に使い二人は緩やかに海へと着水した。

 マリアは気絶しているのか、そのまま海流に飲まれてしまい海の中へと沈んで行く。

 私は浮き輪を離し海中を潜って、なんとかマリアを捕まえた。


 寒い……!!どうにか上へ……!!


 全力で上を目指しても海流に飲まれ、水を吸った重いドレスを纏い、更にドレスを着たマリアを連れて浮き上がる事は不可能だった。


 魔力も残っていない……!!

 私もしかして、死ぬ……?!


 リアムとあんな形で最期になるの?リアムに愛してると伝える前に死ぬなんて……!


 マリアの言う通りね。私は偽善者の大バカ者だわ……。


 マリアを掴んだまま海の底へと引きずられていく。


 最後の息を海に吐き出しそうになった時、マリアの声が聞こえた気がした。


「本当あんたってバカね…」


 その瞬間二人は光に包まれる。


 マリアが魔法で明かりを灯したのか…

 でも息がもう……!ダメ……と思った瞬間に、グイッと腰を掴まれて上に力強く浮上する感覚だけが分かった。誰かが私とマリアを抱えながら必死に引き上げてくれている。

 薄い意識の中、顔も見えないのにそのたくましい腕の感触だけでリアムだと直感した。


「「ゴホッ…ゴホッ!!」」


 マリアと私は救命浮き輪に捕まり思いっきり海水を吐いた。呼吸が落ち着いて、未だに私の腰に手を回してくれている人に目線を動かした。

 やっぱりリアムだった。


「死ぬかと思った…」


 目が合った途端、青い顔をしたリアムが言葉を漏らした。

 リアムの腕が私の腰をさらにギュッと掴んだ。


「アンが落ちて行ったのを見て、俺も後を追って直ぐに飛び込んだけど暗くて見つからなくて…初めて恐怖で死ぬかと思った……でも明かりが見えて……じゃなかったら……アンは…今頃……ッ」


 リアムの声も腕も震えている。気が動転しているのか、最後の方は辛そうで上手く言葉に出来ないみたいだった。


 ごめんなさい……リアム。心配させて嫌な思いをさせて、いっぱいいっぱい謝らなきゃいけない。助けてくれてありがとうって感謝も伝えたい。

 けれど、ずっとリアムに一番言いたかった言葉が最初に出てきた。


「大好き…リアムの事…世界で一番愛している…」

「え……?」


「リアムが大好き…死ぬほど愛しているわ」

「………ふぇ?!」


「ずっとずっと言いたかったの…。死ぬ前にリアムに愛してるって言いたくて…大好き大好き大好き」

「……どどど、どうした!???」


 私はリアムに思いっきりギューっと抱きついた安心感と共にそのまま酔いが回って寝てしまった……。


「あれ、……ア、アン?!!」



 その後、全員無事救助されて、リアムと三年間なかなか会えなかった分、お互い色んな話をした。


 話を聞いていたら、リアムは戦争で敵の命をたくさん奪った事で、心に大きな傷を負ったみたいだった。私は病気に詳しくないから正確には分からないけど、リアムは軽い強迫性障害なのかな?と思う。

 手を洗いすぎて擦り傷ができるけど、自分の治癒魔法でそれは治していたみたいだった。

 私に近づくと、汚してしまうという恐怖感があるみたいだけど、今まで無理して近づいてくれてたみたいだし。

 それは少しずつ歩み寄って、二人で治していこうねって話合った。

 リアムは私に打ち明けた事で、今までよりも表情が少し和らいで幼くなったように見える。


 その日は二人で小指を繋いで寝た。

「触られて嫌じゃない?」っていっぱい聞かれたけど、「私はリアムの手が大好きだよ」っていっぱい言いながらそのまま先に寝てしまった。

 途中で起きた時に、あまりにも無防備なリアムの寝顔が可愛かったから、キスしちゃったのはしばらく秘密にしておこう。



 ―――次の日の朝。


 二人で朝食を食べ終えた後に、アルファルドがデッキの広場を貴族以外の一般客にも開放して、ちょっとしたダンスパーティーをやるから来ないか?と誘われた。


 リアムに聞いたら行こうって言ってくれたから、一緒に参加してみた。


 今回のオーケストラはアルファルドのオースティン公爵家お抱えの楽団らしく、アルファルドもバイオリンを持って一緒に演奏していた。


 昨日とは打って変わり空は快晴で、春のポカポカ陽気に恵まれた。

 空にはカモメが気持ちよさそうに飛んでいる。

 地平線まで続く蒼い海が開放的な気分にしてくれた。

 たまに吹き抜ける潮風が踊っている人々の髪をなびかせて躍動感が更に増していく。

 貴族も一般客も関係なしに集まって、小洒落たパーティーのダンスと言うよりは、自由に飲んで歌って音楽に乗って、ただただ楽しく踊っていた。


「アン、一緒に踊ろう」

「フフッ、いいわよ!今日は昨日と違った踊りを見せてあげるわ!ついて来られるかしら?」

「ハハッ、負けるか!受けて立つ!」


 リアムが私に触れる時、少し大丈夫かなと心配になったけど、彼の笑顔が太陽の下で輝いていた。

 それは私が昔から知っているリアムの笑顔だった。


 昨日の優雅なダンスも良かったけれど、私はダンスの決まりに縛られず自由に踊る今日の方がとっても楽しかった。

 知らない人ともゴチャ混ぜになって踊る。私がダンディーなおじ様と踊っていたらリアムが嫉妬してきて、私もリアムがナイスバディな女の人と踊ったら嫉妬して。それにお互い吹き出して笑い合う。


 これからも色んな事が起こって、色んなリアムが見られると思うと楽しくてしょうがない。


 気持ち良く演奏しているアルファルドと目が合い微笑み合った。

 バルトフェルド総長がお酒を飲みながらマイヤーズ団長と肩を組んで揺れている。

 揺さぶられながらマイヤーズ団長は嫌そうな顔をしているけれど、アルファルドの演奏を聴けてきっと楽しんでいると思う。


 その横をマリアが騎士団の警備の人に連れられて移動しているのが見えた。


「マリア!」

「…何よ?あんたと違って忙しいんだから止めないでよね」


 ほんと可愛くないけど、これだけは教えてあげなくちゃと思い呼び止めた。


「マッティア様は生きてるわよ」

「え……?」

「今は隣国の駐屯地で勤務しているの」

「…………そう、なんだ……」


 やっぱり、マリアはマッティアが亡くなったと思い込んでいた。微かだけど嬉しそうな表情をしている。


「フフッ」

「な、何よ。……お礼なんて言わないわよ」

「そんなのいらないわよ。じゃあね!」

「………」


 マリア本人には知らされていないが、今回の戦争で彼女はかなり活躍したみたいで、特別に刑期が短くなるみたいだ。

 私は、マリアが一途にマッティアの事を想う気持ちに驚いて、少し応援したくなってしまった。偽善者のおバカさんがお節介焼いちゃいましたよ。


「アン!」


 あ、またリアムのほっぺが膨れてる。

 私がいなくなったから探してくれたのかな。

 どさくさに紛れて膨れたほっぺにチューしたらどうなるんだろう…。


「フフッ、リアム!!」




 “蒼き船上のワルツ”


 この時のダンスパーティーでアルファルドが感化されて作曲した曲の名前である。

 後に世界中で大ヒットする事になり、それは時を超えても人々に愛され奏でられる曲となったのだ。





最後までお読みいただきありがとうございます!!

話を書いていて自分の詰めの甘さに反省中です。


おまけの話をあといくつかサラッと書いて終わりにしたいと思います。まだ続くのかよって話ですが…笑


ここまでブックマークや評価をつけてくれた皆様、本当に励みになりました。ありがとうございます!

感想や意見を書いていただいた皆様、とても勉強になりました。番外編をかけたのも皆様のおかげです。ありがとうございます!

誤字脱字報告をしてくれた皆様、こちらも本当に勉強になりましたし、助かりました。

ありがとうございます!

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