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<31>パートナーを決めた日2

 窓枠に寄りかかり、仰向けに空を見上げた将吾が、ふぅー……、と大きく吐く。


「お小遣いくれるし。毎日ワクワクするから良いけどよ」


「確かにな」


 理解出来ずに戸惑う事も多いが、社会人時代には感じなかった熱さが胸の中にある。


 日を追うごとに、前の職場には戻りたくない、という思いが強くなっていた。



 そうして将吾と雑談を続けていると、ガラリとドアが開く。


 宇堂先生が姿を見せて、チャイムの音が聞こえてきた。


「全員そろっているな?」


 床に座る俺たちを見据えて、先生が手元の出席簿に視線を落とす。


 胸のポケットにささっていたボールペンで何かを書き込むと、出席簿をパタリと閉じてメガネを押し上げた。


「今日はペア決めをしてもらう。自分の背中を預けられると思うヤツを選べ」


 背中を預けるペアを決める?


「つまりは、生徒同士で2人で組を作れ、ってことですか?」


「そうだ。ペアは希望に応じて入れ替えることも出来るが、何もなければ退職の日まで2人で行動してもらう」


「…………わかりました」


 どうやら予測以上に重要な決めごとのようだ。


 当該生物の討伐動画を撮影する際には、ペアごとに獲物を決める。


 複数ペアが同時に動員される場合でも、ペアごとに動く。

 そんな取り決めらしい。


「各自が好きに話し合って良い。決まった者から報告――榎並、質問か?」


「いえ、私はひとりでやります」


 弾かれるように背後を見ると、初日に銃を握りしめていた榎並さんが、掃除用具の前にたたずんでいた。


「ほぉ? 当該生物を探して24時間見張ることもあるのだが。寝ずの番もひとりでする、そういうことか?」


「えぇ、足手まといは不要なので」


 髪をさらりと流しながして、彼女はまっすぐに宇堂先生だけを見詰めていた。


 何かを探るような宇堂先生の視線が、榎並さんに突き刺さる。


 少しの沈黙の後に、宇堂先生が少しだけ視線を下げた。


「……わかった。ひとりで登録しておこう。こちらに来てくれ」


「わかりました」


 道を空けるクラスメイトたちを押しのけて、ためらいもなく宇堂先生に歩み寄る。


「使い方はわかるな?」


「えぇ、あとは好きにやるわ」


 腕時計らしき物を受け取って、彼女は教室を出て行った。


 なんとも言えない静けさが教室におりてくる。


 廊下を歩く彼女の足音が遠ざかっていく。


「足でまとい……」


「うん、でも、そうかもね」


 少女たちを中心に、ちいさなため息が聞こえていた。



 今日までの1ヶ月で俺たちはそれなりに強くなった。


 毎日走って、"力”を扱えるようになり、常人よりも強くなった。


 だが、誰ひとりとして榎並さんには勝てていない。


 次元が違う。


 そう言いたくなるほど、彼女の身体能力は優れていた。


「私たちじゃ、足でまとい、だもんね」


「うん……。今は(・・)、ね」


 鞄に付けたガイコツのキーホルダーを優しく握る。


 廊下側に座ったひとりの少女が、ドアの向こうを静かに見詰めていた。


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