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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと人間
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03 少女の提案

「申し遅れましたな。

 ガノ、と申します。

 

 息子が世話になったようで。」


 義父(ちち)は名乗ると同時に皮肉めいた一言を付け加えた。


 落ち窪んだ眼窩(がんか)の奥から、相対するエルフへ視線が真っすぐに注がれている。

 ロランとマコの魔王城でのやり取りは当然報告している。ロランを大事に思う親心が表れたのか、それとも、相手に負い目を感じさせるための交渉術の一つか。


「いえいえ、私の方こそお世話になってますわ。」


 負けじとなのか、マコもニコニコと皮肉で返答した。

 と思ったのだが、このエルフの場合は本気で挨拶のつもりなのか皮肉のつもりなのか良く分からない。


 ガノは鼻で笑いながらマコの正面の椅子に腰かけた。

 いつまでもロランがマコの横にいるのも妙なので、立ったままガノの右斜め後ろに控えることにした。


 ガノの背後に回った時、ふと、ガノの足元にロングソードの鞘が見えるのに気付いた。マコからはテーブルの陰になりそうな位置だ。

 入室時に客人の武器の持ち込みは阻んでおきながら、自身は武器を手放さない。余りに無礼な状況である。

 何が義父をそこまで追い込んでいるのか。

 

「アストル君から話を伺った。

 何やら国の上層部の者に話が有るとか。

 私は恐れ多くもこの国の一角の統治を任せられている身。

 ご期待に添えますかな?」


「ええ、もちろん。

 話が早くて助かるわ。」


 マコは軽く前のめりになると上目づかいで義父を見た。


「早速だけど、魔王の動向を伝えるわ。」


 ロランは息をのんだ。 

 義父の顔は見えない。

 マコはニタリと笑う。


「元々のドラゴニュートの国が有ったところ、って言えば通じるのかしら。

 その近くに人間側の要塞があるでしょう?」


 ……ある。


 ロランにとって忘れられない戦場である。

 猛々しいドラゴニュートの王と対峙した場所。

 数多の騎士たちが犠牲となった強大な相手であった。

 魔族の軍の側面を突くかのように見せかけて西の山際まで軍を動かし、王が深追いしてきたところで、伏兵が仕掛けた落石の罠で孤立させた。

 圧倒的に有利な勢力差でロランは対峙したが、一騎当千とも言えるドラゴニュートの王との戦いは、今でも悪夢に見るほどの死闘となった。


 それでも、オリビアやアストル、モージたち仲間との連携によってかろうじて王を討ち果たした場所である。

 思えば、あの勝利によって戦争の形勢は人族に大きく傾いた。

 海岸と山との間に築かれたドラゴニュートの住処は物理的に魔族を守る最後の砦であったが、あの時は、ドラゴニュートの王の存在も魔族にとっての最後の砦であったのだ。


 フランリング王国が築いた要塞は、その住処に睨みを利かせられるよう、そこから北の平原に建築されたものだ。


「魔王ネオは残りの魔族を総動員してドラゴニュート王国跡地とそこの要塞を制圧するつもりよ。


 それで、その辺に国境を引きたいみたい。」


 ロランは再び息をのんだ。


 国境を引く。

 つまり、魔族の国を造るということだ。

 

 実際、ドラゴニュートの住処の所まで制圧された場合、人族がその地を奪い返すのは容易ではない。

 かつてのドラゴニュートの王より遥かに強大な魔王がいるのだから。


「なるほど、それが事実だとして……」


 ロランが一人(おのの)いていると、ガノが口を開いた。


「なぜ貴方(あなた)がわざわざここまで来たのか分かりかねる。

 その様な話であれば、我が息子に話していただければ良い。」


「まあまあ、もう少し続きがあるのよ。」


 マコは義父の言葉を聞いても全く動じていない。


「ネオは、そこに国境を引いた後、それ以上は攻める気が無いの。

 そこでこの戦争を終わらせたいと考えてるのよ。」


「何?」


「ここからが、お偉いさんに会いたかった理由なんだけど……。」


 マコはテーブルの上に両方の手のひらをぺったりと置いた。


「この辺で終わりにしない?

 戦争。」


「それは……。」


 水を差さないようにと努めていたロランだったが、つい声が漏れてしまった。


 これは、停戦の申し出である。


「なるほど。貴方は、魔王からの使者として交渉に来た、と。」


 胸の前で腕を組むと、義父が呟くように言った。

 だが、マコは眉を上げて意外そうにしている。


「あら……いいえ、私は使者では無いわ。


 これは交渉では無くて、ただの提案よ?」


 マコは飄々としている。


「どういった意味かな。」


 静かな声で義父が続ける。

 

「これまでの話では、貴方は使者として交渉に来たように聞こえた。

 我が国に国境を認めさせる、すなわち、魔族の国を認めさせること。

 そして、停戦させること。

 その交渉の為にこの様な敵地に赴いたのでは無いのかな?」


「いいえ、そこに交渉の余地は無いと思うわ。


 人間が認めようが認めまいが、ネオは国境をつくる。

 その為に、その要塞を陥落させて戦いを終える。

 もう、そのために動き出しているもの。

 だから、その部分はただの情報提供よ。」


 ロランはまた声を出しそうになったが、何も出てこなかった。

 何か言い返そうにも、あの魔王にはそれだけの力がある。そう思ってしまった。


「で、ここからが私の提案。

 

 ネオが制圧しようと考えてるのは要塞までだって分かっているんだから、さっさと逃げましょうよ。


 前の戦いで生き残った兵士たち、いえ、若者とか、神官とか、この国の国民が、まだ要塞にいるんでしょう?

 魔族の侵攻を防ぐために要塞に留まっているのなら、もう無理よ。

 ネオが直接来る。死んじゃうわ。」


 ちらりと、マコがこちらの方に目線を動かし、ロランと一瞬目が合った。

 

「こんなこと、戦場で頑張ってる人には話せないな、と思ったのよね。

 家族を失った復讐心とかがあったら話も聞いてもらえないだろうし。

 何より、軍隊を動かすような話だから、それなりに権力がありそうな人に伝えたかったのよ。


 どうかしら?」


 若干前のめりの姿勢のまま、マコは話を終えた。


 ロランは……一理あるかも知れないと思った。

 大地をえぐり飛ばすほどの魔王の力を見たことがあるロランは、要塞で防衛戦をしたとして、勝てるとは言いきれないのだから。


「ほう。なるほど、なるほど。」


 義父が低く唸った。



「一考に値する提案であろうな。


 ただし、


 貴方の話が真実であれば、だが。」



 部屋の暗い雰囲気が一層重くなるのを、ロランは感じていた。


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