〈64〉
少女の肩からは、ポタポタと見慣れた血が流れ落ちていた。
歳は12歳くらいだろうか?
髪は淡いピンク色、動きやすそうな服装の割に、足元は素肌のままだった。
髪の色も、瞳の色も、日本人のそれじゃない。
そんな中でもひときわ目を引くのが、彼女の耳元だろう。
羊のようなクルリと曲がった角が、頭の両脇に付いているように見える。
「ひぅっ!!」
榎並さんの握る銃口が、いつの間にか角の少女に向けられていた。
慌てて体を割り込ませて、盾の正面を榎並さんの方に向ける。
そのうえで、体だけは少女の方へと向けた。
視線の高さを合わせて微笑んでみる。
「ビックリさせてごめんね。あれでも優しいお姉さんだから」
「……あれでも、ってどういう意味かしら?」
なぜか不満げな榎並さんを後目に、少女の髪に手を伸ばして見せた。
「竜治さん!!」
「大丈夫。可愛い少女じゃないか」
抵抗らしいものは見せずに、ギュッと目を閉じて俺の手を受け入れてくれる。
さり気なく角に触れてみたが、見間違いなどではないらしい。
無防備に近付いて見たが、攻撃されるような事もない。
「肩の治療をするよ。“力”を流すけど、大丈夫かな?」
「……は、はい、です!」
怯えた表情のまま、彼女がコクンとうなづいてくれる。
敵では無さそうだな。
「俺は竜治って名前なんだけど。キミはなんて呼べば良いのかな?」
「えっと、えっと……、ご主人様にはネネって呼ばれてますです」
「そっか、じゃぁ、ネネちゃんて呼ばせてもらうよ」
「はいです……」
不安げに見上げるネネの肩に手を当てて、“力”を流していく。
それにしても、ご主人様と来たか……。
番号とかじゃないだけマシだろうけど、イヤな予想が頭の中に浮かんでくる。
「ネネのご主人様は、どんな人なのかな?」
「優しくて綺麗な方ですよ。お姉ちゃんって呼ぶと一緒に寝てくれるのです」
「不思議な事をされたりはしないのかな?」
「不思議なこと、ですか? 無いですよ? お姉ちゃんは優しいのです」
「そうなんだ」
ご主人様の話をするネネは、ほんの少しだけ俺たちに対する怯えが減ったように見える。
こんな場所に居て角まであるのだから、一般人だとはとうてい思えないが、嘘を言っているとも思えない。
……人体実験の被験者が逃げてきたのかと思ったが、違うのか?
(どう思う?)
(……わからないわね。私たちの時は、大人と話す機会なんて無かったわ。角を付けられることも、ご主人様なんて存在もね)
(そうか……)
ネネにバレないように耳にあるマイクで問いかけて見たが、どうにも何かがずれている気がする。
「榎並さんでもわからないなら、宇堂先生にでも聞いてみるか……」
はぁ……、とため息混じりにつぶやいた俺の言葉を、
「エナミ……? エナミって、エナミ キョウコですか……?」
大きな瞳が見上げていた。




