〈57〉
『ニューヒロインは魔法少女!!』
『【祝】スーグラさん復帰!』
深夜の動画撮影から一夜あけたお昼過ぎ。
防衛省の柳に呼び出された俺は、あの日と同じように、キラキラと輝く豪華なシャンデリアに照らされていた。
高級ソファーに身を沈めた柳が、手元の資料を片手に、小さく視線をあげる。
「最下位から9位に上昇か……。ひとまずはおめでとうと言っておこう」
「ありがとうございます。すべて柳さんのおかげですね」
嫌みだとしか思えないほめ言葉に、こちらも口元を吊り上げて笑って見せた。
「ふん。肩を撃たれたと言うのに、相変わらずのようだな」
「はて? 撃たれたというのは?」
わざとらしくとぼけてみる。
特別隠している訳でもないが、誰それ構わず言って回った訳でもってない。
転んで怪我をしただけですが、なにか? そんな顔で柳の瞳を見返してやった。
少しだけイラッとしたのか、柳が目尻を小さく吊り上げる。
そして小さく息を吐いた。
「……まぁいい。本題に入ろう」
手元の資料をテーブルに滑らせて、背もたれに体を沈ませる。
指先を組み直し、俺の顔を睨むような目付きで見上げていた。
「快気祝いだ。受け取れ」
小さく肩を震わせた柳が、そばに控えていた秘書らしき女性に視線を向ける。
「失礼します。こちらをお受け取りください」
足音も無く近付い来た女性が、鞄の中から1枚のカードを差し出した。
表面に描かれているのは、防衛省のマークだろうか?
柳の名刺にも描かれていた、地球を両手で包み込むようなイラストが大きく描かれている。
「どうぞ」
「…………」
なんとも嫌な気配しか感じ無いが、差し出している彼女に罪は無い。
このまま意地を張り続けても、意味はないとも思う。
「どうも……」
小さく会釈をして受け取ると、彼女はそのまま壁際へと下がっていった。
素材はプラスチックだろうか?
クレジットカードを五枚ほど束ねたような厚みがあって、なんともガッチリとした造りに成っている。
「次のステージに行けるパスポートだ。無くさないように」
コーヒーで喉を潤した柳がそんな言葉を口にする。
次、次と言うのは??
「おや? その反応は未だに聞かされて居ないのか」
柳の唇が少しだけ吊り上がって見えた。
「訓練の次は、本番。小学生でもわかる話だな。キミを本当の戦いに招待しよう」
「…………」
手の中のカードを握りながら、柳の瞳を見つめ返す。
相変わらず会社員時代の上司を思い起こさせる嫌いな色が、柳の瞳に浮かんで見えた。
視界の端に写る橘さんが、申し訳なさそうに視線を小さくうつむかせている。
『命をかけてもらう』
そう言葉にしたあの時と同じような、どことなく寂しそうな雰囲気が滲み出ていた。
本当の戦い、ねぇ……。
「これまでと何が変わりますか?」
「そう大きくは変わらないさ。命を落とす可能性、それが増えるだけだな」
「なるほど」
暗殺の話しを持ち出した直後に、命をかける仕事の話し……。
はじめて会った時にも思ったが、やはりこの男とは仲良くなれないようだ。