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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと人間
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01 馬車の中

 王城行きの馬車の扉を開くと、ロランが手を差し伸べるよりも前にエルフはスルリと乗り込んでしまった。

 エスコートを拒まれるほど警戒されているのかも知れない。ただ、これ以上心労を増やさないために、そもそもエスコートの文化を知らないのだ、とロランは思うことにした。


 アストルは先に王城に向かってもらっている。

 直ぐに義父に会えるよう手配して欲しかったこともあるが、なにより、このエルフと同じ馬車に乗せることがあまりに失礼である、そして間違いなく気まずい。

 

「……。」


「あのアサシンさんの処遇でも考えているの?」


「……彼の名はアストルだ。」


 一言だけ返して、ロランは頭痛を感じてこめかみに指を当てた。


「黙っておけばいいじゃない?」


「え?」


「誰も言いふらさないわよ。多分。

 それに、私は別に彼の選択が間違いだったとは思わないわ。」


 動き出した馬車の中で、エルフがニタリと笑った。


「客観的に見たらさ、作戦を妨害した過去があるエルフ、それも厄介なことに実力もあるエルフなんて、さっさとどうにかしちゃった方が安全じゃない。

 それも、これから魔王討伐作戦だって時だもの、なおさらよね?」


 もはや、異常にも思える客観視だった。

 自分が毒を盛られたというのにこの落ち着き。この状況を俯瞰で見ているかのような。


「君は、達観しているな。」


 ロランは自嘲の混ざったため息をついた。


「君のことを教えてくれないか?マコさん。」


「あら、私と仲良くでもなりたいのかしら。」


「可能ならば。」


「そう。


 そうね、毒入り紅茶を飲んで見せた誠意には答えきゃね。」



 エルフは笑うのをやめた。



「私と魔王は、ココとは異なる世界の存在よ。

 この世界には召喚されてやってきた。」


「異世界の存在。二人とも?」


「ええ。魔王ネオは神さまに召喚されたらしいわ。

 そして私は、そのネオに召喚された。」


「……。」


 ロランは言葉を失った。

 衝撃的だった。

 過去に現れた聖人は、神によって召喚された異世界の存在かも知れないという話は聞いていた。

 だが、彼女の言葉を信じるのであれば、魔王こそが聖人に該当する存在ということになってしまう。


「ほ、本当なのか。

 神が魔王を呼び寄せた、と。」


「信じられないわよねぇ。

 まあ、私も魔王から聞いただけだからね。神さまとは会ったことないわ。

 たくさんの魔力があって、幾つかの魔法が使えれば異世界からの召喚は出来るみたいだから、話半分って感じね。」


 ロランは少しホッとしたが、マコは話を続けた。


「だけど、もし本当なら、神さまの気持ちも分からなくは無いわ。

 このままだと、魔族が絶滅するかも知れないのだもの。


 神さまは人も魔族も居るこの世界を作ったんでしょう?

 もし、人も魔族も居るこの世界が好きなんだとしたらーーどっちかが不味いことになってたら助けちゃうんじゃない?」


「魔族が優勢な時は、人族のために聖人を召喚し、

 人族が優勢な時は、魔族のために魔王を召喚する、と?」


「そうかもね、って話よ。

 私の世界じゃ、神さま居るか居ないかも分からなかったし、少なくとも、こんな露骨に人の世界に介入するようなことは無かったわ……たぶん。」


 その時、馬車が速度を落とすのを感じた。

 第二の門を通行するようだ。

 王城を守るのが第一の城壁と門であり、その周りにある貴族の邸宅などを囲っているのが第二の城壁と門である。

 義父は王家に連なる者であるため、城内に居室がある。

 城まで、あまり時間はない。


「じきに城に着くでしょう。」


 そうマコに一言告げ、車窓から外の兵士に会釈をしてから、ロランは話を戻した。


「……もし、君の言う通り、劣勢側に神が力を貸すのだとしたら、私達は永遠に争い続けることになってしまう。」


「そうじゃ無いでしょう。


 まあ、そうすることも出来るでしょうけど。」


 ロランが目を遣ると、マコは窓の外を眺めていた。


「私、この世界に来てから、自分が何をしたいのか考えてみたの。

 まあ、答えはまだ出ていないんだけど。

 それでも、とりあえずこの戦争は止めたいと思ったのよ。それも、人族が勝ちとか魔族が勝ちとかはどうでも良くて、出来るだけ両方が死なないうちにね。」


 マコが振り向いた。


「だって、人も魔族もいる世界のほうが、絶対面白いんだもの。」


 少女は満面の笑みだった。

 表面的で社交的な笑みでもなければ、挑発的でもなく、悪巧みでも冷ややかでもない。

 初めて、彼女の本心に触れたように思えた。

 これまでの争いで死んでいった者たちを思えば、ただちに賛同するようなことは出来ない。それでも、その想いを否定はできない。それほどまでに、少女の顔は眩しかった。


 魔王を召喚した神の話については、これ以上触れる意味は無いように思えた。それに、マコが魔王に召喚されたことについても確認しておきたいことがある。


「ありがとう。

 あなたの気持ちは分かった。


 これまでの話で、あなたがギルドで言っていた『人の味方になるとは約束はしていない』という話の意味も理解できた。

 魔王に召喚されたが故に、あなたは魔王の命令に逆らうことが出来ないのだから。」

 

「……。」


 マコは無表情になってロランを見つめてきた。

 すこし気まずくて目を逸らしたロランは、これまでの情報をまとめようと努める。


「そもそも召喚魔法に組み込まれている『召喚された存在は召喚士の命令に従う』という効果は非常に強力で、後から別の魔法で打ち消すようなことができないと聞く。

 そういった状態なのであれば、あなたのこれまでの行動にもいくらか説明がつけられる気がする。

 あなたが人族と魔族の共存を望んでいることも加味すれば、それほど違和感は……どうかしたのか?」


 ぽかんと口を開けたマコと目が合った。

 

「……ネオもそんなことを言っていたわ。いつだったかしら。」


「あなたの行動にも説明がつけられる、と?」


「いえ、その前の部分……。」


 そう、マコはつぶやくように言うと、窓の外に目を遣り、手の甲をあごに当てて考え込んでしまった。


 もう、第一の門は目前だった。

 そろそろ馬車を降りなければならない。


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