<17>テストのあとで2
問題の始まりは、宇堂先生の言葉にあった。
「今日の授業はこれまでだ。明日は9時よりグラウンドで実技を始める。解散していいぞ」
「……えっ?」
唐突に発表された、“業務終了のお知らせ”。
残業どころか定時まであと2時間もある。
驚きに思わず声を漏らした俺の周囲では、なぜかクラスメイトたちがガヤガヤと動き始めていた。
「うへ~、初日から疲れたよ~。彩矢はお疲れだよ~」
「でもさー、今日は本当にスーグラさんのおかげで助かったよね」
「だねー。スーグラさんかっこよかったよー。明日も会えるのが楽しみー」
「私は明日こそ、あのステキな首筋をカプカプするんだー」
「……ねぇ、宇堂先生に通報しとく?」
「……早まってはダメよ。ひとによっては、ごほうびかも知れないわ」
「そっか、スーグラさん変態っぽいもんね。嫌がりそうなら通報。それ以外は見なかったことに」
「ええ、それが良いわね」
美少女たちが、不穏な空気に包まれながらも、数人ずつに別れて教室を出て行った。
「帰ってゲームしようぜ! スーグラさんも誘っとく?」
「今日は良いんじゃね? 疲れてるだろうし、休ませてあげた方が無難だろ」
「それもそうだな」
イケメンも、みんな笑顔で帰って行く。
「うそ、だろ……?」
気が付けば、周囲からクラスメイトが消えていた。
太陽が沈む前の帰宅なのに、誰1人として疑問を抱いていない。
もしかすると俺がおかしいのか?
そんな思いが沸き上がってくる。
俺は行く宛もなくさまよって、今日から世話になる寮の入口まで来ていた。
サングラス越しに空を見上げる。
額から流れる冷や汗を拭う。
手元のスマホを見ると、今はまだ15時らしい。
「本当に良いんだよな? あけるぞ? 本当に帰るからな?」
誰に言うわけでもないが、周囲に小さくつぶやいて、ドアノブに手を伸ばした。
ヒンヤリとした空気が流れ出し、カレーの香りが周囲を包み込む。
左手には教室サイズの食堂があり、正面には長い廊下が続いていた。
「聞き覚えのある声がするな……」
やはりみんな帰ったらしい。
下駄箱で自分の部屋を確認して、足音を立てないように廊下を進む。
ここまで来たらもう、帰るしかない。
「失礼しまーす」
小さく声をかけて、与えられた部屋のドアを開く。
中にあったのは、二段ベッドと机が2つ。
奥には畳の場所があって、2人分のタンスと小さなテーブルが置かれていた。
「ん? おっ、チョリーッス」
2段ベッドの下で寝ころんでいたイケメンが、ゲーム機を下ろして顔をあげる。
「なんだよ、相方ってオッサンだったのか」
化物から俺を助けてくれた、金髪のイケメンがそこにいた。