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58/73

〈59〉

「俺1人で良いなら……。行きますよ」


 そう小さく答えた俺の言葉に、柳は静かにうなずいた。



 居心地の悪い校長室から逃げ出して、ベッドに寝転びながら天井を見上げる。

 時刻はすでに夜の12時を過ぎていた。


 柳は俺に何をさせたいのか?


 ずっと視線をうつむかせていた橘さんは、何を心配しているのか?


 どうにも情報が不足し過ぎているように思う。


 だけど、このまま依頼をキャンセルするのも据わりが悪い。


「榎並さんや宇堂先生なら何か……」


 そう思ったが、彼女たちを巻き込むのも気が引けた。


 柳の前で名前を出しただけで、榎並さんは暗殺されかけている。


 立場を考えると、宇堂先生も危険だろう。


「……俺1人なら何とかなるか」


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 いいなりになると言うよりは、スパイのような気持ちで受けても良いのかも知れない。


 そう結論付けて、もう一度、ふぅ、と息を吐く。


 柳から聞かされた集合場所は、学校の正門前。

 時刻は夜中の1時。


 そろそろ出ようか。


「結花……?」


 そう思ってドアを開けた向こうに、なぜか部屋で寝ているはずの結花が立っていた。


 スーツとサングラスが入った鞄に目を向けて、彼女が俺の瞳を見上げてくる。


「どこに、行くんですか?」


「……コンビニだね。お菓子でも買ってこようかと」


「うそ、ですよね?」


「…………」


「これでも竜治さんと一緒に生活してるんですよ? それに、私を気遣う嘘はお母さんで慣れてますから」


 悲しげに微笑んで、彼女がもう一度、俺の仕事道具が入った鞄に目を向けた。


 絶対に逃がしません! とばかりに、彼女が両手で鞄を握りしめる。


「私も付いて行きます。足手まといなら銃で撃ってください。ただ待つだけは絶対に嫌です!!」


 瞳いっぱいに涙を貯めて、彼女が睨むような強い視線で見上げてくる。


「付いて行くって、どこに行くのか――」


「詳しくは知りません。でも、危険な場所ですよね?」


「…………」


「知ってました? 女の勘って鋭いんです。それに私は竜治さんのペアですよ?」


 ふふっ、と笑った彼女が、俺の腕を抱きかかえた。


 瞳に浮かぶ意思はどこまでも堅くて、死んでも付いて行くと言いたげな表情を浮かべていた。


 こうなると、彼女はテコでも動かない。

 結花の言葉じゃないが、一緒に生活しているからこそ、よく分かる。


「……わかったよ。手伝ってもらえるかな?」


「はい!!」


 根負けした俺の言葉に、彼女は素敵な笑みを浮かべてくれた。




「あら、ようやく来たのね」


「オッサン、ちょっとだけ遅刻だぜ?」


「…………」


 玄関を開いた先に見えたのは、榎並さんと、かつて同じ部屋だった将吾の姿。


 チラリと結花を流し見ても、彼女は静かに首を横に振るだけだった。


「俺も榎並さんも理事長からメールをもらってな。クラスメイトとして助けてやれってさ」


「あら、違うわよ。私は宇堂先生からもメールが届いたから、私の方が立場は上よ?」


「あー……、うん、ソーデスネ」


 はぁ、と肩をすくめて、将吾が笑ってみせる。


「一応言っとくけど、俺って理事長の孫だからな? 宇堂先生とかの事情も知ってるし、味方だぜ?」


「あら、私の方が頼もしい味方よ?」


「ソーデスネ」


 相性が良いのか、悪いのか。


「まぁ、なんだ。俺も連れてけよ、親友」


「借りは返す主義なの。あなたを殺してでも付いて行くわ」


 自信に満ちた笑みを浮かべる2人を見ていると、どうにも心強くて、知らないうちにため息が漏れていた。

 

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