10 面接の始まり
「顔見知りがいて助かるわ。
自己紹介はしなくても良いかしら。」
そう口にしたシスタージーもフローレに匹敵するほど呑気に見える。
ロランやアストルの様子を見る限り、何か異常な事態が起きていることはフロリマールにも感じ取れた。だが、どんな事態なのかは全く読めない。
全員立ったまま、ほんの短い間、無音の時間が流れた。
一瞬、ロランの視線が自分に向いたことにフロリマールは気付いた。フローレが不思議そうに頭をかしげた時、ようやくロランが口を開いた。
「……できれば、何故君がココにいるのか聞かせてもらえないだろうか。シスタージーさん。」
可能な限り平静を保とうとしているのが分かる。だが、名前を呼ぶ声に少しばかり力が入っている気がする。
それでも困惑した様子が隠しきれないロランの問いに対し、シスタージーは飄々とした雰囲気を崩さない。
「……ええ、いいわ。」
シスタージーはニコニコとした表情を崩さないまま、一瞬の間をおいてから続けた。
「私、この街に来て、ごらんの通りシスターとして働いているの。まあ、この世界のこともちょっとは分かったってところかしら。
そーしていたら、この国のある程度偉い人にお話ししておきたいことができちゃって。
そういう人に会えないかアテを探していたら、ここにたどり着いたって訳。
勇者さまがいるとは思わなかったけど。」
このエルフの経歴は知らないが、フロリマールは”この世界”という言い回しが少し気になった。まあ、エルフの里の暮らしと人間の都市での暮らしのことを別世界の様に例えたのであればおかしくは無いか、と思い至ったところでフローレの声が聞こえた。
「わたしも知りませんでした。
ロラン様が直接面接する、なんて話題になったら騒ぎになりますから、ギルドも隠していたんでしょうね。」
世間話のように口を挟むフローレは、ロランから醸し出ている緊張感に全く気が付いていないようだ。ちょっと黙っているように伝えようとフロリマールが口を開きかけたが、ロランの方が先だった。
「……すみません、フローレさん。
フロリマールと貴方の実力はよく存じ上げていますから、採用間違いなしです。
ですので、シスタージーとの面接を主にさせてください。
では、どうぞ、お掛けください。」
柔和な笑みを作りながら向かい側のソファに腰かけ、ロランはシスタージーに座るように促した。緊張感が薄らいだようにも見えるが、おそらく演技。
一言も話さないアストルは、ロランの座ったソファの後ろで、立ったまま執事のように控えた。
今の短いやり取りで、フロリマールは何となく感じ取った。
おそらく、ロランにとって自分たちにはあまり聞かれたくない話をこのエルフがするのかも知れない、ということだ。
そして、ロランは一旦シスタージーとして話すように求め、このエルフもそれに応じた、と言うのが今のやり取りだ。そういうことなら話は早い。
「採用間違い無しなら、私とフローレはお先に退出させてもらおうかな。」
フロリマールは気を遣って退出を申し出た。
そうすれば、国家機密なりエルフ達の機密なり自由に話せるだろう。
「や、時間があるなら一緒に居てくれ。
一緒に戦うことになるかも知れない相手だ。いいだろ?
ちょっとギルドにお茶を出してもらうよう頼んでくるからよ。」
引き留めたのはアストルだった。
なぜ?とは思った。フロリマールやフローレが力になれることなんて戦いの場ぐらいである。なにか、そんな事態が起こるかも知れないとでも思っているのだろうか。
違和感を覚えたが、この後の予定も無いのでとりあえず了承した。
アストルがお茶の注文のために部屋を出ていく。
ごく自然にシスタージーが部屋の入口に一番近い位置に座ろうとしたの見て、ロランの表情が急に険しくなった。
危機感を露わにしている。エルフが出入口近くに居て何か不安になることなどあるだろうか。
いや、無い。
ただ、フロリマールは空気を読んだ。エルフを制止し、ドアから遠いほうに座わるようエスコートした。
ロランに雑談を止められしょんぼりしているフローレを入口側に座らせた。ソファを傷付けかねないカチカチの防具を身に着けているフロリマールは、先ほどのアストルをマネて、座っている二人の後方、ソファの後ろに立つことにした。
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お茶の注文を終えたアストルが戻ってきて、座っているロランの後ろに立つ。
そうしてから、ロランがシスタージーに問いかけた。
「君がここに居る、ということは、人間の味方になってくれると解釈して良いのだろうか。」
「あら、私がギルドの受付さんから請け負ったのは『魔王の討伐に参加する』ってことよ。
人の味方になるなんて、約束してないわねえ。」
「それは、同じ意味では無いのか?」
「さて、どうなのかしら。」
「それは……少なくとも魔王の討伐隊に加わってくれる、と解釈して良いのか。」
「ええ、構わないわ。」
「……それだけでも、喜ばしいことだな。」
「ふざけるな!」
不穏な空気を隠しもせず静かに話し合うロランとシスタージー。
そこに、荒げた声で割り込んだのはアストルだった。
「こんな奴を同行させてみろ!どんな妨害をされるか分かったもんじゃない。そうじゃなくとも、魔族に俺たちの情報を流されるだけで不利になるぞ!」
「やめろ、アストル。王の意向を忘れたのか。」
「だとしても!」
「やめてくださらない?」
シスタージーが慇懃に制止した。
「わたし、討伐隊に参加できるかどうかはどうでもいいのよ。」
「なら!なおさら!何考えてんだ!」
「だから、この国の上の方の人に伝えたいことがあるのよ。
私の話、聞いてた?」
『コンコン』
更にヒートアップさせそうなエルフのセリフの後、応接室のドアがノックされた。
「失礼します。」
ドアの向こうからギルドの職員の声。お茶を運んできたのだろう。
「どうぞ。」
ロランは冷静に入室を許可した。
アストルは先ほどの興奮がウソのように静かになった。




