<16>テストのあとで
化物との逃亡劇には心底驚いたものの、橘さんから見せられた動画である程度の予想はあった。
覚悟もそれなりにはしていたつもりだった。
それはクラスメイトたちも同様なのか、誰ひとり欠けることなく、13時前には全員の姿が教室にあった。
「いやー、ほんと、化物を見た瞬間に漏らさなくて良かったぜ」
「まぁ、テストだから死なないとは思ってたけどさ。あれはマジでやばかったよな」
「ぇ? おまえら大丈夫だったの!? 俺ちょっとちびったぜ?」
「あ、いや、うん。……俺もちょっと。でもまぁ、それだけで済んだのって、やっぱスーグラ先輩のおかげだよな」
「だな。マジ感謝」
顔色も雰囲気も、悪くない。
「あのときのスーグラさん、かっこよかったよねー」
「うんうん。化物ににらまれても動けたし、最後なんて年上の魅力だだ漏れしてたよー」
「わかるー。あの後ろ姿見ちゃったら、思わず首筋をカプって甘噛みしたくなるよねー」
「「……え?」」
え?
……うん。最後の言葉は、聞こえなかったことにしよう。
流れ聞こえた話によると、他のクラスでも同様のテストが行われたらしい。
その中には化物に食われた生徒もいたが、最後は救出されて、かすり傷すらなかったそうだ。
そんな話しが伝わって来たおかげか、クラスメイトたちはみんな、高校生らしい笑みを浮かべていた。
そうして自分の席に座り周囲の観察をしていると、あのとき転んだ少女が小走りに駆けてくる。
「あのあの……、これ、もしよかったら、もらっていただけませんか……」
ショートカットの少女が可愛らしい袋を胸に抱いて、もじもじと視線をうつむかせていた。
彼女の前には、俺しかいない。
「俺にくれるのかな?」
「はっ、はい」
声をかけるとピクリと肩が揺れて、艶のある前髪が小さく揺れる。
「どうぞ!」
「ありがとう、いただくよ」
袋を受け取るときに、わざと彼女の手に触れる。
目を合わせて微笑んであげると、彼女の顔が真っ赤に染まった。
「ひゃわっ……! えっと、えっと……、ごめんなしゃい!」
ぺこりと頭を下げた少女がスカートをひるがして、自分の席へと逃げていく。
机に突っ伏しながらチラリとこちらを見上げる姿が、なんとも可愛らしい。
「……吊り橋効果、かな」
クスリと肩を震わせて、俺は袋の中をのぞき見る。
どうやら手作りのクッキーらしい。
が、なぜか形がガイコツだった。
「好きなのかな、ガイコツ……」
いや、個人の趣味に疑問を抱くのはやめておこう。
鞄にドクロのキーホルダーとか付けてるし、悪い意味はないと思いたい。
どちらにせよ、美少女の手作りクッキーだ。
あとでありがたくいただくとしよう。
そうこうしているうちにガラリと扉が開き、A4の束をもった宇堂先生が姿を見せた。
「テストを始めるぞ。席に着け」
あの鬼畜な笑みはない。
メガネもしっかりとかけている。
その姿を見てホッとしたのは俺だけじゃないだろう。
配られたテストの内容は平凡そのもので、手応えもまずまず。
英語と歴史は微妙だったが、それ以外は普通に出来たと思う。
しかしながら、この学校が、それだけで終わるはずもなかった。




