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57/73

〈58〉

 ニヤリとした嫌らしい笑みで肩を小さくふるわせた柳が、秘書らしき女性に視線だけで指示を出す。


「ん……?」


 程なくして、俺の手元に1通のメールが浮かび上がった。


――――――――――――――


クエスト依頼


特殊部隊の補助、及び助攻を要請する。


詳細は現地で聞く物とする。


――――――――――――――



「キミには防衛省から正式な依頼を受けてもらうよ。動画の撮影は無いが、おおよそは同じような物だ」


 そんな言葉と共に、柳が優雅な手付きでコーヒーに口を付ける。


 ホッと息を吐き出して小さく目を閉じた彼の姿に、苛立ちを覚えて仕方が無い。


 どこまでも一方的で、自分が優位だと疑わない、そんな動き。


「俺に拒否権は?」


「むろん有るさ。だが、断っても良いのかね?」


 ニヤリと唇を吊り上げた柳が、懐から何やら小さな小瓶を取り出した。


 透明な瓶の中に、淡い光を放つ液体が揺れている。


「それは?」


「成功報酬だよ。まぁなんだ。キミにわかりやすく言うなら、回復薬(ポーション)と言ったところか」


 含みのある笑みを浮かべて、柳が小瓶を机の上にコトリと並べた。


 そしてなぜか、口元をゆがめて、わざとらしく小首をかしげて見せる。


「おっと、今朝の会議で別の名前に決まった事をすっかり忘れていたよ。『魔女の秘薬』そう呼んでくれるかな?」


 もう一度肩を震わせて、柳がコーヒーカップに手を伸ばす。


「それでだが、キミのペア、名前は何だったかな?」


「…………」


 小さくコーヒーに口をつけながらも、その瞳は俺の様子を見続けていた。


 いやー、歳のせいか物忘れが酷くてな、などと柳がのたまう。


「どんな病気でも治してしまうそうだ。どうだね? 欲しくは無いかな?」


「…………」


「気に入らないのなら『魔法少女の秘薬』に名前をかえるかね?」


 思わず拳を叩きつけたくなる柳の顔の向こうに、結花の優しい微笑みが見えた気がした。


 昨日の動画を見て貰って、手にした給料を置いてくると、彼女は嬉しそうに笑っていた。


 妹たちに美味しいステーキをご馳走してきますね。

 弾む声でそう言い残して、結花は電車に乗り込んだ。


「ここだけの話しだが、現代医学じゃ治せない病気も治るらしいね」


 心底楽しいとばかりに、柳がニヤリと笑っている。


「そう、ですか……」


 中身の無い言葉が、俺の口から漏れていた。


 結花に母の容態は訪ねていない。


 ゆえに何も知らないが、聞けばすぐにバレる嘘など無意味だろう。


 魔女の秘薬、魔女に成りたいと願った少女、現代医学じゃ治せない病気。


 ふー……、と大きく息を吐いた柳が、ゆっくりとした動きで、眉間のシワを指先でもみほぐす。


「それで? 間に合うのかね?」


「え……?」


 聞こえて来た言葉に、思わず声が漏れた。


「私との賭を忘れた訳ではあるまい? 期限は近いが、間に合うのかね?」


「…………」


 約束の学期末テストまで残り1ヶ月。


 昨日の評判は良かったとはいえ、俺のケガのせいでかなり出遅れている。


「キミの答えを聞こうか」


 意地の悪く口元を吊り上げた柳が、小瓶の蓋をコンコンと叩いていた。


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