〈63〉
薄暗い廊下をゆっくりと進んでいく。
先ほどまで聞こえていた悲鳴や足音が、今はもう聞こえない。
おおよその方向はわかるが、声の主はもう……、なんて思いが頭をよぎる。
「集中しなさい。背後から私に撃ち殺されたいのかしら?」
「……いや、そんなことはないよ」
「そう、それなら良いわ」
まるで俺の心でも読んだかのように、榎並さんが叱咤の声を飛ばしてくれた。
2人は俺の背後にピッタリと寄り添い、周囲の警戒に勤めて居てくれる。
出来るだけ音を立てずに、一歩ずつ前に進んでいく。
(竜治さん……!)
(っ!!)
不意に結花が指さした先に見えたのは、床に点在する血の跡。
真新しい血が、廊下の先へと続いていた。
互いに顔を見合わせてうなずきあう。
あのとき聞いた音の原因を物語るかのように、砕けたガラスの破片が散らばっている。
そんなガラスたちの向こうに見えたのは、がらんとした部屋と、端に寄せられた大きな岩。
なんとも不自然なその光景に疑問を抱きながら、俺たちはゆっくりと部屋の中に足を踏み入れた。
化物らしき生物の姿は無い。
その代わりとでも言うかのように、化物を倒したあとに残るビー玉が、部屋の中央に転がっている。
「誰か、いるのか?」
巨大な岩に盾を向けてジリジリと近付いていく。
床には焼け焦げたような跡があって、廊下から続いていた血が、岩の向こうに続いていた。
「手を挙げて出てきてくれるか?」
そう問いかけても、反応はなかった。
だけど、何者かの荒い息遣いが聞こえてくる。
結香が魔法の準備を始め、榎並さんが岩の中央に銃弾を撃ち込んだ。
「ひぅ……!!」
聞こえてきたのは、少女のような高い小さな悲鳴。
演技の可能性もあるが、岩の向こうにいる何者かは、俺たちに怯えているらしい。
ただまぁ、突然の発砲には驚くよな。
仲間であるはずの俺もビックリしたしさ。
「大丈夫。敵じゃないよ。出てきてくれたら悪いようにはしないと約束する」
「…………」
怪我のせいで動けない可能性もあるが、少なくとも声は出るのだろう。
そうこうしている間に、結花の準備が整った。
榎並さんに目配せをして、逆側に回ってもらう。
「こっちから行くけど、攻撃しないでくれると嬉しいよ」
もし何かあれば、岩ごと結花が吹き飛ばしてしまう。
岩の向こうにいる者も、結花も、そんな結果は望まないだろう。
ゆっくりと、怯えさせないように近付いていく。
心臓は早くて、盾を握る手に自然と力が入る。
ーーそんな時、
「痛くしないです。抵抗しないです……」
血の流れる肩を押さえた少女が、岩の影から姿を見せた。




